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【特集】野村證券「四季報の会」 2024年春号が読み解く日本経済【5000~9000番台】

野村證券社内で行われている「会社四季報」(東洋経済新報社刊)を使った勉強会「四季報の会」。2024年4月3~4日の2日間に分け「2024年春号」(3月16日発売)について野村證券の投資情報部員が解説した。4日に行われた後半の解説(銘柄コード5000番台~9000番台)について概要をお伝えする。 【5000番台】「TSMC特需」鮮明に 5000番台は2025年3月期にかけて自動車産業の生産回復の恩恵を受けている企業が非常に目立っていました。さらに、他の番台と同様に、半導体関連も引き続き好調です。国別では、中国が厳しいという記述が目立ちました。 今号は、自動車の生産回復の恩恵と中国の経済環境の厳しさを中心に見ていきたいと思います。ユシロ化学工業(5013)は説明文の3行目から「2025年3月期は自動車生産回復続き、受注堅調、中国除きコロナ前水準復帰」とあります。「中国除き」が目立ちます。 西川ゴム工業(5161)は出だしから「中国軟調だが、国内や北米は新車生産を追い風に拡大」と書かれています。自動車の恩恵と中国の厳しさがわかります」自動車良さそうだなというのがわかります。 伝動用ベルトメーカーのニッタ(5186)は「物流やクリーンルーム向けに、国内は好調だが、中国で工作機械やEV製造ライン向けが減速」。自動車用防振ゴム大手の住友理工(5191)も「2025年3月期は中国停滞だが、トヨタ生産好調で国内や米州が伸びる」と書かれています。機械メーカーについては「中国が厳しい」といった趣旨の記述がかなり見られました。 続いて、半導体、特にTSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出で恩恵を享受している企業を紹介します。 パイル(基礎工事用の杭)を手掛ける三谷セキサン(5273)では「2025年3月期は前半に競争激化見込むが、 TSMC案件の寄与で後半にかけパイル出荷拡大」とあります。熊本地盤のコンクリート製品メーカーのヤマックス(5285)は右の見出しが「特需謳歌」と目立っており、「地元熊本で半導体関連の工事向けにコンクリート製品の需要が想定超。再増額で利益水準跳ね上がる。増配幅拡大」と記載されています。 パイルのトップメーカーであるアジアパイルホールディングス(5288)も「2025年3月期は後半にかけてTSMC関連が寄与し、パイル需要回復へ」とありました。TSMCに限らず、国内では半導体工場への投資が相次いでいますので、注目したいところです。 【6000番台】半導体需要はメーカーや製造装置以外にも波及 6000番台は機械や電気機器、電子部品などの企業が並ぶ番台です。このほかにも人材関連ビジネスを展開している企業や広告事業を展開している企業も含まれます。 ジャパンマテリアル(6055)は半導体・液晶工場向けの特殊ガス装置供給装置と特殊ガス販売サービスが主体となっている企業です。エレストロニクス関連が全体の97パーセントを占め、利益率も高い企業です。 右側の見出しは「反発」です。2024年3月期は「工場運営はメモリー顧客の減算打撃。TSMC熊本の工場内部案件の採算悪化、営業益は会社計画線へ減額」と、伸び悩んだ様子が見受けられますが、2025年3月期は「工場運営でキオクシアなどメモリー顧客の稼働率改善効く。工事もTSMC熊本第2工場が期末に加勢。人件費増をこなす」とあります。 やはり注目は半導体関連ですが、ジャパンマテリアルの「比較会社」に登場している日本酸素ホールディングス(4091)やエアウォーター(4088)などにも「増益」などといったポジティブな言葉が目立ちました。需要の増加が業界全体に及んできているのが見て取れます。 水処理の最大手の栗田工業(6370)をご覧ください。右側の見出しは「順調」です。2025年3月期は「半導体メーカーの稼働率上がり、精密洗浄底入れ、超純水供給も伸びる」と書かれています。比較会社の野村マイクロ・サイエンス(6254)は足元で業績、株価ともに大きく伸長しています。半導体メーカーや製造装置メーカーに注目や話題が集まりがちですが、半導体市場の拡大の恩恵は、素材や関連部材、各種機器や水処理の企業などにも波及していることがこういった企業の記事から確認できます。 【7000番台】自動車も政策保有株持ち合い解消へ 7000番台は重工や自動車がメインです。三菱重工業(7011)は株価も上昇し、PBRは2倍を超える水準まで高まってきています。 現在好調なのは防衛や原子力、ガスタービンなどです。左側の見出しは「GX(グリーントランスフォーメーション)」。「高速炉や高温ガス炉など原子力の受注積み上げ」とのことで、温室効果ガスをほぼ出さない原子力に注力するなど、明確な事業戦略を打ち出してきている印象があります。 川崎重工業(7012)も「急反発」で、こちらは船舶が好調のようです。一方、左側の見出しが「防衛」で「スタンドオフミサイルや無人機開発に注力。2030年の防衛売上最大7,000億円へ」とあります。また、「世界初となるドライ方式の水素専焼ガスタービン販売」とあります。水素は中期的に多くの分野で必要になると考えられていますので、ニッチな分野でも水素サプライチェーンにおいてシェアを獲得できると、高い成長につながるかもしれません。 IHI(7013)はエンジン関連の損失で 2024.3期は厳しいですが、2025.3期は「一過性の損失一巡、部品伸び航空急改善。防衛も追い風続く」とあります。 