米国の利上げペースは鈍化に向かう

 主要国の株式市場は、FRBの金融政策の方針やペースの変更が新たに示されるたび、大きく反応してきました。利上げの最終到達点について、市場予想を上回るFRB高官の発言が続いてきましたが、利上げ幅は徐々に縮小する見込みです。我々は、金利上昇懸念が一巡すれば、株式市場は復調に転じるとみてきましたインフレの鈍化を示す指標も見られ始めており、市場の不透明さは徐々に薄らいでゆくとみられます。

インフレ鈍化が鮮明になれば利上げ終了も視野に

 欧米でインフレ抑制に向けた利上げが進む中で、主要国の景況感は悪化しています。米国の成長率見通しも下方修正が進んできましたが、市場予想では景気後退までは見込まれていません。住宅市況は悪化が鮮明ですが、家計の債務に過剰感は無く、リスクは大きくありません。消費や雇用は堅調ですが、今後は金融引き締めの効果が顕在化することで、賃金や物価上昇率の減速が明確になるとみられます。これまで、FRBは4会合連続で0.75%ポイントの利上げを行ってきましたが、12月は0.50%ポイントに利上げ幅が縮小する転換点になるとみられ、インフレ鈍化が鮮明になれば、利上げの終了も視野に入り始めるでしょう

米国企業でリストラが始まる

 米国企業業績は、下方修正が優勢です。インフレ抑制に向けた金融引き締めにより、しばらく業績上方修正は起きにくいかも知れません。特に、足元は大手テクノロジー企業の業績下方修正が顕著で、世界展開する企業の米ドル高による米ドル換算利益の減少や、国内外の景気減速が影響しています。一方、これらの企業の中には人員削減に着手する企業も増えており、素早い業績回復に向けた取り組みも進められているようです

欧州経済は厳しい

 ユーロ圏ではインフレが深刻化しており、ECBの金融引き締めが強化されています。スタグフレーション(インフレを伴う景気悪化)懸念が強まっています。一部の金融機関で信用リスクが拡大していますが、個別の問題であり、システミックリスクにつながる可能性は小さいでしょう。

中国はゼロコロナ政策の修正へ

 中国では指導部人事が固まり、2023年にかけての主要な政治日程の節目で、景気復調に向けた経済政策の発表が期待されます。特に、景気に厳しいゼロコロナ政策はいずれ緩和されるとの見方が強まっており、行動制限が緩和されれば、景気復調の重要なポイントとなります。

日本企業には追い風が多い

 日本では新型コロナの新規感染者数が増えていますが、余程の医療ひっ迫が起きなければ、行動制限は行われないでしょう。企業の設備投資意欲は強く、製造業の挽回生産も進みます。予算ベースで29.1兆円の大型経済対策に関する補正予算が、今臨時国会で成立するとみられ、日本経済の下支えとなります。輸出物価の上昇は、製造業の業績改善に寄与しますが、円安や資源高による輸入物価の上昇による値上げラッシュで消費者物価が上昇しています。しかし、日本銀行は賃金上昇を伴う安定的なインフレで無いとして、金融緩和を続ける姿勢を崩していません。急激な円安にブレーキがかかっていますが、これまでの円安や挽回生産の本格化で業績上方修正が優勢になっています。海外を中心とする外部環境の不透明さが後退すれば、日本株市場は業績相場に戻るとみられます

投資戦略

 投資戦略については、米国を中心に経済やインフレ指標によって市場のボラティリティーが再び高まる懸念は残ります。しかし、インフレや金融引き締めはいずれ和らぎ、景気と企業業績への信頼感が回復することで、株式市場は業績相場に戻るとみます。

(投資情報部 小髙 貴久)

※野村證券投資情報部「Nomura 21 Global 12 月号」(発行日:2022年11月21日)「投資戦略の概要」より

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