インボイス制度の導入と改正電子帳簿保存法の本格施行という、財務・会計に係る2つの大きな制度変更が近づいている。

 インボイス(適格請求書)とは、売り手が買い手に発行する「消費税の納税額の証明書」である。2023年10月以降、仕入に伴って支払った消費税を控除するには、買い手はインボイスを受け取り保存する必要がある。消費税率が上がる中で、税収の確実な確保や平等性の観点からインボイス制度が導入されることとなった。1989年に消費税が導入されて以来の制度改正である。

 論点として、年間の課税売上高が1,000万円以下で消費税の納税が免除される免税事業者との取引がある。免税事業者やインボイスを発行していない事業者から仕入れる場合、買い手は消費税の仕入税額控除を受けられなくなる。仕入原価の高い取引の場合、特に影響が大きい。免税事業者は、値引きを要請される可能性も出てくる。

 2022年1月に施行され、現在は2年間の宥恕(ゆうじょ)期間にある改正電子帳簿保存法では、紙で発行、受領した書類等を電子データで保存する場合の要件が緩和された一方、電子取引については電子データによる保存が義務化された。国税庁によると、20年度に電子保存の導入が承認された件数は34.3万件である。国内法人約280万社において、電子保存を国税関係帳簿書類に利用する割合は12%に留まっていた。

 経理部門を中心に、これら2つの制度変更への対応に伴う業務負担の増加が予想される。ただし、社内ルールを定めて運用していれば対応できる部分は多い。また、郵送やFAX、メールに添付されたPDFファイル、電子データなど様々な様式で届くインボイスを一元管理するようなITシステムも登場しつつある。これらを活用することで、効率化が図れるケースは増えよう。

 加えて、見積書や契約書、納品書等の書類のやり取りや顧客との対話、そして入出金までデータを連携させれば、経営状態の迅速な把握や経営戦略の柔軟な立案にもつながりうる。こうした、制度変更を起点とした経営サポートを志向するITシステム開発会社も出てきている。

 業務負担の増加を逆手に取り経営基盤の強化を進める事例や、IT サービスの普及拡大の好機と捉える事業者など、制度変更の荒波に乗る企業に期待したい。

(フロンティア・リサーチ部 池内 一)

※野村週報 2022年10月31日号「新産業の潮流」より

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