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05/06 19:00
【特集】セル・イン・メイ-「株は5月に売り逃げろ」は有効か? 長期日米株価から検証
「セル・イン・メイ」という相場の格言をご存じでしょうか。「5月にいったん売り逃げろ」という米国などで言い伝えられてきた先人の教えです。これには「ただし9月にはマーケットに戻ってこい」という続きの言葉があります。昔からあるアノマリー(経験則)に沿って株価変動を分析してみると、どんな結果が見えてくるでしょうか。野村證券で個人投資家向けに株式投資の情報を提供している投資情報部に、過去の株価変動の検証を踏まえて話を聞きました。 月間平均騰落率は10月以降堅調、勝率でも差あり ――これまでのNYダウと日経平均株価の動向から見て、セル・イン・メイは有効な戦略と言えるのでしょうか。 セル・イン・メイの格言について、1940年代から2024年3月までのNYダウと日経平均株価の株価動向を検証してみましょう。まずは各株価指数の月間平均騰落率です。NYダウと日経平均株価ではともに、5月から9月までに比べ、10月から4月にかけては堅調な月が多い様子がうかがえます。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注)NYダウの動向は1945年1月からの月末値を基に算出、日経平均株価の動向は1949年6月からの月末値を基に算出。ともに直近値は2024年3月末。(出所)NYダウの動向はS&Pダウジョーンズ・インデックス社、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成。日経平均株価の動向は日本経済新聞社、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 次に、セル・イン・メイについて、株価指数の月末値を使った期間別平均騰落率を試算して検証してみたいと思います。セル・イン・メイ(5月に売る)とすると、時期の近い月末値は4月末もしくは5月末になりますが、今回の試算では、この時期を4月末と置きました。格言に則った「前年9月末に各株価指数を買い、4月末に売った場合」と、格言の反対の投資行動といえる「4月末に買い、9月末に売った場合」とで比べてみましょう。 「前年9月末に買い、4月末に売った場合」は、NYダウと日経平均株価のいずれも+8.1%と高いパフォーマンスになりました。一方で反対の「4月末に買い、9月末に売った場合」は、NYダウは+0.2%、日経平均株価は+1.5%と冴えない結果となっています。 (注)NYダウの動向は1944年9月からの月末値を基に算出、日経平均株価の動向は1949年6月からの月末値を基に算出。ともに直近値は2024年3月末。(出所)NYダウの動向はS&Pダウジョーンズ・インデックス社、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成。日経平均株価の動向は日本経済新聞社、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 「上昇した回数が占める割合」を表す勝率はどうでしょうか。格言に則った「前年9月末に買い、4月末に売った場合」は、NYダウと日経平均株価はともに約7割の確率で上昇しています。一方で、逆に「4月末に買い、9月末に売った場合」はNYダウも日経平均株価も5~6割程度でした。 (注)NYダウの動向は1944年9月からの月末値を基に算出、日経平均株価の動向は1949年6月からの月末値を基に算出。ともに直近値は2024年3月末。(出所)NYダウの動向はS&Pダウジョーンズ・インデックス社、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成。日経平均株価の動向は日本経済新聞社、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 このようにNYダウと日経平均株価における長期株価動向によると、アノマリーもあながちただの言い伝えとは言えなさそうです。 ――5月から9月にかけて株価パフォーマンスが鈍化傾向にあった要因として、どんなことが考えられるのでしょうか。 まず米国では、個人の確定申告の税還付の資金流入が一巡することや、夏季休暇前のポジション調整などがその理由として挙げられます。日本でも、夏場はお盆休みなどで市場参加者が減り、株式市場の取引高が減少して相場があまり動かなくなる、いわゆる「夏枯れ相場」などがあります。いずれにしても明確な根拠はなく、セル・イン・メイはあくまでも一つのアノマリーとして考えた方がいいでしょう。 2024年の今後の注目ポイントは? ――話は変わるのですが、最後に、2024年の足下までの市場動向とこれからの株式市場を見ていく上で、注目すべきポイントを教えてください。 2024年はNYダウも日経平均株価も1月から3月にかけて大きく上昇し、3月末までに、ともに史上最高値を更新しています。その一方で4月から6月にかけては、その反動が出やすいと見込まれます。特に日本市場に関しては、この先、1ドル=140円を割り込むなど円安修正の動きが急激に進行した場合は、株価はもう一段下がる可能性もあるかもしれません。 下期に入ると、11月5日の米国大統領選が、米国だけではなく日本の株式市場も含めた変動要因になることも考えられます。民主党・共和党のどちらの候補者が勝利するかで政策の方向性が変わるため、企業はその状況を見極めようと選挙後まで経営の意思決定や設備投資などを後ずれさせる可能性があるためです。 変動要因の見極めが難しい時期の投資はリスクが大きい一方で、リターンの期待値も大きくなります。今回の大統領選挙の前後で株価の動向がどうなるかはわかりませんが、中長期的な投資をする上でも、米国大統領選の行方は視野に入れておく必要がありそうです。 ※本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。 ご投資にあたっての注意点
