臨床試験成功率が高かった日本企業

 2021年初来割安株へのシフトが続いているが、医薬品の株価推移を見る限りアップサイドもダウンサイドも新薬パイプラインイベントが最大の材料であり、今後もこのトレンドが続こう。特に抗体やADC(抗体薬物複合体)などバイオ医薬品による業績成長期待が高まりやすく、一つの創薬技術から複数の新薬の開発を持つ企業の株価パフォーマンスが最も良好であった。

 17.3期~21.3期に臨床入りした薬剤のうち、P1(フェーズ1)→ P2→ P3へのステージアップを成功と定義して分析したところ、日本企業と欧米大手企業6社の総合的成功率に大差は無く、むしろ日本企業の成功率が若干高かった。領域別では希少疾患とがんが最も高く、モダリティ(治療手段)別では低分子化合物の成功率が高かった。欧米ではバイオ医薬品の成功率が高い傾向が見られるが、日本企業は臨床入り前に低分子化合物を検討していることが窺われる。「丁寧なモノづくり」は医薬品の開発にも及んでおり、日本企業の開発力は高い水準にあろう。

医薬品業界の複数の注目転換点

 市場の見方が変わりうるパイプラインイベントとして、22.3期上期では、塩野義製薬の新型コロナウイルス(以下コロナ)治療薬の臨床試験開始が挙げられる。

 22.3期下期または通期では、特に日本新薬のデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬において、複数の薬が臨床入りすることや、Exon 44スキップ薬のNS-089の医師主導試験結果にも期待したい。

 22年に血管運動神経症状を対象としたfezolinetant や胃がん治療薬IMAB362のP3試験結果発表を控えるアステラス製薬も注目したい。

 今後、発作性夜間ヘモグロビン尿症を対象としたcrovalimabや視神経脊髄炎関連疾患を対象としたsatralizumabなどの適応拡大P3試験追加とP1試験段階の薬剤データ開示が期待される中外製薬、血液Aβ検査の浸透に伴うエーザイのアルツハイマー病治療薬aducanumab の浸透、ナルコレプシー治療薬のTAK-994やTAK-981など次世代を担う薬剤のPOC(有効性実証)試験結果が控える武田薬品工業にも注目したい。

医療機器業界の転換点

 医療機器の新製品は業績貢献が限定的で、医薬品企業のような転換点にはならないであろう。医薬品企業とは異なり、医療機器企業では、長期にわたってTOPIX(東証株価指数)をアウトパフォームする企業が多い。この最大の要因は直販開始であるが、新製品効果、制度変更、企業変革など牽引役は医薬品よりも多岐に亘っている。

 アンダーパフォームしている企業は少ないが、18年末のシスメックスのように市場の事実誤認で株価が下落した場合もある。現在、朝日インテックは中国の国産品集中購買による価格下落が懸念材料となっているが、同社しか作れないガイドワイヤの価格下落幅は限定的であろう。

 朝日インテックの数多くあるパイプラインの中でも、最も期待が高い製品がPlasmaWire である。

 PlasmaWireはCTO(慢性完全閉塞病変、3カ月以上にわたり冠動脈が閉塞している病変)内で血栓にラジオ波を照射し、ガイドワイヤの通路を確保するワイヤである。CTO 手技は術者の腕が問われる難しい手技であったがPlasmaWire の開発によりCTO手技がやりやすくなることが期待される。

医療機器各社の成長の牽引役

 テルモのラジアル手技の普及、栄研化学の便潜血検査の普及、朝日インテックのペリフェラル・ニューロ領域への進出とPlasmaWireのP3試験開始は特に業績成長の牽引役として大きなインパクトが期待され、注目に値しよう。

 テルモの最大の成長の牽引役は手首からカテーテルを入れるラジアル手技の普及である。一般的に、テルモの心臓血管向け手技においてラジアル手技(TRI)の活用が広がっていることは認識されているが、野村ではペリフェラル(足の血管)と腹部(肝がんの治療)においてもラジアル手技が広がる可能性が高いと考える。またTRIではTRI 専用の高付加価値アクセス製品の販売にとどまったが、ペリフェラル領域や腹部領域ではラジアル手技専用のステント、バルーンカテーテル、ビーズなど治療用のデバイスの拡販にもつながろう。

 栄研化学の便潜血検査の世界市場シェアは6割超である。長期的に優位が維持されると見られる。特に同じ自動検査機で実施できるCalprotectin 検査は炎症性腸疾患の診断に有用であり、患者が多い欧米での中長期展開が重要であろう。

(甲谷 宗也)

※野村週報2021年7月26日号「産業界」より

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