①先週の振り返り:「景気悪化でも利下げなし」で米国株下落

 週を通じて、米国株の主要3指数は下落しました。この下落には、大きく2つの要因が影響しています。

株価下落、2つの理由

 1つは、いわずもがな、14日(水)に発表された12月FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果です。12月の利上げ幅は市場予想通り(0.50%ポイント)だったものの、2023年末の政策金利見通しが事前の市場想定よりも高い水準が示されたことが嫌気されました。。

 もう一つは、主要な経済指標が下振れたことです。15日(木)の米国市場寄り前に発表された11月小売売上高や11月鉱工業生産指数などの経済指標が市場予想を下回り、景気減速懸念が一段と強まりました。

 景気よりインフレ抑制を重視する金融政策はPER(株価収益率)の低下に、経済指標の低下は予想EPS(一株当たり利益)の低下にそれぞれ作用します。株価は予想EPS×PERであり、この2変数の変化を織り込み株価は下落したことになります

実体データとFRBの姿勢、乖離しているように見えるが…

 様々なインフレデータが市場予想を下回り始めている中でも、FOMCがインフレ警戒と利上げ姿勢を堅持する姿勢を見せていることは、政策上の意図があると考えられます。FRB(米連邦準備理事会)が現時点で利下げ見通しを示すことでインフレ退治に成功したと見なされうるメッセージを発してしまった場合、現在進めている利上げの効果が減殺されてしまいかねないためです。

 FRBは2023年後半、インフレ退治→景気サポートへの姿勢転換を示してはいませんが、インフレ鎮静化が確度の高いものになれば、FRB高官から方針転換に関する言及も増えてくるでしょう。野村の米国マクロチームでは市場想定より大幅な景気悪化を見込むと同時に、2023年9月から景気下支えのために利下げを開始すると予想しています。

②今週の気になる指標:20日(火)の住宅着工・建設許可件数

住宅着工件数は景気の先行指標

 今週は、20日(火)に発表される11月住宅着工・建設許可件数への関心が高まります。住宅着工件数は、月中に建設が開始された新設住宅戸数を示す統計で、景気の先行指標としても知られています。感覚的にも、住宅が新規に建設されれば、家電や家具などが購入され、波及効果が大きいことは想像できます。

 景気循環の観点でも「金融緩和→金利低下→住宅着工の増加→景気の本格的拡大・過熱→金融引き締め→金利上昇★→景気の後退」という流れが一般的で、現状は★の辺りにいると考えられます。住宅市場の落ち込みが続けば、これに続く景気後退が深く(あるいは長く)なるリスクが高まります。逆に、住宅着工件数が増加に反転するようであれば、金融緩和とその先にある景気回復を読み取ることができます。

 なお、米国の住宅市場は8割が中古市場であることも知られています。21日(水)に予定されている中古住宅販売件数も、併せてみていきたいと考えます。

③今週の気になる決算:20日(火)のナイキ、アパレル復権はあるか

※ここで取り上げる銘柄は、あくまで「今週決算発表がある企業およびその関連企業」のうち、「米国経済やセクター全体を見通す上でインプリケーションが多い」という観点で言及するものです。個別銘柄の勧誘・助言を目的とするものではありません。

グローバル・アパレル企業、ナイキ

 ナイキ(NKE)が20日(火)に9-11月期決算を発表します。ナイキは、販売先はもちろん、サプライチェーンまで全てがグローバル展開されている世界最大級のアパレルブランドです。前回の6-8月期決算では、販売の多くがドル以外の通貨であることから、ドル高の影響を受けて業績が下振れました。また、海運・陸運など物流コストの上昇や混乱に影響を受けやすく、商品の納入がままならないことから在庫がだぶつくなどの課題を残しました。

①アパレル業界の「逆風」を確認

 今回の決算は、こうした「逆風」が止んだのか、吹き続けているのかを確認する上では良いタイミングと考えます。原油価格はひと時よりも落ち着き、物流の混乱も米国の運輸団体によるストライキなどを除き世界的には正常化に向かっていると考えられます。

②中国を初め各地域の消費動向を確認

 前回決算では、同社のセグメントにおける大中華圏を除きすべての地域が、2ケタ増収と需要は堅調でした。他方、大中華圏は2ケタ減益でした。中国本土のウィズコロナ政策への転換が進めば、推進役ともなり得るため、当社の見通しに注目が集まります。

③Eコマースの成長を確認

 Eコマースが進んでいるのも当社の特徴です。当社の売上高の2/3はフットウェアであり、その他の商品に比べてサイズ等の共通性からオンライン販売などのEコマースと親和性が高いと考えられます。2022年5月期では、売上高467億ドルのうち、100億ドル超をオンラインで販売しました。ブランディングや顧客の囲い込みの観点からも、アパレル業界の競争力の源泉となる可能性があります。

 ワールドカップも大いに盛り上がりました。今後のスポーツアパレルビジネスがどうなっていくか、同社の2023年5月期通期の見通しに注目したいところです。 

(FINTOS!米国株/小野﨑通昭)

ご投資にあたっての注意点