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05/06 12:00
【特集】“インデックス以上”を期待できるアクティブ・ファンド選び プロの5つの視点
撮影/竹井俊晴 数多くのファンドのなかから、自分の資産形成に適したファンドを選ぶために、どのような視点を持てばよいでしょうか。 例えば、インデックス・ファンドとアクティブ・ファンドの違いや、インデックス・ファンドを上回るパフォーマンスが期待できるアクティブ・ファンドの選び方などについても理解しておくと、銘柄選びの手助けとなるでしょう。 ファンド評価会社の野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングの今村信博は、上記のようなファンドを選ぶ視点は5つあると言います。詳しく解説してもらいます。 インデックス・ファンドとアクティブ・ファンドの違い ――「全世界株に投資するインデックス・ファンド1本でいい」といった意見を聞くことがありますが、インデックス・ファンドとアクティブ・ファンドの違いとは何でしょうか。 野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング(以下、NFRC) 今村信博(以下同)インデックス・ファンドは、特定の指数と連動することを目指して運用されるファンドです。例外もありますが、主要な国や地域、全世界などの指数を対象とするファンドがほとんどです。 それに対し、アクティブ・ファンドは特定の地域・国・業種・テーマなど、様々な投資対象のバリエーションがあります。小型株やハイ・イールド債といった、ニッチな資産クラスを対象としたものもあり、個人投資家の運用目的や関心を持っているテーマ、投資哲学に合わせた投資ができます。ただし、インデックス・ファンドに比べると相対的にコストは高めです。 例えば「日本株が今好調なので投資比率を高めたい」と思ったとします。インデックス・ファンドの場合、日本株市場の全体に投資することになりますが、アクティブ・ファンドの場合は「これから成長が見込める中小型株に投資したい」「配当を多く出している企業に投資したい」など様々なテーマや哲学で選ぶことができるわけです。選択肢が広がるのがアクティブ・ファンドの特徴とも言えます。 ――「アクティブ・ファンドはコストが高く、コストも加味したパフォーマンスではインデックス・ファンドに勝てない」という意見をよく聞きますが、本当でしょうか。 比較する期間や対象によって違いますが、インデックス・ファンドのパフォーマンスを上回った、言い換えれば、“勝った”アクティブ・ファンドはあります。 しかし、特に今の米国株市場は、時価総額の高いマグニフィセント・セブンと呼ばれる企業が指数の構成比で上位を占めています。それら特定の銘柄が指数のパフォーマンスをけん引している側面があり、アクティブ・ファンドがリスク管理の観点などから、それらの銘柄を十分に保有できていない場合などに、インデックス・ファンドのほうが有利になる可能性があります。 一方、NFRCでは、日本株市場を対象に、インデックス・ファンドとアクティブ・ファンドでどちらの平均リターンが高いのか比較を行ったことがあります。すると、調査対象の期間によって結果は変わることがわかりました。 ※野村総合研究所Fundmarkの国内株式/一般/フリーに分類されるファンド(2023年12月末時点で、10年以上の運用実績があるアクティブ・ファンド131本)を対象とした調査。勝率はファンド数ベースで算出。期間は過去3年(2021年1月~2023年12月)、過去5年(2018年1月~2023年12月)、過去10年(2014年1月~2023年12月)で比較 過去3年間は、インデックス・ファンドが強いのですが、5年間、10年の期間で見てみると半分くらいのアクティブ・ファンドが勝っており、平均リターンもわずかにアクティブ・ファンドが上回っていました。 直近の3年間は、日本株市場全体が上昇する局面にありました。つまり、業績のいい企業も悪い企業も総じて上がる市場環境ではインデックス・ファンドが強いのですが、市場のいい時も悪い時も含めた長期投資の視点では、個別銘柄を目利きして選んでいるアクティブ・ファンドが有利になる可能性があります。 ファンドは“生もの” 良い実績がこの先も続くとは限らない ただし、長期投資をすればどのアクティブ・ファンドも勝てるというわけではありません。同じ資産カテゴリーのファンド間でも大きなリターン格差が生じることがあります。こちらをご覧ください。 日本株全般を投資対象とするアクティブ・ファンドに関して、過去10年間の累積リターンを示しています。最も結果の良かったファンドは約+284%であった一方で、最も結果の悪かったファンドは約-25%と、実に300%以上もの差があります。 アクティブ・ファンドおよびインデックス・ファンド平均は単純平均出所: 野村総合研究所Fundmarkで「国内株式・一般・フリー」に分類された全投資信託の税引き前分配金再投資後リターンを基にNFRC作成 ――大きな差ですね。パフォーマンスの悪いアクティブ・ファンドを選ばないようにするためには、過去のパフォーマンスのいいものを選ぶと良いのでしょうか。 過去の運用実績が良いからと言って、将来の運用実績が高いとは言えません。こちらは、日本株へ投資するアクティブ・ファンドについて、2020年12月までの3年間のリターンと2023年12月までの3年間のリターンを比較したチャートです。 前半の3年間でパフォーマンスがいいものが、後半ではぐっと下がっている、その逆もあることがわかると思います。 