新興国為替市場:米利下げや米ドル安に伴う証券投資流入継続が追い風(2026年相場大展望)
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2026年の新興国通貨は全体的に対米ドルで緩やかな増価基調を辿ると見込まれる金融政策の方向性、米国との通商交渉、選挙などの政治イベントが各国通貨を左右新興国通貨の中では東アジア通貨やメキシコペソが相対的に好調と予想
2025年の新興国通貨を振り返ると、対米ドルで緩やかな増価基調となりました。個別の新興国通貨の対米ドルでの年初来の騰落率を見ると、ロシアルーブル、ハンガリーフォリント、チェココルナがアウトパフォームし、トルコリラ、インドルピー、インドネシアルピアがアンダーパフォームしました。地域的には東欧が好調で、アジアが軟調となりました。
新興国通貨への追い風として米ドル安が指摘できます。25年の米ドル相場は対トルコリラや対インドルピーなど一部を除き、ほぼ全面安となりました。新興国が保有する外貨建て債務は減少傾向にあるとはいえ、一部では依然として高水準であり、米ドル安は外貨建て債務の負担軽減につながりやすいです。
図表1:新興国金融市場
(注1)新興国通貨指数はブルームバーグ新興国通貨指数、新興国株価指数はMSCIエマージングマーケット指数、新興国国債の対米国債スプレッドはJP Morgan EMBI Global インデックスの対米国債スプレッド(米ドルベース)。(注2)データは日次で、直近値は2025年12月17日。(出所)ブルームバーグ資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
キャリー需要の高まりも一部の高金利通貨の増価要因となりました。為替市場のボラティリティーは米国の関税政策を巡る不透明感の高まりを背景に25年前半に大きく上昇しましたが、米国の政府閉鎖に伴う経済指標の公表停止や各国との関税協議の進展などで後半に大きく低下し、キャリー需要が高まったとみられます。ただし、新興国の金融政策は全般的に利下げ方向にあり、金利面での魅力は徐々に弱まると見込まれます。
26年も新興国通貨は対米ドルで緩やかな増価基調をたどると見込まれます。新興国への証券投資は新興国と先進国の成長率格差、米金融政策、市場のリスク心理に影響される傾向にあります。野村ではFRBは26年6月、9月会合でそれぞれ0.25%ポイントずつ利下げすると予想しています。市場心理が大きく悪化せずに新興国景気が底堅く推移すれば、FRBの利下げや米ドル安に支えられて、26年も新興国への証券投資の増加が新興国通貨を支えると見込まれます。新興国中銀の利下げ継続は逆風となりますが、緩やかなペースでの利下げにとどまれば、通貨を大幅に押し下げる材料とはならないでしょう。
図表2:新興国への証券投資フローの要因分解と見通し
(注1)データは四半期で、直近値は2025年4-6月期。先行きの成長率格差は野村予想、ブルームバーグ集計の市場予想を前提とした(2025年12月17日時点)。(注2)EMBIグローバルスプレッドは、新興国国債の対米国債スプレッド。先行きのEMBIグローバルスプレッドは一定とした。(注3)新興国は韓国、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポール、ロシア、ポーランド、ハンガリー、チェコ、南ア、トルコ、ブラジル、メキシコ、チリ、アルゼンチン。(注4)証券投資は株式投資、債券投資の合計で後方4四半期合計値。(注5)FRBのシャドーレートはサンフランシスコ連銀による推計値であり、米国債金利や住宅ローン金利など12の金融変数を基に量的緩和政策やフォワードガイダンスなどの効果をFF(フェデラル・ファンド)金利に換算したもの。(注6)先行きのシャドーレートは野村のFRB政策金利予測値を基に試算。(注7)証券投資の推定に関しては、証券投資を被説明変数、実質GDP成長率格差(新興国-先進国)、FRBのシャドーレート、EMBIグローバルスプレッドを説明変数として回帰分析した。(出所)IMF、ブルームバーグ資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
一方、2026年の新興国通貨の中では、東アジア通貨やメキシコペソがアウトパフォームし、インドルピー、東南アジア通貨、ブラジルレアル、トルコリラがアンダーパフォームすると見ています。相場のドライバーとなり得るのが、金融政策の方向性、米国との通商交渉、選挙などの政治イベントです。
金融政策の観点ではAI関連の半導体需要に支えられて、韓国、台湾などの中銀は相対的にタカ派(利下げに消極的)姿勢を維持すると見られます。インド、東南アジア、メキシコ、南ア、ポーランドなどは25年に利下げを続けてきました。26年前半にかけても利下げを継続する可能性はありますが、追加的な利下げ余地は限定的でしょう。対照的にブラジル、トルコ、ハンガリーなどは26年の利下げ余地が大きいです。金融政策の違いの背景として、物価減速ペース、景気の強弱、選挙に伴う政治的な利下げ圧力などがあると考えられます。
26年の新興国通貨を占う上で米国との通商交渉の行方も重要です。米国はインド、ブラジルなどに対して相対的に高い関税を課しており、米国向け輸出の落ち込みは一部の新興国において経常収支を悪化させる要因になると見られます。ただし、米国の関税政策は不確実性が高いです。例えば、米国はロシア産原油の購入を理由にインドに対して高関税を課していますが、交渉は継続中で、関税引き下げの可能性はあります。また、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直し協議が26年7月までを予定しています。米国はUSMCAからの離脱を視野に、カナダおよびメキシコと別々の貿易協定を締結することを検討しているようで、協議の不透明感は一時的なペソ売りにつながるリスクがあります。
図表3:米国の実効関税率(輸入国別)
(注1)ブルームバーグによる試算値。(注2)ASEAN(東南アジア諸国連合)はインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポール、ベトナムの平均値。(注3)見やすさを優先して縦軸を制限している。(出所)ブルームバーグ資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
政治イベントとしてはタイ解散総選挙、ハンガリー総選挙、ブラジル議会・大統領選挙などが予定されています。特に注目度が高いのが26年10月のブラジル議会・大統領選挙です。ルラ大統領、ボルソナロ前大統領の長男フラビオ上院議員が次期大統領選の有力候補と見られますが、両者の支持率は拮抗しています。中南米では20年代前半に左派政権が多く誕生していましたが(「ピンクの潮流」の再来)、直近では右派勢力が勢いづいており、政治潮流の右派シフトが今後も続くのか注目されます。
図表4:主要新興国・地域の主な政治イベント
(注)太字は筆者判断による重要イベント。(出所)IMF資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
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(野村證券市場戦略リサーチ部 春井 真也)
※野村週報 2026年 新春特別号「新興国為替市場」より
※こちらの記事は「野村週報 2026年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。
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