※こちらの記事は「野村週報2023年新春号」発行時点の情報に基づいております。

米10年国債利回りは低下へ

 米10年国債利回り(終値)のピークは、2022年10月24日に付けた4.2%台と考えている。FRB(米連邦準備制度理事会)は23年においても追加利上げを実施しようが、市場は却って、中長期的には米国経済が悪化、FRBが利下げに転じるとの見方を強める可能性が高いからだ。

 既に市場は、FRBがいずれ金融緩和に踏み切るとの期待を高めている。米OIS(オーバーナイトインデックススワップ)市場から計算される5年先の米政策金利に対する期待(フォワードレート)は、22年10月24日に約3.8%でピークを付け、12月14日には約2.9%へ低下した。FRB は22年11、12月に延べ125bp の追加利上げを実施したが、市場は却って、将来の米利下げ期待を高め、米10年国債利回りの低下にも影響している。

 今後の米国金融政策については、FRBは23年1~3月期においても延べ50bpの利上げを実施と予想している。米国では名目賃金上昇率が5%台と、インフレ目標達成に必要な3%程度を大幅に上回っている。追加の金融引き締めを通じ、雇用を悪化させ、賃金の伸び、基調的なインフレ圧力を抑える必要がある。FRBは23年には米政策金利を5%程度へ引き上げる考えを示しており、米金融市場も23年半ばには政策金利が5%程度へ上昇と見込んでいる。

 もっとも、野村では、23年4月以降、米政策金利は据え置きと予想している。22年11月の米コア消費者物価指数(除く食料品、エネルギー)の前月比が+0.2%、年率換算で約+2%に鈍化したこともあり、FRBは23年2、3月に追加利上げ幅をそれぞれ25bpとこれまでよりも引き下げ、米非農業部門雇用者数の前月差が減少トレンドに突入した後の23年4月以降、米政策金利は維持と予想している。

 23年の米国金融市場は、中長期的な米利下げ期待をさらに強める公算が大きい。FRBの追加利上げを踏まえ、市場は、将来の米国経済悪化懸念、米利下げ期待を強める公算が大きいからだ。23年を通じ、5年先の米政策金利に対する期待(フォワードレート)、ひいては米10年国債利回りは低下の一途を辿ると見込まれる。米10年国債利回りは22年12月2日の3.4%台から23年末に2.1%へ低下と予想する。

日本超長期債利回りも低下基調と予想

 ユーロ圏においても、独10年債利回りは22年10月21日の2.417%をピークに低下基調を辿ると予想される。予想される米経済悪化、ECB(欧州中央銀行)の追加利上げも影響し、市場は将来のユーロ圏経済悪化懸念を強める公算が大きいからだ。

 既に、ユーロ圏の金融市場から計算される5年先のECBに対する政策金利への期待(フォワードレート)は、22年10月21日の3%程度から22年12月14日には約2.2%へ低下した。ECBは22年7月~10月にかけて延べ2%ポイントの利上げを実施、市場は、政策金利が23年夏には2.9%程度と、現在の1.5%からさらに上昇と見込んでいる。しかし、市場はその後の景気悪化も懸念、5年後には政策金利が約2.2%へ低下との見方を有している。

 23年にもECB は利上げを実施と見込まれる。依然として、ユーロ圏の期待インフレ率は目標の2%を上回り、基調的なインフレ率は明確に低下には転じていないとみられるからだ。ECBは、インフレ率を加速も減速もさせない名目中立金利を約2%としているが、一部委員は政策金利を約2.5%へ引き上げたいとしている。

 しかし、このようなECBによる追加利上げは、米経済の悪化と相俟って、独10年債利回りの低下要因となろう。

 一方、日本は23年においても金融政策を維持すると見込んでいる。

 金融政策修正のためには、春闘賃上げ率が4%に迫る必要があろう。このような展開となれば、インフレ率が安定的に2%程度で推移する可能性が視野に入るからだ。

 しかし、23年の春闘賃上げ率は3%程度に留まり、インフレ目標の安定的な達成を視野に入れることは困難であろう。日本銀行は23年もYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)を維持する公算が大きい。日本の10年国債利回りの上限は、引き続き0.25%と予想される。

 日本の30年国債利回りは、22年10月24日の1.6%台をピークに低下基調を辿る公算が大きい。予想される米国経済の悪化、米利下げ期待の高まりに伴う米ドル安円高が、インフレ期待を後退させ、30年国債利回りの低下に資すると見込まれる。

 本邦投資家の中には日本の30年国債に投資妙味を見出す向きがある。日本の30年国債利回りは22年12月14日に1.4%程度と、本邦投資家にとっての為替ヘッジ付米30年国債利回り約マイナス1.4%を上回った。本邦投資家の30年国債購入も利回り低下要因となろう。

(市場戦略リサーチ部 岸田 英樹)

※野村週報2023年新春号「内外債券市場」より

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