オーストラリア準備銀行(RBA)が2022年3月以降、金融引き締めに動き、住宅ローン金利が高騰していることに伴い、オーストラリアでも大都市において住宅価格の下落が鮮明となりつつある。コアロジック社による住宅価格指数を見ると、22年9月時点でシドニーは約8.5%、メルボルンは5.3%、それぞれ21年及び22年につけたピークから価格が下落している。

 主要都市の住宅価格は22年初の水準と比較して依然として高水準にあることなどを踏まえれば、RBAのインフレ抑制重視からの政策転換を現時点で促すものではまだ無いと考えられる。金融安定に対する警戒が市場で広まるリスクも低いだろう。

 もっとも、住宅ローン金利の高騰が個人消費の制約要因として台頭するリスクには注意が必要となる。オーストラリアでは住宅ローンの借り入れのうち7割超が変動金利である。また、借り手が固定金利の住宅ローンを選択したとしても、通常、3年ごとに条件を見直す契約となっていることが一般的である。そのため、20年の住宅ブームの時に住宅ローンを借り入れた世帯は、変動金利を選択したにせよ、固定金利を選択したにせよ、今後、住宅ローンの返済負担増に直面する公算が大きい。コロナ禍における超過貯蓄のバッファー(緩衝)が失われると想定される23年以降は、個人消費への下押し圧力が顕著となるだろう。

 RBA は22年10月の金融政策決定会合で、50bpの利上げを実施するという市場予想に反し、利上げ幅を25bpに縮小した。サプライズとなった利上げ幅縮小の理由には、金利上昇に伴う住宅ローンの借り手への悪影響に対する警戒も一因と見られる。

(市場戦略リサーチ部 中島 將行)

※野村週報 2022年10月31日号「経済データを読む」より

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