財消費が強く、米国の港湾は混雑

 日系の大手海運会社が出資するコンテナ船会社ONE(Ocean Network Express)の利益拡大が継続している。米国を中心に耐久消費財などモノの消費が拡大、コンテナ船の輸送量が増加している。その結果、米国西海岸の港湾では混雑や滞船が増え、高いコンテナ船運賃水準が定着している。

 代表的な運賃指数である上海発のコンテナ船運賃(2009年10月16日=100)は、21年9月末から10月に一旦軟化したものの、最新値の1月14日に5,094と上昇基調にある。野村では、新型コロナウイルス(以下コロナ)禍が収束しても、ニューノーマル(新常態)としてコロナ前を上回るコンテナ運賃水準が定着するとみている。

 米国西海岸では、港湾の混雑に伴う荷下ろしの作業の効率低下で、内陸部へ運ぶための鉄道輸送の輸送量が落ちている。またトラック輸送ではトラックドライバー不足から輸送量がコロナ前の水準を下回っている。米国での財に対する強い需要や供給面での課題が解消しない限り、高いコンテナ運賃が継続しやすい。

 なお、コンテナ船業界では、企業間の合併、サービスの集約が進み、需要に合わせた供給管理が可能となっている。

 09年以降に大型の船が大量発注されたことにより、需給バランスが悪化し、大きな損失が発生することがしばしばであったが、その後の再編でアジア発北米向け航路の主要船社は15年8月の16社から20年8月は9社となり、大手船社が各社と同盟を組み提供するサービスも4つから3つへ集約された。この業界再編の過程で、日本郵船、商船三井、川崎汽船も17年7月に新会社のONEを立ち上げ、各社のコンテナ船事業を同社へ移管した。

 ONE は欧米のコンテナ船会社に比べてコンテナ船輸送の需要の強いアジア北米航路の比率が高く、利益率上昇が競合他社に比べても大きい。21年7~9月期のONEの売上高純利益率は55%と前年同期の16%を大きく上回った。22年秋ごろからコンテナ船市況が軟化してくるとみているが、23.3期、24.3期にそれぞれ純利益率を51%、41%、コロナの収束がある程度進んだ25.3期でも26%とコロナ前に比べ高い利益率を達成できるとみる。

日本郵船と商船三井に注目

 野村では、22.3期の経常利益予想を、日本郵船が8,343億円、商船三井が5,726億円、川崎汽船が4,999億円と予想し、日本郵船と商船三井に注目している。

 日本郵船は海運事業でだけでなく、航空運送事業が国際旅客便の削減による貨物スペースのひっ迫により運賃高騰の恩恵を受け、同事業の利益拡大が続いている。

 商船三井は21.3期に低迷した鉄鉱石などの資源を運ぶドライバルク船や自動車船の回復や、LNG(液化天然ガス)の輸送に関する長期契約の獲得も進んでいる。

 今後の注目材料は、持分法適用会社ONEから親会社への株主還元である。ONEには日本郵船が38%、商船三井、川崎汽船がそれぞれ31%出資し、各社の持分法適用会社となっている。そのため、ONEの業績拡大は、株主である3社の単体の業績、財務の改善に直接寄与しておらず、同社からの配当が重要である。

 ONEは21.3期分の配当として、純利益に対し20%分を支払ったが、ONEの自己資本は、21.3期末に配当支払い後で53.06億米ドル(1ドル112円で換算して6,000億円弱)と推定される。22.3期には利益の拡大で自己資本が124.36億米ドル(日本円で1.4兆円弱)とさらに蓄積していくとみている。ONE の剰余金が株主に還元されれば、日本郵船、商船三井の財務の改善につながり、なおかつ各社の株主還元の原資となろう。

 野村ではONEからの配当が22.3期から配当性向50%程度で支払われると前提を置き、22.3期に71.30億米ドル(日本円で8,000億円弱)が3社の株主に還元され、それぞれの株主還元や投資の原資となるとみている。商船三井と川崎汽船は22.3期決算後に中長期の見通しを示す予定であり、株主還元や環境対応のための投資に注目が集まるだろう。

 野村では、中期的にコンテナ船運賃の軟化でONE の業績がピークを打つとみるが、日本郵船と商船三井はコロナ前に比べて高い株主資本利益率(ROE)を維持でき、株価純資産倍率(PBR)の観点で割安感があると考える。また、22.3期の配当予想に基づく利回りでも他の運輸の会社や上場企業の中でも魅力的であろう。

 株式市場では、コロナ後のコンテナ船運賃が読みづらく、投資しにくいとの見方が一定程度あろう。この懸念は、コロナ前の運賃水準には戻りにくくニューノーマルに移行したと認知されることで、徐々に払しょくされるとみている。

(エクイティ・リサーチ部 廣兼 賢治)

※野村週報2022年1月24日号「産業界」より

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