ESG投資とは、環境や社会、企業統治の点で優れた取り組みを行っている企業を選び、投資することで、投資を通じて社会に良い影響を与えようとする取り組みです。Eは環境、Sは社会、Gは企業統治の英語の頭文字ですが、このうち、Gの企業統治、すなわち、ガバナンスについては、正確な意味は意外と知られていません。そこで、このレポートでは、ガバナンスの重要性と企業の評価方法、ガバナンスをテーマにした株価指数のパフォーマンスを説明します。

 先ず、ガバナンスとは何でしょうか。ガバナンスとは、健全な企業経営を行うための管理体制のことです。簡単に言えば、経営のトップである社長を監視、監督する体制です。上段の図をご覧ください。これは日本企業のガバナンスの一例です。株主が株主総会で取締役会と監査役会の選任・解任を行い、監査役会が取締役会を監査、さらに取締役会が経営者を監督する、という体制を示しています。経営者が適切な経営を行い、着服や法令違反などの企業価値を下げる行動をとらないように、株主が株主総会を通じて経営者に影響を与えることが出来れば、投資家は安心してその企業の株式に投資することが出来ます。

 次に、ガバナンスに着目した投資では、企業のどのような取り組みが評価されるのでしょうか。上段の表をご覧ください。この表は、世界取引所連合が挙げるガバナンスの評価項目を示しています。取締役会の多様性や独立性、倫理と腐敗防止、データプライバシーなど、企業の価値向上とリスク回避につながる項目が並んでいます。これらの項目に積極的に取り組まない企業には、様々な事故やスキャンダルによって株価が下落するリスクがあり、反対に、積極的に取り組む企業は、問題を抱えるリスクが小さく、中長期的に成長を続ける可能性があると考えられます。投資家がこれらの評価項目を見ることで、将来その企業が抱えるかもしれない問題を予測し、投資の判断に反映させることができます。ただし、ガバナンスの評価には課題も有ります。例えば、評価項目の中には、基準があいまいなものもあり、企業が達成度を偽って発表するリスクがあります。そのため、投資家は、企業の報告書などをよく調べ、見極める必要があります。

 では、ガバナンスに注目することで、投資のパフォーマンスは改善するのでしょうか?上段のグラフをご覧ください。日本取引所グループがガバナンスの観点から、投資家にとって魅力的な企業を選んで作成したJPX日経インデックス400という株価指数を赤線で示しています。一方、灰色の線は、東証株価指数です。2つの株価指数は、2006年9月の水準を100にそろえています。これにより、2本の線を比べることで、パフォーマンスの推移を比較できるようにしています。赤い線を見ると、2010年頃から灰色の線を上回り、2022年9月時点でその差は5.9%に達しています。このグラフは、ガバナンスに注目した株価指数が、中長期的に、市場平均以上のパフォーマンスを挙げる可能性があることを示しています。

 中長期の資産形成という観点から、ESG投資の中でも、ガバナンスに注目した株価指数への投資を検討してみるのはいかがでしょうか。

(野村證券 ファイナンシャル・ウェルビーイング室 岡田 公現)

ご投資にあたっての注意点