アジア株は二極化

 8月月間(26日時点)の世界株式市場の騰落率は、トルコ、ブラジル、ベトナム、フィリピン、ロシア、タイ、インドネシアなど新興国が上位に並んだ。

 アジア株は天然資源が豊富で資源高が追い風となったインドネシア、輸出が好調で、かつ観光等が回復したベトナム、タイが堅調だった。一方、中国本土及び香港株(以下、中国株)は、①新型コロナの感染再拡大と断続的な都市封鎖、②不動産市場の調整、③猛暑と水不足による電力不足が生産の足かせになることに伴う景気減速懸念が相場を下押しし、軟調に推移した。

 景気減速懸念が強まる中で中国政府は景気刺激策を相次いで発表しているが、今年の成長目標である5.5%を達成するには不十分と考えられる。また、ゼロコロナ政策を継続する中では従来型の景気刺激策の効果が薄れるため、2022年後半も景気回復の勢いは緩慢になると見ている。野村では、中国の22年7~9月期実質GDP(国内総生産)成長率予想を前年同期比+4.0%から同+2.9%へ、10~12月期の予想を同+4.0%から同+3.3%へ下方修正した。市場の大方の予想はやや楽観的で、今後、下方修正を迫られる可能性があろう。

 今後のアジア株は、米国のインフレのピークアウト時期、米国が景気後退に陥るか否か、中国景気の持ち直しがカギになろう。一方で、世界景気の減速が顕著になる中で、アジア経済への成長期待がアジア株を下支えすると見ており、堅調な内需が予想される国が引き続き選好されよう。インドネシアは、底堅い内需と商品価格の高止まりの恩恵を引き続き受けよう。インドは、経済活動の正常化に伴い相対的に高い経済成長が期待できるが、主要セクターにはIT(情報技術)など海外エクスポージャー(影響度)の高い銘柄が含まれ、ボラティリティ(株価変動)の高い展開が想定される。

 中国株は、中国景気の減速懸念が相場を下押しする一方、今秋に予定される共産党大会に向けて政策期待が高まり、株価収益率等に割安感があるため、次第に底堅さを増すと見ている。しかし、中国株が上値を追うには、ゼロコロナ政策の大幅な緩和、不動産市場の持ち直しが条件になろう。

不動産市場の回復が中国景気のカギ

 中国経済が回復軌道に乗るには、不動産市場の回復が一つのカギになろう。中国政府は20年8月、バブルを抑制し、不動産価格を安定化するため、不動産開発会社の負債に上限を設けた。金融機関の不動産関連融資の総量規制を行い、中古市場で事実上の価格統制を実施し、住宅購入を許可制にした。中国政府は価格高騰で住宅が手に入らないという市民の声に応えようとしたが、大きな副作用をもたらしている。

 大手不動産開発会社の中国恒大の債務問題が20年に表面化したことを契機に不動産セクターの資金繰りが悪化し、新規開発が停止、建設途中のプロジェクトが中断して未完成の物件が増加した。不動産価格の値下がり懸念もあり、不動産販売が減少し、資金繰りが更に悪化するという負のスパイラルに陥っている。

 また、中国では完工前に住宅ローンの支払いが開始されることが一般的で、建設が遅れた物件で返済を拒否する動きが多発している。返済を拒否している住宅ローンは22年6月末のGDP比1.4%から24年には3.8%まで増加するとの報道も見られる。返済を拒否する住宅ローンの中から債務不履行が想定外に増加した場合には金融機関の不良債権の増加が懸念されるが、中国政府は、金融システミックリスクを許容しないだろう。

 住宅市場を支えるべく中国政府は不動産に関する規制を一部緩和し、中断した物件への資金支援を実施している。足元では、国有会社に対して幾つかの民間不動産開発会社が中国国内で発行する債券に保証を提供するよう指示した。中国政府は、社会の安定を維持するためには不動産開発会社の資金調達を直接支える方が効果は高いと認識した可能性がある。

 住宅ローンの返済拒否は、あくまで「住宅購入者の抗議」であり、かつての米国のサブプライムローン問題とは異なる。しかし、不動産セクターの裾野は広くGDPの2割以上を占めると推察されるため景気浮揚には不動産市場の底入れが不可欠である。

 中国では過去、景気減速時に不動産、インフラ投資等に資金が投入され、景気を下支えしたが、それが今日の不動産や債務の過剰、不動産価格の上昇をもたらした。債務の規模が急激に膨張し、一定の水準を超えた国においては、資産バブルとその崩壊を生み、金融危機が生じるリスクが高まる。中国政府は時間をかけて慎重に不動産や過剰債務の問題を解消する必要があると考える。

(投資情報部 坪川 一浩)

※野村週報 2022年9月5日号「焦点」より

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