Fundmark 「国内株式:一般:フリー」に分類され、過去6年間の運用実績を有するファンドについて、累積リターン・ランクの変化を表示している。なお、累積リターン・ランクは、3年前と直近月のそれぞれの時点において、過去3年間の運用実績を有した全ファンドの中での相対的な順位を表している。出所:NFRC その理由のひとつは市場の変化です。バリュー株投資が優位な市場からグロース株投資が優位な市場に変化する、またはその逆もあります。他に、運用会社の買収・合併や運用者の交代、運用手法・プロセスの変更などにより過去のパフォーマンスの再現性がなくなってしまうことがあります。ファンドは“生もの”なのです。 強いファンドを見極める「定性評価」とは ――過去のパフォーマンスだけではファンドを選べないということがわかりました。では、何を見るのが良いのでしょうか。 NFRCは、ファンドを評価するために、過去の運用成績がどうだったかという定量評価ではなく、将来どうなるかを予測するための定性評価を重視しています。主に注目しているのは、運用体制・運用プロセス・情報開示の3つの観点です。 伝統的資産:株式や債券などを指す。出所:NFRC 優れた運用成績があるかどうかはもちろん、その運用体制が強固なものであるか、根底にある運用哲学にぶれがないかどうかを見ることにより、中長期の観点で運用を任せられるファンドなのかどうかを判断するのです。 評価項目は多岐にわたり、例えばファンドマネージャーやアナリストたちの人事評価の方針なども調べます。彼らが働くモチベーションを保てるかどうかは運用体制を判断するうえで大切だからです。 ――個人投資家が、定性評価の観点から、ファンドを判断することはできますか。 ファンドのホームページ等に載っている目論見書や運用報告書などを通じて、ある程度の情報を取ることができますが、特に5つの観点はチェックしてほしいと思います。 運用実績コスト水準ポートフォリオの状況投資哲学・運用方針資産規模 純資産 上の3つは、目論見書や運用報告書などでわかる部分も多いと思います。 4つめの「投資哲学・運用方針」については、運用担当者がインタビューに答えていたり、動画投稿サイトなどで発信したりしていると、投資哲学や運用方針がわかりやすいでしょう。それに共感できるかどうかは大切です。 例えば、社会貢献している優良な企業に投資する哲学を持つファンドがあったとして、投資家がそれに共感していれば、投資を通じて社会貢献している実感を持つことができるでしょう。その哲学が崩れなければ、市場が悪いときにも投資を続けるモチベーションになるかもしれません。 ――5つ目の資産規模をチェックする必要があるのはなぜですか。 急激に資産規模が縮小し、償還条項に近づいているようなファンドは、償還するリスクが相対的に高まっているため注意が必要です。 一方で、大きくなりすぎている場合も注意が必要なのです。例えば中小型株の投資でパフォーマンスがよかったファンドの資産規模が大きくなると、中小型株への投資だけではポートフォリオを保てなくなり、大型株を一部組み入れるなど方針が変わってしまう場合があります。すると、本来の強みを発揮できなくなることも考えられます。 大切なのは、こうした視点でファンドを継続的にみることなのですが、個人投資家にとっては情報収集が難しい点もあるでしょう。そこで、我々のようなファンド評価会社を活用してほしいと思います。例えば野村證券のオンラインサービスでは、主要なファンドについて「ファンド詳細レポート」を見ることができます。公開情報だけではとらえにくい定性面でのポイントなどを記載しており、過去と比較した継続性についてもまとめています。 ――こうした情報収集をしながら、自分の投資哲学に合うアクティブ・ファンドを見つけられると、投資リテラシーも上がりそうです。ありがとうございました。 野村の投資信託情報誌「Nomura Fund21」は、投資信託業界の潮流や変化、最近の投資戦略やトレンドなどが理解できる情報を掲載しています。Vol.162では、野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングが解説する「良いファンドの見極め方」や、「運用会社に聞くアクティブ運用の裏側」を特集しています(偶数月第1営業日更新)。 こちらから読むことができます。Nomura Fund21|野村の投資情報|野村證券 野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング ファンド分析部長ファンド・リサーチ・ヘッド今村信博(いまむら・のぶひろ)1998年、中央大学経済学部卒業。同年、野村證券入社。広島支店等を経て、2003年、野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー(現野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング)ファンド分析部。一貫してファンド・アナリストとして従事し、外国株チームリーダー、ロンドン支店長等を歴任、2020年ファンド・リサーチ・ヘッド、2022年にファンド分析部長に就任、現在に至る。CFA協会認定証券アナリスト、CAIA協会認定オルタナティブ投資アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト ※本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングの見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。 ご投資にあたっての注意点
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05/06 09:00
【野村の動画】建設費上昇、不動産業界への影響は?
