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08/23 15:00シリーズ 「近年の米事情を探る」米価高騰をもたらした要因
執筆:野村證券株式会社フード&アグリビジネス・コンサルティング部 シニア・コンサルタント 髙田 健(2025年8月21日) はじめに 近年、米の価格が急激に高騰し、社会的な関心を集めている。その影響はスーパーの店頭にもはっきりと現れ、一時期は5キロあたり4,000円を超える価格で販売される例も見られ、家計に深刻な影響を与えた。しかし、その後、備蓄米の放出等の対策により高値はやや緩和され、現在では3,000円台にまで落ち着いているものの、依然として多くの家計にとって負担が大きい状況となっている。 米価の推移を確認すると、近年の異常な上昇が浮き彫りになる。2020年を基準値100とした消費者物価指数(図表1)では、2021年が96.8、2022年が92.6と緩やかな減少傾向を示していた。しかし、2023年には96.1とわずかに上昇に転じ、その後、2024年には122.8、2025年には195.8と急激な伸びを示しており、2023年以降、米価が安定した増減傾向から異常な急上昇に転じたことが分かる。 これまで比較的安定した価格で推移してきた米価がこれほど急上昇する事態は、前例のない異例の出来事である。米価の高騰は、複数の要因が複雑に絡み合って生じるが、筆者は、近年の米価高騰の主な要因として、国内の米の生産力の低下と2023年に発生した2つの出来事が大きく関係していると考えている。本レビューでは、これらの要因について分析し、整理を行う。 なお、本稿は「近年の米事情を探る」シリーズの第1弾であり、今後、第2弾、第3弾と3回に分けて、近年大きな注目を集めている日本の米事情に関する多角的な整理を行うことを目的とする。 図表1 米の消費者物価指数推移 (※2025年は1月~6月の6ヵ月間の平均)(出所)総務省「消費者物価指数」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 1. 国内の米の生産力の低下 (1)今でも続く実質的な減反政策 減反政策は、生産調整政策として1970年に導入され、米の過剰生産を抑制し、米価の安定と農家の収入を守ることを目的としていた。その背景には、1960年代に深刻化した米の供給過剰問題がある。当時、米価の急落により農家の経済状況が大きく悪化し、社会問題に発展した。政府はこの状況に対応するため、減反政策を導入し、2017年まで約半世紀にわたって実施した。 この政策の効果は、生産量の推移(図表2)に顕著に現れている。1970年には1,253万トンだった米の収穫量は、2017年には782万トンまで減少しており、およそ50年間で37.6%の大幅な減少を記録した。 減反政策は2018年に廃止されたものの、その後も政府は主食用米の需給見通しを毎年発表しており、それを基に各県の農業再生協議会などが生産数量目標を策定している。この目標は各県が主体的に策定するとされているが、実際には米の生産量を抑制する仕組みとして機能している。また、農家には米から麦や大豆、加工用米などへの転作を奨励し、転作には補助金が支給されている。このような政策は、形式が変わっただけで、従来の減反政策とほぼ同じ効果をもたらしている。 実際、図表2に示しているように、減反政策廃止後も米の収穫量は増加しておらず、生産抑制の傾向は依然として続いている。形式上の変化はあったものの、実質的には減反政策の延長ともいえる生産調整が現在も維持されている。 図表 2 米(子実)の収穫量の長期推移 (出所)農林水産省「作況調査」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)経営体数の減少と高齢化 図表3-1は、米を販売目的で作付けした農業経営体数とその作付面積を、2015年と2020年で比較したデータである。このデータによれば、2015年には95万体あった農業経営体数は、2020年には71万体まで減少しており、わずか5年間で24万体も減少したことが分かる。また、作付面積も131万ヘクタールから128万ヘクタールへと2.6万ヘクタールも縮小している。東京ドーム1個分の面積が4.7ヘクタールであることを踏まえれば、5年間で東京ドーム5,652個分の作付面積が失われた計算になる。 