左側の見出しは「世界初」で「アンモニア専焼ガスタービン」だそうです。さらに「水素ターボブロア開発」ともあり、やはり水素とアンモニアに注力するようです。重工各社はGXに舵を切って利益を上げていこうという経営戦略が見て取れます。さらに、各社が防衛産業で利益を獲得できるようになってきた点にも注目です。 次に自動車です。トヨタ自動車(7203)では「日米軸に高単価SUV好調、円安効果や販価是正が想定超」などと書かれており、自動車各社はどこも概ね好調です。 トヨタ向け部品大手のアイシン(7259)は「北米改善が想定超」と好調のようですが、気になるのは後半の「政策保有株売却や在庫圧縮などで、2025年までに2022年度比 4000億円の保有資産削減」と書かれている点です。削減した分の資金を何に使うかに注目が集まりそうです。 トヨタグループはお互いに政策保有株を長年持ち合っていましたが、足元では、グループ内の政策保有株を売却する流れが出てきています。大量の政策保有株売却によって、一時的に株式の需給が悪化してしまうことも考えられます。しかし、売却した資金はこれまで「固まっていたお金」ともいえるので、それが使えるようになれば、資本の効率化が進みますので、ROE(株主資本利益率)の改善に寄与すると期待されます。 【8000番台】銀行では「貸し出し利ザヤ」に注目 「ザ・ノース・フェイス」などのブランドを展開するゴールドウィン(8111)には、「中国人訪日客から人気」との記述があります。また、デサント(8114)も「合弁の中国デサント事業が絶好調で持分益拡大」とあります。 キャラクター商品のサンリオ(8136)では「インバウンド需要で国内物販絶好調。北米、中国軸にライセンス伸長」とあります。化粧品などは原発処理水の風評被害で中国人から敬遠されがちで、中国経済自体も厳しい状況にありますが、一部の領域では中国人のニーズを捉えていることがわかります。 8000番台の中心ともいえる銀行を見ていきます。銀行については外債の損失による実現損が出て足を引っ張っているという記述が目立ちますが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は冒頭から「連続最高益」とあります。 やはり外債実現損に関する言及はありますが「預貸金収益好調」とあり、外債の実現損はあっても、大手のメガバンクは利益堅調です。 地方銀行も含め銀行は全体的に貸し出しが増えているという記述が目立ちましたが、金利上昇で貸し出し利ザヤが上昇しているという記述は一部の銀行にしか見られませんでした。金利が上がってくる局面で業績の上昇余地はまだあるのではないかと感じました。 三井住友フィナンシャルグループ(8316)も「最高益」です。大手はやはり業績はよくて2025年3月期は国内外で貸出金利息が順調増」とありますが、次の千葉銀行(8331)は中小企業向け融資や、住宅ローンが漸増とはありますが、貸出金の利ザヤに関する記述はありません。 地銀大手のふくおかフィナンシャルグループ(8354)は「貸出金利息堅調」とあります。ただ、2025年3月期は「貸出残高漸増」のみで、利息に関しての言及はありません。地方銀行では、このようなケースが目立ちました。なお、同社傘下では、「熊本銀に続き、福岡銀にも半導体関連融資の専門チームを創設」とあります。銀行業界でも半導体産業に絡む動きが起きています。 【9000番台】メディアの雄・テレビ局に変化が 9000番台の主な業種は運輸、通信、電力、ガスなどインフラに関わる業種が中心です。 まずは私鉄です。不動産業界などと同様に、私鉄業界もホテルが好調です。 単価上昇しているケースが多いのですが、一部の地域によっては、若干回復に一服感が出てきているようです。 東武鉄道(9001)の右の見出しは「反落」です。鉄道業界は概ね業績はよいのですが、同社の反落は、コロナ対策の受託事業が消えたことが要因のようです。ただ、それ以外鉄道も定期外収入やホテルは好調です。相鉄ホールディングス(9003)は「2025年3月期マンション分譲と大型商業施設開業で不動産伸び、ホテルも好調続く」とのことです。 続いて、最近注目を集め、株価も上昇傾向にあるテレビ局を見ていきたいと思います。軒並みPBR1倍を切っています。資本効率を高めるために、各社施策を進めています。テレビ局は長く政策保有株を保有していた企業が目立っており、結果として資産が膨らみPBRの下押し圧力となっていました。 政策保有株の売却益をどう使うのかそのお金どう使うのかが注目されます。TBSホールディングス(9401)の左側の見出しは「アニメ」。「松竹(9601)と資本業務提携、両者30億円上限に株式取得。他局に出遅れたアニメ事業で協力」とのことです。次はアニメに注力して収益を上げていこうと考えているようです。 日本テレビホールディングス(9404)は今年2月、6月の株主総会で定款の変更を提案し、株主名簿への記載を拒否されていた外国人にも配当を出すという旨の発表をしています。 外国人が配当を受け取れるかどうかの不確実性が減って、株式を買いやすくなります。需給にはプラスに作用し、企業側も自社株買いをしやすくなるため株主還元を手厚くすることができます。実際、同社は定款変更と同時に自社株買いも発表し、株価は大きく反応しています。 他のキー局でも同様の変化がみられるかこれからの決算発表や株主総会の結果に注目したいと思います。 (【1000~4000番台】を読む) ※「四季報の会」は、パートナー(個人投資家向けの営業担当者)に対して四季報の読み方を解説したものであり、個別の企業の株式に対する投資判断を提供する目的ではありません。画像はイメージです。 ご投資にあたっての注意点