近年の建築費の高騰とビル賃貸市況を鑑み、五反田TOCビルの建て替えが延期されることが発表されました。現在の不動産業界において、計画変更や遅延のリスクは高まっているのでしょうか?そして、各社の業績への悪影響についてはあまり考慮しなくても大丈夫なのでしょうか? ご投資にあたっての注意点
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05/05 19:00
【野村の動画】地政学的リスク上昇に過度の懸念は不要
金融市場では、中東情勢の緊迫化による地政学リスクの高まりが懸念されています。過去の地政学リスクイベント発生時の国内外株式の傾向を確認すると、イベント発生から1~2ヶ月間ほどは株価が一進一退となるものの、その後は上昇する傾向が見られました。 ご投資にあたっての注意点
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05/05 12:00
【特集】積立投資いつ始める?森永康平が「今」と考える理由
撮影/齋藤大輔 投資信託などを毎月一定の金額をコツコツ積み立てる「積立投資」はいつ始めるといいのでしょうか。積立投資の考え方を経済アナリストの森永康平さんに聞きました。 積立投資は長期投資の基本 ――積立投資を始めるにしても、日経平均株価が4万円付近にある今、株価がもう少し下がってからの方がいいのではと考える人もいると思います。いつから始めるのがいいのでしょうか。 森永:株価がどうであれ、積立投資は思い立った時に始めたらいいと思います。将来のことは誰にもわからないですし、今が高値と決めつけるのは少し傲慢かもしれません。日経平均株価の長期チャートを見ていると視覚的には高値に見えるかもしれませんが、1989年のバブル期には62倍にも達していた予想PER(株価収益率:日経記者予想ベース)は2024年4月1日現在、約17倍と異常なほど高いわけではありません。ここ10年は異常値を除けば16倍台が上限になっていたため、確かにいいところまで上昇したな、とは思いますが、バブルとは言えないでしょう。 企業の業績回復に伴ってここからさらに上がる余地はあるし、一方で、ここまでの上昇スピードが速すぎるため、多少は調整局面を迎えて下がるかもしれません。上にも下にもどちらにも振れる可能性があり、ベストタイミングを見極めるのは難しいです。 ただ、市場は上がったり下がったりを繰り返すものであり、長期目線で投資信託などを毎月一定の金額をコツコツ積み立てる「積立投資」を考えるのであれば、始めるタイミングで迷うよりも、早く始めた方がいいと言えます。もし今、「日経平均株価は高い、これから下がる」と考えているなら、むしろ有利だと思いますよ。 ――「これから下がると考えているなら、むしろ有利」とはどういうことでしょうか。 森永:積立投資の基本である「ドルコスト平均法」を思い出してみましょう。価格が変動する商品に対して毎月一定額の積立投資をするということは、価格が低い時には購入量(株数)が増え、逆に価格が高い時には購入量(株数)が減ります。 これから日経平均株価は上昇し続けると考えるなら、今すぐ投資を始めた方がいいことに異論はないでしょう。逆に、「今は高値でこれから下がる」と考える人にとっても、株価が下落する局面では多くの株数を買い付けて平均買付単価が下がっていくことになるので、マーケットが反転して上昇した時には資産が増えやすくなります。 (注)上記の数字はあくまでも一定の条件を基に試算した結果であり、税金や取引コストは含まれておりません。また、ドルコスト平均法は将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではありません。局面によっては(例えば、購入対象の金融商品の価格が長期にわたって下降トレンドをたどるなど)、投資成果が期待できない場合もあります。(出所)野村證券投資情報部作成 ――積立投資が不利になるシナリオはあるのでしょうか。 森永:最悪なのは投資してからずっと株価が下がり続けることですが、それ以外だと株価が右肩上がりでずっときたものの、積み立てた資金を取り崩す際に大きく値下がりしてしまったというケースも不利なシナリオと言えるでしょう。積立投資を始めてから株価が右肩上がりだと気持ちよくなりますが、それは同時に平均買付単価が切り上がり、購入量(株数)が減ることでもあります。 ――積立投資は長期運用が向いているというわけですね。では、例えば50歳から始めるのは遅いでしょうか。 森永:よく聞かれる質問ですが、日本人には当てはまらないと考えています。日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳(出典:厚生労働省「令和4年簡易生命表」)と世界トップクラスです。50歳で始めたとしても、20年、30年と長期で積立投資をすることは可能です。 それだけ長期で運用することを考えると、積立投資をやめたくなる要因をどれだけ減らせるかが大事なポイントになります。「株価が高い時には積み立てをやめて、安くなったらまた始めよう」などと思っていると、常にチャートや株価ボードと睨めっこになりますし、どこが高値なのか安値なのか分析するのが手間になってきます。その結果、投資自体をやめてしまうことになりがちです。株価水準は気にせずに淡々と一定額を積み立てる人が、結局、長期投資で成功する可能性が高いと思います。 コア部分で安定を、サテライト部分で高リターンを狙う ――積立投資の考え方について理解しました。実際に積立投資を始めたいんですが、様々な投資信託がある中で何を基準にして選んでいいのか悩んでいます。 森永:「コア・サテライト戦略」は一つの考え方だと思います。運用資産をコアとサテライトに分け、コア部分は安定的に運用し、サテライト部分で自分好みの商品を機動的に入れ替えながら運用することで市場平均よりも大きなリターンを追求するという方法です。 