日本:2022年7-9月期決算レビュー

7-9月期決算出そろう

 2022年7-9月期決算の発表がほぼ終了しました。11月14日段階で、(業績の変動が大きいソフトバンクグループを集計から除いた)ラッセル野村Large Cap(除く金融)では増収率が22.8%(前年同期比)、経常増益率が同9.6%、となっています。

 事前の予想が、16.6%増収、4.4%経常増益でしたので上振れて着地しています。また、個別企業ベースでも、事前予想に対して上振れた企業の比率は60%弱となっています。四半期決算は、事前の予想に対して上振れて着地することが多く、今回もその例外ではありませんでした。

 ただ、4-6月期に続き、増収率が非常に大きくなっているにも関わらず、経常増益率は極端に小さくなっており、コスト増分の転嫁に苦慮する企業が多くなっているとみられます。

※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。

(注)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の四半期・増収率(前年同期比)および経常増益率(前年同期比)の推移。2022年7-9月期は、2022年11月14日時点で決算発表を終えた企業のみを集計している。グラフ中の数値ラベルは、ラッセル野村Large Cap(除く金融)のもの。ラッセル野村Large Cap(除く金融)および、非製造業(除く金融)の2022年1-3月期~7-9月期はソフトバンクグループを集計から除外している。ラッセル野村Large Cap(除く金融)の2021年1-3月期の経常増益率(前年同期比)は+290%、2021年4-6月期は同+182%だった。グラフ中のRN Large Capはラッセル野村Large Capの略。
(出所)野村證券投資情報部作成

進む円安の業績予想への織り込み

 今2022年度は、期初時点から円安が進行しており、円安の企業業績への影響が注目されてきました。ただ、期初時点では円安がどの程度持続するのか不透明だったため、多くの企業が2022年度の為替前提を120円/米ドルとおいていました(下図)。

(注)東証プライム市場上場企業の、2022年度通期の米ドル円レート前提の分布状況。濃いグレーは6月初時点の分布、赤色は現時点(2022年11月14日時点)に公表されている前提の分布を示している。
(出所)野村證券投資情報部作成

 7月から8月にかけての、4-6月期決算発表シーズンでも円安は更に進行中でしたが、この時点でも円安の持続性が不透明として、多くの企業が為替前提の変更を見送りました。

 これが今回の7-9月期決算発表では3月決算企業の場合、2022年度のうち半分が想定よりも円安で推移したことになり、為替前提を現状に合わせる動きが本格化しました。11月14日時点で期初時点の120円/米ドル前後の為替前提のままの企業は(構成比で)20%強程度にまで減少しました。円安を理由にした通期業績見通しの上方修正は(今後さらに円安が進行しない限り)ピークを越えた、と考えられます。

会社見通し 3社に1社弱が上方修正

 会社側の通期業績見通しは例年、中間決算発表時より急増するという季節性が強くみられます。今回も44%の企業が10月以降、通期の業績見通しを変更しました。

 全体としては、上方修正が優勢(27%)となっていますが、これまで資源高を追い風に業績を拡大してきた素材セクターでは、上方修正と下方修正が拮抗する結果となりました。資源価格は世界経済の先行き懸念から調整局面に入っており、これらのセクターでも業績モメンタムは鈍化しているようです。

(注)ラッセル野村Large Cap構成企業のうち3月決算企業を母集団に、2022年10月1日~11月14日の間に会社側が2022年度通期経常利益見通しを変更した件数(構成比)。図中のRNLは、ラッセル野村Large Capの略。なお、商社は経常利益ベースで予想を公表していない。
(出所)野村證券投資情報部作成

 一方、機械、自動車、電機・精密などの加工産業では、円安の追い風に加え、ようやく挽回生産が本格化しつつあることなどを背景に上方修正が優勢です。また、人流の回復などを理由に運輸でも上方修正が優勢となりました。

 製造業の多くで円安が追い風になっているのに対し、食品、小売り、建設、公益などといった内需型の業種では見通しを上方修正する企業は相対的に少数でした。コスト増分の価格転嫁に苦心していることがうかがわれます。 

今後の業績をとりまく環境

 会社側の業績見通しが上方修正優位で進む中、アナリストによる2022年度通期業績予想も上方修正されています。ラッセル野村Large Cap(除く金融)では決算シーズン前の11.1%経常増益予想(前年度比)が、足元では13.4%となっています。

(注1)上段は、ラッセル野村Large Cap(除く金融)の予想経常増益率(前年度比)。2022年9月1日と現時点(2022年11月14日)の比較。(注2)下段は、四半期ベースの為替(米ドル円レート)、鉱工業生産、卸売物価。鉱工業生産および卸売物価は2022年7-9月期までが実績、以降は野村證券経済調査部による予想。米ドル円レートは、2022年7-9月期までが実績、以降は野村證券市場戦略リサーチ部による予想。いずれも前年同期比。
(出所)野村證券経済調査部などより野村證券投資情報部作成

 業績に影響を与える主要指標の前提を確認しておくと、これまで下振れていた生産は挽回生産の本格化により今後は業績の下方修正要因にはならない見通しです。

 これまで、業績の上方修正要因であった円安と、物価上昇はともに2022年度中は引き続き業績の押し上げ要因となりそうです。加速度的に業績予想が上方修正される可能性は徐々に低くなっていますが、2022年度中に業績モメンタムが失速する危険性は低そうです。

(投資情報部 伊藤 高志)

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

業種分類、Nomura21 Globalについて

ご投資にあたっての注意点