米国株反発の鍵を握る米国債市場の安定化

相場急変への不安は国債市場に滞留

 2022年8月以降、米10年国債利回りは上昇基調へ転じ、一時は4.3%まで上昇、足元では4.0%前後で推移しています。一方、S&P500株価指数(以下S&P500)は8月中旬をピークに下落基調へ転じ、6月中旬に付けた年初来安値を一時割り込みました。

 このような株安、債券安(金利上昇)の動きは相互に影響しあって進行してきた面が多分にあります。ただし、敢えてどちらが相場下落の主因であったかと考えた場合、その答えは国債市場のようです。

 S&P500と米国債市場のオプション価格に織り込まれている変動率であるVIX指数とMOVE指数を比較すると、明らかにMOVE指数が高止まりしていることがわかります。このことから、国債市場が安定化すれば、米金融市場全体が持ち直すチャンスが生まれると言えそうです。

米政策当局も国債市場の状況を注視

 米国債市場の状況を警戒感を持って注視しているのは市場参加者だけではありません。米国のイエレン財務長官は10月24日の講演で、「世界的な動向が市場のボラティリティー上昇につながっていることから、金融セクターを緊密に観察している」と述べました。その上で、「これまでのところ、米金融システムは景気不安定の要因にはなっていない」と指摘、「台頭しつつあるリスクを注視し続けるが、米国のシステムはレジリエンス(回復力)を維持しており、不透明な局面でも引き続き十分に機能している」と話しました。

 講演の中でイエレン長官が米国の金融システムの機能不全を引き起こしかねないリスクとして国債市場に言及しましたが、その背景には米国債のボラティリティーが上昇しているだけではなく、流動性低下への懸念があると見受けられます。

 イエレン長官の発言に絡んで米財務省スタッフは、「米国債市場がショックや混乱を助長するのではなく吸収する能力を改善させる改革を進めるため、金融当局者と取り組んでいる」と説明するなど、国債市場の不安定化リスクに対する警戒感が高まっている様子がうかがわれます。

利上げの行き過ぎに対する警戒感

 ここ数週間は、英国の大型減税案と財政悪化を巡る懸念から英国債が急落(金利が急上昇)し、他の先進国債市場へ波及しました。ただし、この問題が収束した後も米国債市場のリスク関連指標は高止まりしています。

 国債市場の不安定化として表出している市場のストレスの主因は、FRB(米連邦準備理事会)による利上げの行き過ぎに対する懸念であると見られます。

 先物金利を用いて市場の利上げ観測を確認すると、時間の経過とともに利上げ見通しの上方修正が続いてきたことが確認できます。市場の政策金利の着地点の見通しは、8月中旬には3.5%程度であったものが、足元では5%前後まで上方修正されています。

 FRBの積極的な利上げ姿勢を受けて、米国債市場では2022年7月以降、長期国債利回りが短期国債利回りを下回る逆イールドが生じています。このことは、多くの市場参加者が、利上げが続くと予想している一方で、米国が景気後退に陥る可能性が高いと見ていることを示唆しています。

 この結果、米国債市場の不安が株式市場にも伝播しやすくなっているようです。具体的には、米国市場で逆イールドが生じた2022年7月以降、MOVE指数と米国株の連動性が高まっており、MOVE指数が上昇すれば株安、MOVE指数が低下すれば株高といった動きが生じています。

年末にも相場が転換点を迎える可能性も

 以上のように、FRBによる利上げの行き過ぎに対する警戒感が後退し、国債市場が安定化すれば、米国株の反発へと波及することが期待されます。

 11月1~2日にFOMC(米連邦公開市場委員会)を控えて、ハト派(利上げに慎重)のFRB当局者の一部が利上げの行き過ぎに対する警戒感を示しました。また、11月会合では12月に利上げ幅縮小の可能性を示唆すべきかどうかを検討するといった観測報道も見受けられるなど、FRB内にも変化の兆しが見受けられます。

 野村證券では、米国のインフレは2023年初にも減速感を強める結果、2023年2月会合の利上げ幅は0.5%ポイントに縮小すると予想しています。当社の見通し通りであれば、年末年始にも相場は転換点を迎える可能性がありそうです。

(投資情報部 尾畑 秀一)

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