投資に時間をかけられない人や投資初心者の場合、コア部分を8割もしくはそれ以上の比率にし、株価指数に連動するインデックス型投資信託を選んでもいいと思います。一方のサテライト部分はもう少し自由度を高くして、市場や経済の動きから上がりそうな分野を考え、自分が興味を持った商品を選んでみるといいでしょう。といっても、細かく企業分析をする必要はありません。 例えば、訪日外国人が増加しているのであれば、運輸や旅行、外食関連の消費需要が増えるんじゃないかぐらいの見通しで十分です。半年から1年先のストーリーをぜひ楽しみながら思い描いてみてください。 サテライト部分はアクティブ型投資信託でもいいですし、REIT(不動産投資信託)でも、新興国株式の投資信託でも、テーマ型投資信託でもいいと思います。リスクとリターンは表裏一体なので、大きなリターンを追求すると、場合によっては投資元本を大きく下回る可能性が高まるかもしれません。ですが、2割以下のサテライト投資の範囲で投資すると決めていれば、資産全体への影響は小さく抑えられます。 コア・サテライト戦略のイメージ図 ※野村證券未来共創推進部作成 「エンハンスト・インデックス」を自分でつくる ――コアとサテライトで分けて考えると、運用の目的もそれぞれ明確になってきそうですね。コア部分の選び方で注意すべきことはありますか。 森永:一般の投資家の方と話をしていると、「全世界の株式」と「米国株式(S&P500)」を投資対象とする投資信託を組み合わせて分散投資をする考え方をしている人もいるようですが、それで分散効果が高まっているとは言い難いです。「全世界の株式」を投資対象としているので世界の数十カ国に均等に分散投資していると思いがちですが、実際の投資信託の組入比率(純資産総額に対する割合)は過半を米国株式が占めるものが多いようです。思ったよりも米国株の比率が上がっており、米国市場の株価が大きく下がって驚くこともあるでしょう。 本当に分散したいなら、株式の比率を下げて債券を組み入れるのも一つの手だと思います。その意味で、バランス型投資信託という選択肢も出てきます。特に50代などからの投資で資産の下落を抑えたいと考える人に向いていると言えるでしょう。 ――サテライト部分の選び方で、具体例はありますか。 森永:例えば、コア部分を日本株式のインデックス型投資信託にしたとして、サテライト部分では日経平均採用銘柄のうち配当比率の高い銘柄だけに投資するアクティブ型にすることで、インデックス運用にアクティブ運用のスタイルを一部取り入れた自分なりの「エンハンスト・インデックス運用」をするのも一つの方法です。 ――サテライト部分でインデックス型に「味付け」して投資を楽しむという考え方もあるんですね。商品を選んだり入れ替えたりする際は、何を基準にして判断したらいいのでしょうか。 森永:米国市場も日本市場も、3カ月ごとに行う四半期決算のタイミングでPERを確認するぐらいでいいと思います。積立投資は長期運用が前提なので、自分が続けられるルーティーンであることが大事です。 マネネCEO/経済アナリスト森永康平(もりなが・こうへい)証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。日本証券アナリスト協会検定会員。経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会」委員。著書は『親子ゼニ問答』(角川新書)、『スタグフレーションの時代』 (宝島社新書)など多数。 ※本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。 ご投資にあたっての注意点
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05/05 09:00
【基礎から学べる「行動ファイナンス」】 最終回 まとめ:行動ファイナンスに期待すること
(注)画像はイメージです。 野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が手掛けたシリーズ「基礎から学べる行動ファイナンス」では、これまで14回にわたって、行動ファイナンスの基本から応用まで、さまざまな事例や手法について取り上げました。最終回となる今回は、改めて連載を振り返り、今後の行動ファイナンスについての筆者の期待をお伝えしたいと思います。 本シリーズでは、前半で個人投資家が陥りやすい代表的な「心理バイアス」を紹介し、後半では心理バイアスに陥らないための「行動コントロール」の技術について解説しました。 前半:代表的な「心理バイアス」を紹介 第1回「合理性と心理バイアス」では「人はお金に関して合理的であろうとするが、合理的ではない行動も行ってしまうものである」という行動ファイナンスの基本を掲げたうえで、代表的な12の心理バイアスを紹介しました。第2回「直感システムと熟慮システム」では、こうした不思議な行動を「普通の人は熟慮して行う判断と直感的な判断の2種類の判断を行うからだ」という「2重過程モデル」で説明しました。 続いて、心理バイアスが間違った投資行動に結びつく具体的な例を、第3回「人の行く裏に道あり花の山」、第4回「高値覚えと塩漬け株」、第5回「すっぱいブドウのバイアス」、第6回「決定麻痺のわな」で順に紹介しました。 シリーズ後半の「どうすれば失敗を逃れることができるのか」という説明に入る前に、第7回「『思い込み』の問題」の話をしました。心理バイアスによる失敗のエピソードに比較して、その失敗を防ぐ手段の話は心に残りにくいということをあらかじめ警告するためです。 後半:行動コントロールの技術を解説 「どうすれば失敗を逃れることができるのか」という技術を、行動コントロールの技術と呼んでいます。 第8回「フレーミング効果とリフレーム」で、意識的に見方を変える「リフレーム」の技術、第9回「自分の未来にも約束させる」で、自分の将来の行動に制約をかける「コミットメント」の技術、第10回「複雑さを避ける」と第11回「複雑さを避ける(2)」では正確さをあえて犠牲にする「単純化」の技術についてそれぞれ説明しました。 