建築では受注環境の好転に注目

 2021.3期は新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染拡大により、建築では受注が減少したことに加えて、コロナとは直接の関係はないが、21.3期、22.3期と大型再開発案件の竣工が少ない影響で、建築の売上高がゼネコン各社で減少し、野村カバーの各社では減益決算となる会社が多かった。一方、土木では公共向けが多く、18年度補正予算以降で増加した公共事業費の恩恵をうけて、業績は建築に比べて堅調に推移した。ただし、足元では顧客の設備投資動向の改善と連動して、建築の受注にも改善の兆しが出てきており、22.3期は土木から建築へと受注の改善が広がる時期と考える。

 建築全体の受注環境は、20年はコロナの感染拡大をうけて、顧客の設備投資の見合わせが発生して悪化したが、21年以降では、大型再開発案件の継続や、製造業向けの設備投資動向の改善を受けて、回復すると野村では予想している。20年の受注環境の悪化は大手各社の先行きの見通しに影響し、受注競争に拍車をかけた面はあったと考える。ただし、21年1月から大手50社受注は前年同月比で増加しはじめ、3月には複数の大型案件の受注計上も見られたことから、各社の見通しも好転したと考える。22.3期の建築粗利率は過去の受注案件の影響を受けるため低下リスクはあるが、22.3期の受注については引き続き高水準での推移が見込まれる。各社とも大型の手持ち工事が増えており、施工能力もひっ迫しつつあるため、今後の受注時の競争は悪化するよりも緩和する可能性が高いと野村では考えている。

 土木では21年度の当初予算で公共事業関係費は6.1兆円となり、19年度、20年度の各々6.9兆円の水準から減少した。21年度も補正予算での措置が見込まれることや、予算の繰越額も増加傾向にあるため、公共工事の発注額に結び付く支出済み総額がただちに減少するとは考えにくい。ただし、これまでの公共事業関係費の水準は高く増加傾向が続くのも難しい状況にあり、天井感はあるだろう。そうした環境下で、土木比率の高い官需専門工事では公共事業予算とは連動しない高速道路向けでの受注獲得が利益成長のためには従来以上に重要となるだろう。

ESG 経営の注目点、脱炭素に事業機会

 ESG 経営の注目点として、E(環境)は再生可能エネルギー関連やZEB(ゼロエネルギービル)、S(社会)では業界全体で推進する働き方改革、G(ガバナンス)では資本コストを意識した経営が挙げられる。

 環境の観点では、脱炭素への取り組みが事業機会の拡大につながるだろう。環境に配慮した社会の形成のため、従来から取り組むZEBなどの環境配慮型の建築物や、建築技術の市場価値が今後高まる可能性はあるだろう。また、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)に向けた取り組みの中で、洋上風力などの再生可能エネルギーの導入に伴う事業機会の拡大も見込まれ、各社では洋上風力発電設備の建設に向けて、作業用のSEP(自己昇降式作業台)船の建造を進めている。各発電案件への参画や、設計、調達、施工(EPC)業務の請負に加えて、送電網の拡充などにおいても、ビジネス拡大の機会があるだろう。直接的な温室効果ガス削減に向け、各社では現場や事務所での様々な取り組みを進めている。具体的には重機や建機、車両などでの燃料油の使用や、作業所における電気、水、紙の使用などの抑制を進めている。

 社会の観点では、リスクとして恒常的に重要な労働安全性の確保に加えて、長期にわたる人手不足や働き方改革への対応が挙げられる。足元では建築着工床面積の減少を受けて、技能労働者の需給は緩和しており、人手不足は喫緊の課題とはなっていないと考えるが、長期的には高齢化の進展により、担い手不足が顕在化するリスクはあるだろう。また24年3月まで建設業では例外適用となっている働き方改革についても、24年4月以降は対応が必要であり、十分な工期の確保と生産性の向上が急務となっている。各社では人材の確保や技術力の向上による生産性の改善に努めているが、それだけでは十分とは言い切れず、工期の確保について顧客の理解を求める受注活動がこれまで以上に必要となるだろう。

 ガバナンスの観点では、資本コストを意識した経営の重要性が増しており、キャッシュ活用と株主還元には引き続き注目が集まるだろう。投資を通じて企業価値の向上を図る各社では、投資リターンやその時間軸での貢献イメージに関して、市場との対話が重要となってくるだろう。開発事業や再エネ関連への事業投資、スタートアップ企業への投資が行われる中、各社の特徴によりどのような優位性が発揮されるのかに注目したい。

(前川 健太郎)

※野村週報2021年6月21日号「産業界」より

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