COP27(第27回国連気候変動枠組条約締約国会議)や米インフレ抑制法(IRA)を受け、脱炭素関連の受け皿となる企業に注目すべきと考えます。

 COP27がインフレが問題となる中で開催されました。短期的に化石燃料の使用継続が容認され、排出権取引の下限価格設定は先送りされた一方で、主催者側が示した下記3つのテーマとその議論からは、中長期的により安定的な移行が提示されました。

① 「1.5℃目標(注)」への具体的な行動
② 資金繰り強化(緩和、損失と被害など)
③ 移行プロセスの透明性と説明責任

 ①についてIMF(国際通貨基金)は、温暖化ガス排出を2030年までに19年の約50%削減する必要があるにもかかわらず、21年時点の「国としての気候変動への貢献計画(NDC)」がすべて実行されても同11%削減に留まることを示しました。共同声明の草案では同43%削減の必要性が示されました。実現すれば、脱炭素化の設備投資が従来の計画の約4倍の規模に拡大する可能性もあります。②については、「損失と被害」基金を設立し、来年のCOP28で資金調達と運用について勧告を行う「移行委員会」の活動を2023年3月末までに開始する、具体的な合意がなされました。先進国にとっては、排出削減が遅れ気候変動が激しくなるほど、新興国の被害に対する補償額が大きくなることを意味するため、脱炭素化に向けた設備投資を前倒しするインセンティブとなります。③は、COP27に先立ち、ECB(欧州中央銀行)は市中銀行の気候と環境リスクへの対応策策定の期限を24年末に設定し、対応できない銀行に自己資本の積み増しなどの強制措置を取ることを発表しました。また、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、サプライチェーンを含めた排出までのESG開示を求めることを決定しました。これらは、脱炭素化の資金を企業に出させることを促す効果があります。

 脱炭素化を後押しする政策支援については、8月に成立したIRAの恩恵を企業が7-9月期決算で表明しました。中でもCCUS(CO2の回収・活用・貯留技術)については、IRAによる補助額引き上げで石炭火力発電所への導入が経済合理性に見合う、また、CCUSやクリーン水素の投資機会が300億ドルになる、といった具体的なコメントがなされました。IEA(国際エネルギー機関)のロードマップでは、CCUSは30年には先進国の石炭火力発電設備で必須ですが、資金回収の透明性が高まり設備投資が加速することで、米国では前倒しでの達成も考えられます。

 太陽光発電システムを設計・販売する企業や、建機レンタル企業、風力発電装置なども製造する資本財大手企業などの7月以降の株価は、IRAの成立前後で上昇し、その後規制導入の後ずれからやや下落したものの、COP27開催中は高水準を維持しました。脱炭素関連の設備投資の資金回収への透明性が高まり、設備投資の受け皿となる企業には追い風が継続すると推察されます。


(注)気温上昇を産業革命前比で1.5℃以内に抑えるパリ協定の目標

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