ブラジルでは、10月2日に4年に1度の大統領選挙が実施される。ボルソナロ現大統領は、新型コロナ禍での政策対応の不備から求心力を著しく低下させており、直近の世論調査における政権支持率は不支持率を大きく下回っている。

 再選を目指す現政権は、前労働党政権の看板政策であった低所得者向け現金給付プログラム「ボルサ・ファミリア」の後継として、支給額と対象世帯を拡充した「アウシリオ・ブラジル」を導入し、国民の支持つなぎとめを図っている。

 新たな社会保障プログラムへの財源を確保するため、連邦議会では憲法が定める歳出上限(歳出の伸びを前年のインフレ率以下に抑える)を一時引き上げる法案が成立する運びとなり、市場では財政規律の維持が困難になるとの懸念が強まっている。

 折しもブラジルは、インフレ率が前年比で2桁台となる数年ぶりの物価高に見舞われている。中央銀行は政策金利を2021年に2.00%から9.25%へ引き上げ、金融引き締め姿勢を強めてきた。米金融政策正常化が進むと想定される中、ブラジル中銀が利上げを継続して高金利を維持すれば、資金流出に一定の歯止めをかけられると見られる一方、急速な金融引き締めは新型コロナ禍から立ち上がりつつある経済の回復に水を差す可能性が指摘される。ブラジル中銀による民間エコノミスト調査では、22年はほぼゼロ成長が見込まれている。

 高インフレや金融引き締めに伴う景気低迷が予想され、政策転換を求める声が高まる中、ボルソナロ大統領の対抗馬として有力視されるのがルーラ元大統領である。同氏は02年の大統領選に勝利して03年初めから2期8年大統領を務め、資源ブームを追い風にブラジル経済を高成長に導いたことに加え、前述の低所得者向け現金給付策により社会保障を充実させたことにより高い人気を誇った。前回18年の大統領選では出馬を表明するも、汚職事件への関与から収監され、投票日の約1カ月前に高等選挙裁判所から立候補を却下された経緯がある。経済的な苦境打破のため、ブラジル国民の政権交代に対する期待は高まるものの、物価高騰の抑制、財政悪化懸念の払しょく、成長回復と多くの課題を抱える中、ブラジル経済の舵取りが容易ではないことには留意したい。

(投資情報部 野手 朋香)

※野村週報 2022年1月17日 号「投資の参考」より

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