さらに、第12回「イメージの力」では、投資目標をイメージすることの重要さについて述べた後、第13回「売りたい気持ちと『リフレーム』」では「株価が上がったので売りたくなった」とよく考えがちな人に向け、行動ファイナンスの観点から考える解決策についてお伝えしました。そして、第14回「デフォルトの活用」では、人が良い選択を自発的にするための後押し(ナッジ)の成功事例であるデフォルト(何も選ばない時に自動的に選択される物事)の使い方を、それぞれ解説しました。 日本の金融経済教育での活用に期待 行動ファイナンスの研究の中でも、行動コントロールの方法やその効果を調べることは比較的新しい分野といえます。近年のデータサイエンスの流行もあって、大規模な個人の行動分析の対象は大きな広がりを見せています[1]。 欧米では過去の金融経済教育の失敗から学び、行動コントロールの技術を金融経済教育に活用し始め、結果として個人投資家の合理的な行動を促すことに成功しました[2]。 今後は日本でも金融経済教育での行動コントロールに基づいた教育プログラムの導入や、科学的なアドバイスの活用などにより、個人投資家の合理的な投資行動を広げる流れが生まれることを期待しています。 [1] 大庭昭彦「金融データサイエンス入門・シリーズ企画の狙い」証券アナリストジャーナル2023年7月[2] 大庭昭彦「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」、証券アナリストジャーナル 2022年7月 大庭 昭彦 野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。 本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2024年3月掲載時点での情報に基づいております。 ご投資にあたっての注意点
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05/04 12:00
【投資と税金】 定額減税で1人あたり4万円の減税! 6月1日より
4月に入り食品の値上げが相次ぎ、物価高を痛感している方も多いと思います。物価高騰の影響を受けている国民に対して「物価高に対応し、可処分所得を増やす」という目的で、令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税の定額減税が実施されます。具体的に「いつ・どのように」実施されるのか、大手町トラストの税理士に伺いました。 はじめに 令和5年12月に閣議決定された「令和6年度税制改正の大綱」において、物価高対策の一環から、一時的な措置として所得税・個人住民税の減税が行われることとなりました。これにより令和6年分の所得税および令和6年度分の個人住民税について定額による特別控除(定額減税)を実施するための税制改正が行われ、令和6年6月から定額減税が実施されます。 制度概要 (1)定額減税の対象者 令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税に係る合計所得金額が1,805万円以下(給与収入2,000万円以下に相当(注1))の方 (注1)「子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除」の適用を受ける者の場合は、2,015万円以下となります。 (2)定額減税額 本人および同一生計配偶者または扶養親族(注2) 1人につき所得税3万円、個人住民税1万円 (注2) いずれも居住者に限ります。 実施方法 (1)所得税 給与所得者令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等(賞与を含む。以下同じ)について、源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の合計額(控除前税額)から定額減税額が控除されます。控除しきれない部分の⾦額は、以後令和6年中に⽀払われる給与等に係る控除前税額から順次控除されます。給与所得者を例にした具体的なイメージは、以下のとおりです。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 公的年金受給者令和6年6月1日以後最初に支払われる公的年金等について、源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の合計額(控除前税額)から定額減税額が控除されます。控除しきれない部分の金額は、以後支払う公的年金等に係る控除前税額から順次控除されます。退職所得に係るもの退職所得の源泉徴収の際には定額減税が実施されませんが、確定申告により定額減税額の控除を受けることができます。給与等に係る源泉徴収において控除しきれなかった定額減税額がある場合には、令和6年分の確定申告書を提出することで退職所得を含めた所得に係る所得税について、定額減税の適用を受けることができます。事業所得者・不動産所得など事業所得者等の場合は、原則として令和6年分の確定申告(令和7年1月以降)の際に所得税の額から控除されます(予定納税対象者の場合は令和6年7月の第1期分予定納税額から控除)。 (注1) 給与所得者や年金受給者が不動産所得などの他の所得を有する場合等には、源泉徴収の段階で定額減税の適用を受けた上、確定申告で最終的な定額減税額との精算を行うこととなります。 (2)個人住民税 令和6年度分の個人住民税額から、住民税の徴収方法等に応じて控除されます。例えば給与所得に係る特別徴収の場合、令和6年6月分は徴収されず、「定額減税後の年税額」を令和6年7月分~令和7年5月分の11か月で均した個人住民税額が徴収されます。 なお、実施方法の詳細につきましては以下の公的資料をご参照ください。 所得税 … 国税庁ホームページ「定額減税 特設サイト」住民税 … 総務省「個人住民税の定額減税に係るQ&A集(PDF)」 この資料は情報提供を唯一の目的としたもので、投資勧誘を目的として作成したものではありません。この資料は信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、野村證券は、その正確性および完全性に関して責任を負うものではありません。この資料は提供されたお客様限りでご使用いただくようお願いいたします。詳しくは、所轄税務署または顧問税理士等にご確認ください。 ご投資にあたっての注意点
