各社の業績が回復基調に

 2021年1~3月期の決算発表が一巡した。石油化学や電子材料で、新型コロナウイルス(以下コロナ)による需要減からの正常化の局面が続いており、同期の各社決算は総じて堅調であった。21年度も需要回復傾向が続き、業界の業績好調が予想される。

 電子材料では車載向け需要拡大等で、ウエハやフォトレジスト等の半導体材料の需要好調が続いていることが各社決算で確認できた。SUMCO や信越化学工業等が生産する半導体ウエハについて、300mmウエハ需給はロジック向けエピタキシャルウエハが業界としてほぼフル稼働で、3月末の顧客の在庫も20年12月末比で減少している。200mmウエハも自動車向け等の需要拡大から需給均衡に向かっている。

 信越化学工業や東京応化工業、JSR等が取り組む半導体用フォトレジストについても、EUV(極端紫外線)やArF、KrF 等の波長の光源に対応した製品の需要拡大が続いている。

 ディスプレイ材料では野村が懸念していた半導体不足によるPC やテレビ等セット生産の伸び悩みの悪影響は足元ではあまり見えていない。一方、足元で台湾やベトナムでコロナの感染が拡大しており、セット生産の下振れ懸念に伴うディスプレイ材料への影響には注視したい。

 総合化学でも、米国や中国等での需要回復の恩恵を享受している企業が多い。三菱ケミカルホールディングスは、MMA(メタクリル酸メチル)や中国向けニードルコークス等多くの製品の事業環境が改善傾向にあり、ギルソン新社長によるポートフォリオ改革進展の可能性にも注視したい。

 信越化学工業や東ソーが生産する塩ビ樹脂は、21年にかけても業界の新規生産能力増が限定的であり、22.3期も高水準の採算持続が期待できよう。三井化学も、ビスフェノールA 等の石化市況が好調である。

 旭化成が生産している石化のアクリロニトリルは、米テキサス州の寒波の影響が沈静化しつつあり、今後業界の生産量増が見込まれることから、今後採算は悪化が見込まれるが、自動車向け部材等の需要は改善しよう。住友化学も石油化学や農薬等の需要が堅調であろう。昭和電工では、半導体材料や黒鉛電極の需要が拡大している。

繊維ではテレビ向け需要等が好調

 繊維ではテレビ等の最終需要はコロナによる巣ごもり効果で好調である一方、半導体不足によるテレビやスマートフォンの生産伸び悩みの悪影響を野村では懸念していたが、クラレ等のディスプレイ材料の販売については、各社の1~3月期決算や4~6月期の見通しからは、そうした悪影響はあまり見えない。一方、足元で台湾やベトナムでコロナの感染が拡大しており、セット生産の下振れ懸念には注視したい。

 22.3期の東レについては自動車向けABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂等の需要拡大は期待できるが、航空機向け炭素繊維の需要減は続くと見られ、また原料高も業績悪化要因となろう。

 22.3期の帝人については、アラミド繊維等の需要回復は期待できる一方、21.3期に販売が急拡大した医療用ガウンの販売が一巡しよう。

 ファインケミカルの21年1~3月期決算では米国・欧州関連事業の改善が目立った。日本酸素ホールディングスの産業ガスや、DIC のインキ等である。製品別では、引き続き半導体やディスプレイ関連が好調で、これら向けの売上構成が高い日産化学、東洋紡等の業績が好調だった。

 市況品関連ではカネカの塩ビ、三菱瓦斯化学のメタノール等が1~3月期に利益が大きく改善し、引き続き好調を維持していると見られる。

 一方で、まだ回復が鈍い衣料品や化粧品関連は、22年にかけての業績回復要因となろう(関連企業は東洋紡、DIC 等)。

 関西ペイントについては、インドでのコロナ感染の再拡大による需要伸び悩みは懸念である一方、日本や欧州、アフリカ等での市場シェア増やコスト低減活動は評価できるだろう。

(岡嵜 茂樹、河野 孝臣)

※野村週報2021年6月7日号「産業界」より

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