国際海運から排出される温室効果ガス(GHG)は、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)により削減目標が設定されている。現在の目標では、2050年までに国際海運からのGHG 総排出量を08年比で50%以上削減することになっている。

 国境を越えて活動する国際海運は、船籍国や運航国による区分が難しいため、国連気候変動枠組条約とは別に温室効果ガス削減の目標が設定されている。

 IMOの削減目標を超えて、50年に温室効果ガスのネットゼロエミッションを目指す荷主や海運会社は、グローバルで増加傾向にある。その中で、日本の海運業界も、IMOに先行して「2050年温室効果ガスネットゼロ」に挑戦することを表明している。

 温室効果ガスネットゼロに向けて、一段の省エネ技術の導入、効率運航の推進などに加え、クリーン代替燃料の実用化に向けた取組みが進められている。

 船舶の代替燃料は、船舶サイズや用途により棲み分けが進むと見られる。船舶用代替燃料の候補の中で、アンモニアはCO2排出がなく、大量輸送、長期間航海に向く特性から、有力な選択肢の1つとされている。ただ、アンモニアは重油と比較して燃料体積が大きく、毒性がある。温室効果が高く燃焼時に発生する可能性のある亜酸化窒素の処理などの課題も挙げられる。

 日本郵船の30年代予測では、沿岸を航行する小型船は水素燃料船、大型・高出力のコンテナ船やばら積み船はアンモニア燃料船がイメージされている。

 国際エネルギー機関(IEA)の船舶燃料の見通しでは、20年の重油がほぼ100%の状況から、50年にはアンモニア燃料のシェアは50%弱に高まると見ている。

 代替燃料を使用する環境対応船は、グローバルでは日本、中国、韓国を中心に開発が進められている。日本の造船会社は、海運会社、商社などと連携してアンモニア燃料船や水素燃料船を開発している。日本郵船、日本シップヤードなどは、26年度の就航をターゲットに、アンモニア燃料アンモニア輸送船の開発・運航を目指す。日本の造船会社や部品メーカーにとって、温室効果ガス削減に向けた環境対応船への取組みは、国際競争力改善に向けたチャンスと見られる。

(フロンティア・リサーチ部 田崎 僚)

※野村週報 2022年10月24日号「新産業の潮流」より

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点