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05/04 09:00
【テーマ銘柄】サプライチェーンのすそ野が広い洋上風力発電
※画像はイメージです。 再生可能エネルギーの導入が加速 カーボンニュートラルの実現に向けて、世界的に再生可能エネルギーの導入が加速しています。中でも、風力発電、中国や欧州、米国などで普及しています。風力発電は、陸上において導入が進んだ結果、適地が減少しつつあることから、海域を利用した洋上風力発電が注目されています。洋上風力発電は、海底に直接基礎を設置する着床式と、浮体を基礎として風車を設置し、係留などで固定する浮体式に分類され、日本のように沖合の海底が急に深くなる地形では、浮体式が適しています。 ポテンシャルの高い日本の洋上風力発電 領土を海に囲まれている日本では、洋上風力発電の潜在能力が高いと言えますが、設置場所の制約や発電コストの高さなどが障壁となり、これまで導入が進みませんでした。2020年に政府目標として2030~40年までの洋上風力発電の導入を30~45GW、2040年までに国内での部品調達比率を60%とする方針が示され、その後洋上風力発電の促進区域の整備などが行われてきました。2023年12月には秋田、新潟、長崎の3海域で開発する洋上風力発電の事業者が決定し、2024年中には青森、山形の2海域でも事業者が決定される予定です。今後、送電線の計画策定や資金調達の環境整備が行われるとみられ、政府の支援を受けて洋上風力発電の開発加速が期待されます。 洋上風力発電はサプライチェーンのすそ野が広い 洋上風力発電は、調査開始から風車製造、設置、運用とサプライチェーンのすそ野が広くなっています。また、建設には、出力制御や基軸など数万点に及ぶ部品が必要になる他、専門の建設船や海底ケーブルなど関連する業種は多岐にわたり、幅広い産業へ経済効果が波及することが見込まれます。野村證券では、投資決定から運用開始までは時間を要するものの、風車製造や設置、また、生産地から消費地への送電網の整備に関連する分野は、比較的早期に収益化するとみています。 ご参考:洋上風力発電関連銘柄の一例 鹿島建設(1812)2013年に国内初となる沖合の着床式洋上風力発電設備を完成させたほか、国内初の商用洋上風力発電の施工も行った。また、秋田県能代市沖や千葉県銚子市沖などの洋上風力発電の優先交渉権者となっている。五洋建設(1893)洋上風力発電の施工に使用するSEP船(自己昇降式作業台船)を複数保有し、現在は2025年度の運転開始を目指す北九州の洋上風力発電の建設で稼働している。東レ(3402)風力発電のブレード(回転翼)に使用される炭素繊維(ラージトウ)で世界シェア約5割を有している。日本碍子(5333)変動のある風力発電の出力を一定に保つことができる大容量の蓄電池システムNAS電池を供給している。古河電気工業(5801)風力発電設備を電力系統に接続する送電ケーブルの生産・工事を手掛けている。国内最大級の石狩湾新港洋上風力発電事業へ海底電力ケーブルシステムを納入した。住友電気工業(5802)欧州を中心に拡大する洋上風力の長距離送電需要に対応するため、2023年4月、英国、スコットランドに電力ケーブル製造・販売会社を設立すると発表した。日本精工(6471)風車用の大型軸受を製造している。増速機用に強みを持つ。NTN(6472)風力発電の主軸用大型軸受を生産している。風力発電装置用のCMS(状態監視システム)サービスも展開しており、国内を中心に導入が進んでいる。富士電機(6504)風力発電で主に使われるIGBTパワー半導体に強みを持つ。発電機で発電した電気を送電線に流すための電力変換を担っている。東北電力(9506)洋上風力をはじめとした再生可能エネルギーの開発に注力している。「能代港洋上風力」や「秋田港洋上風力」に参画している。 (注)全てを網羅しているわけではない。(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成 (野村證券投資情報部 澤田 麻希) ご投資にあたっての注意点
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05/03 19:00
【来週の米国株】重要イベント通過、「もしトラ」織り込みタイミングと減税の影響は(5/3)
