株式市場の反発が鮮明

 米国主要株価指数の反発が鮮明です。景気減速懸念はあるものの、市場のインフレ懸念の後退により、厳しい金融引き締めは不要になるのではとの見方が広がっています。我々は、インフレの拡大に歯止めがかかり、金利上昇懸念が一巡すれば、株式市場は復調に転じるとみてきました。足元の企業業績の下方修正には注意が必要ですが、インフレ沈静化がより明確になれば、金融引き締めが緩和され、景気や企業業績の復調への期待が広がるとみます。

物価上昇に歯止めがかかる

 天然ガス価格の上昇は懸念材料ですが、主要国の景気減速により原油価格は低下しています。世界的なサプライチェーンの混乱も改善が進み、主要国の物価上昇に歯止めがかかっているようです。

米国の期待インフレ率は利上げ前の水準に低下

 米国経済は、景気減速懸念により市場予想の下方修正が続いています。野村證券では、2022年の年末以降、景気後退に陥ると予想していますが、市場予想や長短金利差が示す景気後退確率は、実際に景気後退が起きるとは見ていないようです。住宅販売は減少が鮮明ですが、消費は底堅く、個人の収入・支出バランスなどの健全性は損なわれた状況ではありません。物価指標は足元で上昇率が和らいでおり、市場の短期(1~2年)期待インフレ率はFRBが利上げ姿勢を強める前の2021年10月の水準まで低下しています。

米国業績下方修正が今後改善に転じるか注目

 FRBはオイル・ショック以来の物価上昇を抑え込むため、インフレ率が十分低下するまで金融引き締めを続けるとみられますが、利上げペースはインフレの減速に伴い、徐々に引き下げられるとみられます。財政政策では、11月の中間選挙を前に半導体補助金法案やインフレ抑制法案が成立し、半導体や電気自動車など長期の産業競争力に資する政策が決定されました。一方、大企業への最低税率15%や自社株買いへの1%の課税など、株式市場の悪材料となり得るものも一部含まれています。企業業績は大手テクノロジー企業を中心に下方修正が進みましたが、増益期待は続いています。今後、同企業が業績改善に転じるかが注目されます。

中国政府は経済安定を目指す

 ユーロ圏は天然ガス価格の高騰やイタリア政局などのリスクもあり、厳しい経済環境が続くとみられます。他方、台湾問題について、地域の緊張が高まっています。中国ではゼロコロナ政策の堅持により散発的に経済活動の抑制が行われるリスクがあります。ただし、中国政府は政治と経済の安定を重視しており、財政政策や金融政策による景気下支えが見込まれます。

日本の業績下方修正は限定的

 日本では輸入物価の上昇により、経常収支が悪化傾向にあります。一方、企業部門の挽回生産が進み、設備投資も順調です。家計の景況感はインフレ懸念の拡大により低下していますが、政府は物価高対策を9月上旬にも取りまとめる予定です。日本銀行の金融緩和姿勢は変わらず、米欧と異なり景気支援的です。円安の勢いは和らぎましたが、水準自体は十分円安で、製造業には追い風です。2022年4-6月期決算を受けた企業業績で、懸念されていた下方修正は限定的でした。業績全体の増益基調は崩れておらず、PBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)でみて日経平均株価に割高感はみられません。

投資戦略

 投資戦略については、米国を中心に経済やインフレ指標によって金融引き締めへの思惑が揺れる可能性はありますが、インフレ沈静化と金融引き締めの減速が進み、景気と企業業績への信頼感が回復すれば、株式市場は業績相場に戻るとみます。

(投資情報部 小髙 貴久)

※野村證券投資情報部「Nomura 21 Global 9月号」(発行日:2022年8月22日)「投資戦略の概要」より

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