国内において、ブロックチェーン技術を活用したデジタル証券の発行事例が増えている。デジタル資産を活用した資金調達としては、2010年代後半にかけ、各国で暗号資産による調達が活発化した。一方、規制が曖昧な中で詐欺的な事案が頻発する等、投資家保護が不十分といった指摘もなされ当局の規制強化が進んだ結果、調達額は急減し、代わって当局の規制の下で発行されるデジタル化された有価証券であるデジタル証券の発行が拡大した。海外では18年頃より国際機関等による大型の起債事例等がみられるが、日本においても20年5月に施行された改正金融商品取引法の下で金融商品としての発行が可能となった。

 デジタル証券は、証券保管振替機構等を利用した従来の管理とは異なり、ブロックチェーン技術を活用したプラットフォーム上で発行・流通等を一元的に処理できるといった点が特徴であり、とりわけ取引所を介さない社債等の売買小口化による流通の円滑化や発行コストの低減等が期待されている。国内では、20年よりデジタル債券の発行に向けた実証実験が大手金融機関等により進められ、21年より個人向け社債等を中心として、実際の発行事例が積み上げられてきている。投資家情報の管理を容易にできるといったデジタルのメリットを活かし、クーポン(利息)の一部を自社の顧客向けの独自ポイントで付与するといった取り組みもみられ、単なる資金調達手段としての範疇を超え、顧客マーケティングへの活用等への取り組みも進められている。

 これまで国内では個人向けの発行が中心であったが、22年6月には、日本取引所グループにより機関投資家向けとしては初となるデジタル社債がグリーンボンド(環境債)として発行された。同社債では、資金使途となる太陽光発電設備の発電量やCO2削減量といった指標を、ブロックチェーン基盤を通じ投資家にリアルタイムで提供する試みが実施されている。グリーンボンドの発行体にとって従来課題とされていた情報開示に要するコストの低減等が期待できる一方、投資家にとってもグリーンプロジェクトに係る投資効果の把握が容易になる効果が期待できる。こうしたデジタル技術の活用を通じて、国内でESG(環境・社会・企業統治)投資手段の多様化が進むことも期待される。

(野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング 川岸 圭太郎)

※野村週報 2022年11月28日号「資産運用」より

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点