ESG投資とは、環境や社会、企業統治の点で優れた取り組みを行っている企業を選び、投資することで、投資を通じて社会に良い影響を与えようとする取り組みです。Eは環境、Sは社会、Gは企業統治の英語の頭文字です。この中で、Sの社会に焦点をあてて見ていきます。

 Sとはソーシャル、すなわち社会の頭文字です。主に労働環境、地域社会、人権問題などへの取り組み方を指します。具体的にはテレワークやフレックスタイムの導入、ボランティア活動の取り組み、社内でのハラスメント禁止の厳格化、人種や性別などに囚われない公正な人事の徹底などが挙げられます。

 それでは、企業がSの項目に取り組むことで、どのような効果を期待できるのでしょうか?上段の図にあるように、例えば、ある企業が途上国で不当な低賃金で重労働を強いられる労働搾取を廃止したり、公正な取引で生産者にも見合った利益が渡るフェアトレード品を積極的に消費者に提供した場合の効果を考えてみます。まず、企業にとっては、消費者に対して自社のイメージアップをはかる事ができます。またESG投資の対象になり株式市場での資金調達が容易になる可能性もあります。

 次に社会への影響はどうでしょうか?労働者が貧困から脱却し適切な教育を受ける人が増えれば、途上国の経済発展につながります。また、そうした人たちが地域社会や環境を守ることで、サステナブルな世界の実現が可能になるでしょう。

 最後は投資家への影響です。ESGのSに積極的に取り組んでいる企業は、消費者からの評価が高まって企業価値が向上する可能性があり、投資家は企業の持続的な成長を見込むことが出来るでしょう。また、投資を通じて社会問題の解決に貢献できるというメリットもあります。ただし、ESG投資の問題点の1つとされるグリーンウォッシュには留意が必要です。グリーンウォッシュとは企業がESGに取り組んでいるように見せかけることです。アピールしているだけで、実態が伴っていないことがわかれば、消費者や投資家からの信頼は失われます。

 そのため、ESGに注目して投資をする場合は、Sについての指標を企業が満たしているかを、開示情報などで確認する必要があります。一般的にSに関する指標の例としては、上段の表に示すように、CEOと従業員の報酬差や男女の報酬差などがあります。特に男女の評価や報酬、従業員の割合などは最近多くの企業が提示しています。

 では、Sに注目することで、投資のパフォーマンスは改善するのでしょうか?上段のグラフのグレーの線は東証株価指数です。赤い線はJPX S&P設備・人材投資指数です。この指数は東証株価指数の構成銘柄のうち、設備・人材投資に積極的かつ効率的に取り組んでいる企業を構成銘柄としています。人材投資に関する評価のポイントは、組織内における男女の平等や人権の尊重に関して積極的に取り組んでいることや、人権問題に対して強い決意を示していることなどになります。上段のグラフはこの2つの株価指数を、2005年9月末の水準を100とし、その後の推移を表しています。2本の線を比較するとJPX S&P設備・人材投資指数は東証株価指数を上回って推移しており、株式市場で人材投資に積極的な企業が高い評価を得られる可能性が示されています。長期の資産形成という観点から、ESG投資のSの社会に注目した株価指数への投資を検討してみるのはいかがでしょうか。

(野村證券 ファイナンシャル・ウェルビーイング室 谷 晶子)

ご投資にあたっての注意点