農薬に対する需要が中長期的に拡大すると期待される。農薬は農作物を害虫や病気、雑草などから守る薬剤で、殺菌剤や殺虫剤、除草剤などがある。農作物の品質安定や作業の軽減などに利用される。

 人口増加などにより世界の食料需要は増加傾向にある。農林水産省によると2050年には10年比1.7倍に増加すると予想されている。一方、世界の農地面積は1961年以降、大幅な増減は見られない。単位面積当たり収穫量(単収)の増加が求められる。加えて、新型コロナ感染拡大による労働力不足やサプライチェーン(供給網)の混乱、ウクライナ紛争の長期化などを契機に食料価格が高騰し、食料安全保障に対する意識が高まった。これらの一助となるのが農薬だ。

 90年代以降、従来の種苗に比べ農薬の使用量が少ない遺伝子組み換え農作物が販売されているが、農薬の使用は不可欠だ。例えば、従来は除草剤を用いると作物にも影響が出たが、除草剤耐性作物とこれに対応した除草剤を用いれば、作物に被害を与えずに雑草だけを枯らすことが可能となる。新しい種苗への対応や改良した農薬を販売することで、農薬を手がける企業は売上を拡大させてきた。

 世界の農薬業界では、2017年の中国国営企業によるシンジェンタの買収や、18年のバイエルによるモンサント買収など、製品ポートフォリオや販売網の拡充、製品開発の効率化を目的とした業界再編が進んだ。国内の農薬大手である住友化学も、インドや南米企業の買収に加え、バイエルなどの種苗や農薬の世界的企業と提携を進めている。これらが当社の農薬関連事業の売上拡大と利益率改善に寄与している。

 農作物の単収の増加に寄与する農薬に対する旺盛な需要は今後も継続すると考えられ、業界再編が進む農薬企業の売上拡大と利益率改善が注目される。

(投資情報部 岩崎 裕美)

※野村週報 2022年9月5日号「投資の参考」より

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