昨今の異常気象が国内外の農産物価格に大きな影響を及ぼしている。特に今年は高温や干ばつが影響してタマネギの出荷量が少なく、年明け以降、タマネギの卸売価格は例年の2~4倍で推移している。またニンジンの卸売価格は、年明けから5月頃までは前年のおよそ半値で推移していたが、6月に入ってから前年の2倍近くまで高騰するなど価格の変動が著しい。

 農産物の価格変動は農業者の所得を左右するだけでなく、一般消費者の家計への影響も大きい。この価格変動を最小限に抑えるためには、農産物を計画的に安定生産することが不可欠である。そのためには、農産物の生育や出荷量を大きく左右する「天候」を的確に予測し、それに基づく営農管理の高度化が求められる。

 この解決手法の一つに、データとテクノロジーの活用がある。農業分野では一般的に「アグリテック」と言うが、特に気候変動に伴う課題を解決するテーマを総称して「クライメートテック」と呼ぶ。海外ではこの分野の取り組みが先行している。例えば、オランダのAgroExact 社は、農場ごとに自社開発の小型気象設備を設置し、日々の温湿度や風速、降水量などのデータを収集・解析する営農管理システムを開発している。解析データは、施肥や農薬散布といった日々の生育管理に活かされる他、播種や収穫の適切な時期を知らせるなど、農業経営者の意思決定に資するサービスを展開している。安価な利用料で導入の障壁を下げ、欧州で浸透しはじめている。

 また、Google出身者の2名が創業した米国のThe Climate Corporation社は、農場単位の“ピンポイントな”天候と収量(農産物の収穫量)の予測を特徴とする営農プラットフォームを展開している。収量予測はバイヤーとの事前商談に活かされるなど、生産と販売の両管理の高度化に寄与する点が支持され、既に7カ国で10万人以上の大規模農業経営者に利用されている。

 日本の民間気象会社においても気象予測に関するサービスを展開しているが、農業分野での活用事例はまだ少ない。農地の集約が進んでいない点や農村部でのIT(情報技術)インフラが未整備な点が一因である。国産農産物の価格変動抑制に向けて、官民を挙げたクライメートテックの技術・インフラ開発に期待したい。

(野村アグリプランニング・アンド・アドバイザリー 谷 和希)

※野村週報 2022年9月19日号「アグリ産業の視座」より

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