インフレヘッジ機能とイールドスプレッドの優位性に改めて注目

 本稿では日米のREITを取り上げ、インフレヘッジ機能、イールドスプレッドの優位性、足元の相場動向と見通しなど投資にあたっての注目すべきポイントについて解説します。

堅調なJ-REIT、軟調な米国REITの違い

 足元の日米REIT市場では、米国のREITが軟調な一方、日本のJ-REITは堅調に推移しています。米国ではエネルギー価格などの上昇、労働需給の逼迫を受けてインフレ懸念が再び強まり、FRB(米連邦準備理事会)はタカ派(景気よりインフレ抑制を重視)的姿勢を強め、長期金利が上昇し、米国REIT市場の重石となっています。

 一方、低金利政策が続く日本では、J-REITの安定した収益に対する需要が堅調で、経済活動の再開やインバウンド需要の持ち直し期待も後押ししています。J-REITの割安感に着目した海外投資家の買いが入っていることも、底堅さの一因です。

金利上昇に歯止めが掛かるまで不安定な展開

 2013年、2015年、2016年などの米金利上昇局面を振り返ると、金利上昇局面の初期段階では日米REITは軟調に推移し、相対的にパフォーマンスが不振となる傾向がありましたが、景気の拡大による好影響が勝って、その後は堅調に推移しました。

 足元で原油価格は騰勢を強めており、中国景気持ち直しによる需要増加が見込まれることから、しばらく高止まりする公算です。引き続き米国の金融政策には注視が必要で、6月に開始された量的引き締めにも注意しておきたいと思います。米長期金利の上昇に歯止めがかかるまで軟調な相場展開が予想されます。

不動産賃料・価格の上昇がREITの収益の支えに

 インフレが高進する中、REITのインフレへの耐性を占う上でREITの配当の原資となる不動産の賃料収入や価格の動向がポイントとなります。米国の住宅価格、家賃は長期的に消費者物価指数を上回る傾向があります。景気が堅調な中でのインフレ局面では、不動産に対する需要が続く一方で、資材の供給制約と価格上昇に伴って建物や新規開発プロジェクトの供給が限られ、賃料や不動産価格が上昇する要因になると考えられます。足元では、住宅ローン金利と不動産価格の上昇もあり、住宅販売の伸びは勢いが弱まっていますが、住宅の在庫が少ないことから、需給環境は大きくは緩まず、不動産価格や賃料は高値で推移しやすいと見ています。

米国REITは、相対的に高い配当利回りを提供

 不動産の賃料・価格の上昇に伴って米国REITは過去3%以上の配当利回りを安定的に提供し、株式や10年国債の利回りを上回って推移しました。人口が増加し、経済の成長性が高い地域では、不動産の賃料や価格は上昇しやすいと考えられます。その点、米国は、人口の増加がこの先も見込まれます。また、米国の企業は、独自の技術力やビジネスモデルによって、経済成長率を上回るペースで利益が拡大するグローバルな有力企業が多く存在し、世界から米国の不動産への資金流入も期待されます。

 ただし、足元ではウクライナ紛争以降、10年国債利回りが急速に上昇し、REITの配当利回りと接近していることが米国REITの重石となっています。インフレ高止まりが想定外に長期化し、景気が鈍化する中でもFRBが利上げを迫られるリスクシナリオには留意が必要です。他方、足元の調整を受けてREITの配当利回りが上昇していること、経済活動正常化に伴う不動産市況の回復期待が相場の支えになると考えられます。

米国REITはインフレヘッジ機能が期待される

 1973年からの米国のREIT、株式、国債、商品指数のパフォーマンス(価格変動、配当・分配金等の利回りを合計)は、消費者物価指数が0%~3%未満の時は、米国株式にアンダーパフォームしましたが、物価上昇率が3%以上になるとアウトパフォームしました。インフレが高進する中でも、不動産価格や賃料の上昇を受けて、米国REITのパフォーマンスは安定的に推移したと考えられます。このように、これまでインフレ耐性を示したことから、REITのインフレヘッジ機能を期待する声が高まっています。野村證券では米国10年国債利回りの上値目途が3.2%程度と見ており、米長期金利の上昇に歯止めが掛かってくれば、米国REITは底堅さを増すと見ています。

イールドスプレッドがJ-REIT投資の魅力に

 REIT指数の配当利回りから10年国債利回りを引いたイールドスプレッドは、主要国のREITの中ではJ-REITが相対的に高くなっています。日本以外の主要国はインフレが高進する中、利上げが進行しているため、イールドスプレッドが縮小しやすい環境にあります。一方、日本のインフレ圧力は相対的に弱く、日銀は金融緩和を継続し、長期金利の上昇を抑制する姿勢を鮮明にしていますので、J-REITのイールドスプレッドは維持されやすいと考えられます。また、金融政策のスタンスの違いを受けて円安が進んでいることも、海外投資家からみたJ-REIT投資の誘因になっており、相場を下支えすると考えられます。

(投資情報部 坪川 一浩 )

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