グリーン水素

CN実現に向け水素の活用が期待される

 2050年までのカーボンニュートラル(以下、CN)実現に向け、世界の主要各国・地域で取り組みが積極化しています。こうした中、環境にやさしい新エネルギーとして期待されているのが水素の活用です。

 水素エネルギーの大きな特性は、輸送や貯蔵面での優位性です。細かな送電網がなくても、高圧ボンベやタンクローリー車で供給することが可能です。利用先としては、FCV(燃料電池車)や燃料電池バスが代表的です。また、技術的な問題などにより、電化が難しいとされる航空機や船舶などの分野でも、それらに搭載される内燃機関で水素をエネルギーとして活用することもできます。

CO2を排出しないグリーン水素

 燃焼時にCO2が発生しない水素ですが、生産過程でCO2排出を伴うか否かで主に3種類に分別されます。

 再生可能エネルギー(以下、再エネ)を用いた水の電気分解によってCO2を排出せずに作られるものを「グリーン水素」、化石燃料由来ではあるものの、CCUS(CO2回収・利用・貯留技術)などと組み合わせることでCO2排出を抑える「ブルー水素」、化石燃料由来でCCUSなどを行わないものを「グレー水素」と呼びます。

(注1)全てを網羅しているわけではない。
(注2)「MCH(メチルシクロヘキサン)」とは、水素にトルエンを添加させた液体のこと。「CCS地中貯留」は回収したCO2を地中に貯留すること。
(出所)経済産業省、各種資料より野村證券投資情報部作成

CN実現にはグリーン水素への転換が必要不可欠

 2020年の世界における水素需要量は9,000万トンとなっています。しかし、その多くは化石燃料から生産されたグレー水素であるため、生産過程において、9億トンものCO2が排出されています。

 2050年にカーボンニュートラルを実現するには、水素の生産量を5.3億トンにまで拡大させ、その内3.2億トンをグリーン水素によって生成しなければならないと、IEA(国際エネルギー機関)の策定したロードマップでは予測されています。水素利用の拡大とともに、グリーン水素への転換が求められています。

グリーン水素普及に向けた当局の動向

 IEAによると、2021年10月時点で17の政府が水素戦略を策定しており、少なくとも370億米ドル規模の投資が公表されています。

 また、欧米の政府当局を中心にブルー水素への環境基準の強化も進んでいます。化石燃料の採掘から水素を製造するまでのCO2をどれだけ減少させれば「クリーン」であるという国際基準は存在しておらず、これまでは欧州の企業団体「サーティファイ」が定めた基準(CO2を6割削減)が意識されてきました。しかし、EU(欧州連合)の欧州委員会は2022年1月、「EUタクソノミー規則」において、CO2を7割超減らした水素をクリーンとみなす規則を施行しました。また、米国や英国でも同様の動きがみられており、グリーン水素への転換はこれまで以上に加速することが予想されます。

EU中心にカーボンプライス政策が進展

 さらにEUでは、2026年を目途に国境炭素税の導入が検討されています。これは、気候変動対策が不十分な国から輸入される産品に対して、製造過程で排出されるCO2量に応じて課税するものです。当初は、鉄鋼、セメント、肥料、アルミ、電力が対象ですが、将来的には対象となる品目が広がることが予想され、製造過程でCO2排出量の多い工業製品は国際的に取引することが難しくなる可能性があります。グリーン水素は製造コスト面で導入へのハードルが高いとされてきましたが、こうした枠組みの変化によりコスト面でのハンディが軽減される公算が大きくなってきています。

大規模な量産計画が加速

 足元では、民間企業によるグリーン水素量産に向けた計画が相次いで発表されています。量産計画が数多く立ち上がっているのは、再エネ導入が盛んで余剰電力の多い地域や再エネによる発電条件が良い地域です。

 特に、大規模な量産計画をけん引しているのはオーストラリアです。そして、同国で生産されるグリーン水素の代表的な供給予定先が日本です。日本の水素関連メーカー各社は、オーストラリアのグリーン水素事業者との関係作りを積極化させています。効率的に水素を輸送する手段の開発などにおいて、日本企業の貢献が期待されます。

(投資情報部 大坂 隼矢)

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