「ねじれ議会」の公算大

 11月8日に米国で行われた中間選挙は、議会選挙で下院の全議席と上院の100議席中35議席が改選になった。新型コロナウイルスの流行で郵便投票が増えた結果、結果判明までに時間が掛っている。11月14日時点では、下院の結果は確定していないものの、共和党が僅差で過半数を獲得する可能性が高い。一方、上院は民主党の与党過半数(50議席)維持が確実になっている。つまり、来年以降は上院と下院で過半数を占める政党が異なる「ねじれ議会」となり、バイデン政権が提案する法案や予算は成立しにくい状況になる。

 バイデン大統領が1期目の後半で何を目指すのか明確ではないが、議会を通さなくて済む大統領令に頼ることになるだろう。しかし、大統領令は法を超越することができず、予算もコントロールできない。その上、政権交代が起これば次の大統領に撤回されてしまう。大統領令による政策実現には限界があると見てよいだろう。

 とはいえ、下院で民主党の議席数に対する共和党のリードが限られる場合、共和党の下院幹部は党内の少数派の造反への対応に苦慮することになるだろう。2024年の大統領選挙に向けて、保守的な姿勢で民主党との対決を打ち出すことが難しくなり、超党派での財政合意などで実績を積み上げる現実的な対応を迫られるだろう。

 上院の全議席確定は、12月6日にジョージア州選挙区で行われる決選投票に持ち越される。ジョージアで勝利すれば、民主党は51議席と改選前より1議席増やし、上院の常設委員会で民主党の主導権が強化されることになる。一方、金融市場において、上院での民主党の与党過半数維持の影響は限定的である。上院のみの権限として閣僚、政府高官人事の承認がある。2024年1月末にクックFRB(米連邦準備制度理事会)理事が任期満了を迎えるが、民主党が上院で与党過半数を維持する限り、再任にあたって不透明感はないだろう。

 中間選挙の結果は、24年大統領選挙にも影響を及ぼすと見られる。民主党では、バイデン大統領に代わる有力候補は存在せず、同大統領が再選を目指すことになるだろう。

2024年大統領選挙に影響

 上下両院での民主党敗北を避けたことで、大統領は求心力をある程度維持すると見られる。1994年の中間選挙で上下両院を共和党に押さえられた民主党のクリントン大統領(1993~2001年)や2006年の中間選挙で上下両院を民主党に押さえられた共和党のブッシュ(子)大統領(2001~09年)に比べると厳しい状況ではない。しかし、「ねじれ議会」の下で政府の打つ手が限られる中、インフレや景気後退のリスク、雇用情勢の悪化を大統領選挙までに抑え込む必要がある。また、今年80歳を迎え、高齢批判や健康問題への懸念を乗り超える必要もある点には留意したい。

 共和党ではトランプ前大統領が出馬意欲を見せているが、今回の中間選挙の結果を踏まえると影響力に陰りが見られる。トランプ前大統領が推薦した候補が多く当選したとされるが、ほとんどは共和党支持者が多い地域である。トランプ前大統領が推薦した候補のうち、ニューハンプシャー州、ペンシルバニア州、ジョージア州、アリゾナ州、ネバダ州といった接戦州での上院議員選挙に出馬した候補は、結果の判明しないジョージア州を除いて全て敗れ、共和党は上院で過半数を獲得出来なかった。

 トランプ前大統領の影響力が共和党支持者以外の浮動層には十分に及ばなかったことを踏まえると、もう一人の保守派で有力候補と見られているデサンティス・フロリダ州知事を推すべきとの意見が共和党内で高まるだろう。ただし、トランプ前大統領とデサンティス知事が予備選挙に同時に出馬する場合には、共和党内の分裂にもつながりかねない。

 24年大統領選挙に向けた両党の経済政策はまだ明らかではないが、ある程度予想が出来る。民主党は現在の延長線上で、中低所得者向けに格差是正、社会保障の充実を訴え、地球温暖化対策を推進する政策が打ち出されるだろう。

 金融市場ではトランプ前大統領に対し、16年の大統領選挙後の株価上昇の再現や減税を期待する向きがある。しかし、同盟国軽視、FRBへの政治介入、閣僚・高官の不透明な人選や頻繁な交代、制裁関税を通じた中国に対する強硬な通商政策など、市場の混乱要因も再現しかねない点には留意したい。デサンティス知事は、トランプ前大統領と経済政策の姿勢は似ているが、FRBとの関係や閣僚・高官人事などでの行政の混乱や外交関係の悪化は回避すると見られ、より積極的な財政緊縮を行うと見込まれる。

(経済調査部 吉本 元)

※野村週報 2022年11月21日号「焦点」より

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