※執筆時点 日本時間2日(木)12:00 今週:FOMCと大手IT決算発表一巡 ※4月26日(金)-5月2日(木)4営業日の騰落 FOMC(米連邦公開市場委員会)と大手IT企業の決算発表を総じて無難に消化したものの、経済指標ではインフレ再燃が示唆されたことで米長期金利(10年国債利回り)は高い水準で推移し、株価の重石となりました。 FOMCは「タカ派化」を回避 FRB(米連邦準備理事会)は4月30日(火)~5月1日(水)にFOMCを開催し、市場の予想通り全会一致で金融政策の据え置きを決定しました。政策の据え置きは6会合連続です。FRBはまた、米国債のランオフ(償還に伴う保有証券減少)のペースを現在の月間最大600億ドル相当から、6月からは250億ドル相当へ減額する計画を提示しました。 FOMC声明文では「ここ数ヶ月、委員会が目指す2%のインフレ目標に向けた一段の進展は見られていない」との記述が追加された一方で、次の一手が利上げとなる可能性は低いとの見解を明らかにしました。 市場の一部ではFRBがタカ派姿勢を強めるとの懸念があったため、上記の内容は株式市場に好意的に受け止められました。 重要指標「雇用コスト指数」が上振れ、インフレ懸念続く FRBの「タカ派化」が回避されても米長期金利が低下しない背景には、経済指標ではインフレを示唆する内容が多いことが背景にあります。 一例として、FRBが賃金指標として重視している雇用コスト指数(4月30日(火)、四半期に1回発表)は、1-3月期に前四半期+1.2%の上昇となり、市場予想(同+1.0%)を上回りました。セクター間、組合員・非組合員間のばらつきも少なく、上振れが単なる季節的なノイズ(例外的な歪み)である可能性は低いと考えられます。 一般的に、賃金上昇率は物価全般の動向に遅行する傾向がありますが、飲食サービスやヘルスケアサービスなどの特定の業種における賃金の伸びは関連する項目のインフレと連動するか、これに先行する傾向があります。野村では2024年7月と12月の2度の利下げの予想を維持していますが、利下げ開始時期後ずれのリスクを高める材料だったと言えます。 大手IT決算は総じて堅調 他方、決算発表は総じて順調です。メタ・プラットフォームズを除いて、発表となったマグニフィセント7(アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドットコム、テスラ、アルファベットの5社。エヌビディアは決算期が1ヶ月ずれている)の株価は全て決算発表後の時間外取引で上昇しました。業績面で特徴的だったのは、大手クラウド3社(アマゾン・ドットコム、マイクロソフト、アルファベット)のクラウド事業の売上高が全て市場予想を上回った点です。生成AIがけん引役となり、クラウド事業が再成長し収益に貢献していることがうかがえます。一方で、テスラは決算発表後の株価こそ上昇したものの、自動車部門などの主要部門の売上高が市場予想を下回る結果となりました。アマゾン・ドットコムも北米外の小売部門の売上高が市場予想を下回るなど、堅調な北米経済以外では綻びもあることには注意が必要です。全体で見ても、売上高純利益のポジティブサプライズ比率は直近4四半期を下回っています。 (注1)ポジティブサプライズ比率は、S&P 500 企業のうち決算実績がアナリスト予想平均を上回った企業の比率。2024年1-3月期には、2023年12月-2024年2月期決算、2024年2-4月期決算企業も含む。 (注2)直近4四半期平均とは2023年1-3月期~2023年10-12月期の平均。長期平均とは、売上高は2002年以降、純利益は1994年以降の平均。 (注3)LSEG(旧リフィニティブ)による2024年4月26日時点(売上高について229社、純利益について229社)の集計。 (出所)LSEG(旧リフィニティブ)より野村證券投資情報部作成 決算内容は今後アナリストのレーティング・目標株価に反映されます。個別企業の決算内容を確認し次の選別投資につなげていく局面と考えられます。 今週のポイントは1点です。 ミシガン大学調査でインフレ見通しを確認 10日(金)にミシガン大学調査による5月消費者マインド速報値が発表されます。調査には1年後・5年後のインフレ見通しが含まれるため、足元の賃金上昇が消費やインフレ見通しにどのような影響を与えているかを確認することができます。ソフトデータではあるものの、インフレ再燃が懸念される現在の環境では、市場の注目が高いと考えられます。 米国大統領選の株価への影響は いよいよ米大統領選まで半年あまりになりました。野村では、過去の大統領選での株価への織り込みタイミングをふまえると、今後数ヶ月のうちに織り込みが本格化していく可能性が高いと考えています。サイズファクターや、エネルギーセクターの動向から推計すると、2016年(トランプ氏/クリントン氏)は4-6月に、2022年(バイデン氏/クリントン氏)では5月後半~6月に織り込みが進みました。 減税は明らかに企業業績にインパクト バイデン氏、トランプ氏双方の政策の方向性をみると、追加関税の実施、石油・天然ガスの採掘制限の規制緩和など、各業種で有利不利という点はまちまちであるものの、米株式市場全体にとっては、法人減税に対する政策の違いが重要な相違点の一つと考えられます。今回は法人減税に対する政策の違いをテーマに、株式市場全体への影響についての野村の分析を紹介します。双方の法人減税政策の違いについては、バイデン氏が現在の21%から28%に増税すると公言しているのに対して、トランプ氏は現状の税率を維持する方向であり、この政策自体は明らかに企業業績へのインパクトがあると考えられます。 2018年減税時、法人税は売上高の1.1%減少した トランプ氏が2018年から法人税減税を導入したときを参考にすると、売上高に占める法人税の割合は、18~19年の平均値が12~17年の平均値より1.1%減少していることがわかります。減税効果の代替指標を純利益率の増加幅と営業利益率の増加幅の差としたうえで、トランプ氏が2018年から法人税減税を導入した前後の期間をもとに分析すると、①実効税率が相対的に高く、②時価総額が大きい企業ほど、業績面でみた減税の効果は大きいと推計されます。また短期的には、ファクター面では小型のバリュー銘柄やクオリティ銘柄がアウトパフォームしやすいと想定しています。 トランプ大統領政策のリスクは「インフレ」 もっとも、減税は株式市場にとって良いことだけではありません。特にインフレが高水準にあった今次局面において、減税は企業の設備投資を促し、景気過熱を助長しかねず、インフレが一層加速してしまうリスクもあることには注意が必要です。 (野村證券投資情報部 小野崎 通昭) ご投資にあたっての注意点 要約編集元アナリストレポートについて 野村オリジナル記事の配信スケジュール