ワクチン普及とリオープンの賞味期限

 日本株は、3月下旬から5月半ばにかけて主要国株式市場で「一人負け」となった後、徐々に失地を回復し始めた。①ドル高・円安の再開、②新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染およびワクチン接種状況の改善、③堅調だった企業決算・新年度業績会社計画への好評価の広がり、といった要因が作用しつつあろう。

 夏場にかけては、日本のワクチン接種加速にともなう「リオープン」(行動制限の解除)への期待が株価に影響し続けると予想される。1日当たり、人口100人当たりの接種ペースをみると、日本は5月の連休明けに加速し始め、同月末には米国を逆転した。外国人投資家が、ワクチン接種の遅れを理由に日本株を忌避する状況は解消されつつあろう。

 コロナ感染の縮小およびワクチン接種の普及に反応しやすいセクターはどこか。コロナショック(2020年2月)以降の月次の株価パフォーマンスを、「感染縮小(期待)局面」と「それ以外」に分け、格差を計測した。数値が大きく、感染縮小の恩恵が最も強く及びやすいセクターは運輸と不動産だった。逆に、メリットが最も小さいセクターは、半導体・半導体製造装置、電気通信サービスである。

 この対比は、コロナ禍がもたらした消費行動の変化と密接に関係している。つまり、人対人のコミュニケーション手段は、対面からオンラインにシフトし、人の移動が抑制されるほどデジタル関連製品への需要が高まったという構図である。

 リオープンをテーマとしたセクター戦略の賞味期限ついては、ワクチン接種で先行した米国の事例が参考となろう。米国では2月以降、ほぼ一貫して運輸セクターのパフォーマンスが良好な状況が続いている。一方、半導体セクターは、グローバルに連動していることが特徴的だが、米国では2月後半以降、パフォーマンスが低迷している。この時間軸から判断すると、リオープンをテーマとするセクター戦略は少なくとも3カ月程度は賞味期限があるだろう。

 日本株では4月後半から運輸の好調、半導体の不調の傾向が表れ始めており、この点を踏まえ、7月半ばまでは両者のパフォーマンス逆行は続くとみる。

中長期はコスト削減効果に注目

 中長期の投資テーマとしては、日本企業のコスト削減効果が重要だろう。「コロナ禍」の影響が全面的に表れた20年度通期決算を精査すると、コスト削減による収益性改善が顕著である。ラッセル野村大型株指数(以下RNL)構成銘柄を対象に、各社が開示している20年度のコスト削減などの収益性改善効果を集計すると、20年度の経常利益を約11%押し上げた計算となる(ソフトバンクグループを除くベース)。需要減による利益の押し下げの一部をコスト削減が打ち消した格好である。

 コスト削減は当該期の利益を押し上げるだけでなく、翌期以降にも影響する点が重要だ。RNL 構成銘柄と、そのうち前期の販管費減少率の大きい銘柄を対象に、過去3カ月の間に税引利益予想が上方修正された銘柄数比率を見ると、後者は全体より同比率が高く、アナリストが業績予想をより上方修正しやすい傾向がある。コスト削減で収益性が改善した企業では、売上高成長がより利益に結び付きやすくなり、アナリストの想定を上回りやすい傾向にもつながることが考えられる。

 予想増収率が高い銘柄の対TOPIX(東証株価指数)平均パフォーマンスを、今期と来期予想のそれぞれについて検証した。予想増収率のみに注目した銘柄選別のパフォーマンスを確認すると、対象期間中、来期の予想増収率が高い銘柄はTOPIX をアウトパフォームした一方で、今期の予想増収率が高い銘柄はTOPIX 並みのパフォーマンスであった。来期業績は市場に織り込まれていない部分があるためと考えられる。

 注目されるのは、予想増収率に加えて、コスト削減を考慮するとパフォーマンスが改善する傾向がある。①予想増収率が高く、②前期に販管費の減少率が大きかった銘柄群の、対TOPIX パフォーマンスを確認すると、単に今期(来期)予想増収率を考慮するよりもパフォーマンスが高い傾向があった。前述したように、コスト削減をした企業では売上高が伸びる局面にアナリストの予想が上方修正されやすい。固定費率の低下などで利益成長が従来想定を上回っていると見られ、より高いパフォーマンスの要因になっている可能性がある。

 来期予想増収率が高く、前年度に販管費の減少率が大きかった銘柄について決算発表資料等で集計すると、20年度売上高比で平均3.6%のコスト削減を実施している。コロナ禍でコスト削減を実施し、かつ先行き売上高の回復が見込める企業が有望であろう。

(池田 雄之輔)

※野村週報2021年6月21日号「焦点」より

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