脳は構造上、内部状態を可視化し難く、ブラックボックスとされてきた。しかし、近年デバイスやソフトウエアが進化し、脳の活動を簡便に可視化する技術(ニューロイメージング)に注目が集まっている。

 脳は体のエネルギーの18%を消費する主要組織である。一方で、その複雑性から未解明な点が多く、医療・ライフサイエンスにおける最も魅力的な研究対象の一つである。また、脳活動のマーケティングへの応用の可能性も期待されている。

 脳活動を捉えるデバイス、検査法としては、脳の電気活動を計測する「脳波計」、脳の血流量の変化を計測する「核磁気共鳴画像検査」、光源と受光センサを用いて脳血液量の変化を計測する「近赤外線分光法」等がある。これらの解析結果をもとに、注意力や睡眠深度、学習効果等の脳活動を可視化する試みが行われている。

 しかし、こうして得られた情報の信頼性は必ずしも高くない。その理由の一つは、脳活動の計測法の限界にある。開頭して脳活動を直接計測することは現実的でないため、計測は頭蓋骨の外側から間接的に行わざるを得ない。間接的な計測では、一般に真のシグナルがノイズに埋もれてしまう。

 そこで、間接的な脳活動計測でも、時空間的に正確に信号を処理、解釈できるようにすべく、先端的なデバイス、センサ、人工知能(AI)や機械学習(ML)等が活用され始めている。

 デバイスとしては額に貼付するパッチ式の小型脳波計、イヤホン型やアイマスク型、ヘッドギア型等の脳波計等が、センサとしてはドライ電極チップや電極シート等が、開発・上市されている。ただ、新たな脳計測デバイス、センサには一長一短がある。また、日常生活での利用も想定すると、計測性能だけでなく見た目や可用性も重要である。それらの両立は道半ばであり、社会実装が進んでいるとは言い難い。

 脳は極めて複雑で、間接的な計測のみで脳活動の真のシグナルを捉え、解釈することは今後も現実的でないと映る。小型の電極チップ等の体内への埋め込み、AI/MLによる信号処理等は、間接的な計測の精度を高める上で不可欠であろう。脳活動の可視化には無限の応用可能性がある。産官学連携、学際的な取り組み等、コンソーシアム(共同)活動に期待したい。

(フロンティア・リサーチ部 石川 大介)

※ 野村週報 2022年6月13日号「新産業の潮流」より

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