経営体数の減少理由としては、農家の高齢化や離農による個人経営体の減少が挙げられる。一方で、法人経営体の数は増加しているものの、その増加分では個人経営体の減少を補うには至らず、結果として全体の作付面積も縮小している。 さらに、農家の高齢化について、図表3-2に示している2020年の基幹的農業従事者の年齢構成を見ると、60歳以上が全体の83.8%を占め、59歳以下は全体の16.2%となっている。このデータからも、米の生産を担う農業従事者の高齢化が深刻であり、次世代への世代交代が進んでいない実態が読み取れる。 このような状況を踏まえると、今後も個人経営体の高齢化がさらに進むと予測され、米の生産体制の持続可能性には依然として大きな課題が残る。 図表3-1 販売目的で米の作付けを行う農業経営体数 [左表]図表3-2 販売目的で米の作付けを行う基幹的農業従事者(年齢構成割合)[右図] (出所)農林水産省「農林業センサス」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 2. 2023年に発生した2つの出来事 (1)「ふるい下米」の減少による加工用原料の主食用米への転用 図表4は、1991年から2020年の30年間の平均値を基準とした国内の平均気温偏差の推移を示したものである。このデータを見ると、国内の平均気温が年々上昇傾向にあることが分かる。 特に2023年は、7月後半から8月にかけて記録的な高温を観測し、夏(6月~8月)の平均気温が1898年の統計開始以来、最も高くなった。さらに、翌2024年には、2023年の記録を上回り、2年連続で観測史上最高気温を更新する事態となった。 こうした異常気象は、2023年産の米に大きな影響を及ぼした。2023年産の米は高温下で育った影響で粒が充実し、作況指数は101と平年並みの収穫量を維持した。しかしながら、品質面では深刻な低下が見られた。例えば、日本有数の米の産地である新潟県においては、1等米の比率が、例年は80%程度であったのに対し、2023年産はコシヒカリ4.9%、うるち米全体で15.7%と過去最低を記録した。また、全国的に玄米を精米にする際に胴割れなどが多発し、精米の歩留まりが悪化した。この結果、国内市場での米の供給に対する懸念が広がった。 図表 4 日本の年平均気温偏差の長期推移 (出所)気象庁「日本の年平均気温偏差(℃)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 さらに問題となったのが、ふるい下米の発生量の大幅な減少である。ふるい下米とは、収穫後の玄米をふるいにかけた際に生じる、一定の基準以下の小粒米として分別されるものであり、加工食品の原料として広く活用されている。しかし、2023年産の米では、粒が充実していたため、小粒米の発生量が減少し、図表5に示すように、例年50万トン前後で推移していたふるい下米の発生量は、2022年に比べて18万トンも減少した。 この減少の影響で、食品加工業者は原料の確保が難しくなり、本来は消費者向けの主食用米を加工原料に転用する例が増加する事態となった。その結果、消費者への主食用米の供給が減少し、米の需給逼迫を引き起こした。 図表 5 ふるい上米・ふるい下米の発生量 (出所)農林水産省「米をめぐる状況について(令和7年5月)」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (2)訪日外国人の増加 ふるい下米の減少によって、主食用米が加工用原料に転用される中で、インバウンド需要による米消費も需給逼迫に影響を与えた。 図表6は、訪日外国人旅行者数の推移を示したものである。訪日外国人は2019年に過去最高の3,188万人を記録したが、新型コロナウイルス感染症の拡大による水際対策により、2020年~2022年の3年間は大幅に減少した。しかし、2023年には水際対策の緩和や円安の進行を背景に、2,507万人まで回復し、2024年にはコロナ禍前を超える3,687万人となった。 訪日外国人の増加に伴い、飲食店や宿泊施設では、訪日外国人向けに提供する食事のための米需要が増加した。農林水産省の推計によると、2022年7月から2023年6月の1年間に訪日外国が消費した米の量は1.9万トンにのぼり、玄米換算で2.1万トンに達している。(この推計は、2022年7月から2023年6月の1年間の訪日外国人1,404万人が、平均8.8泊滞在し、滞在中に毎日2回、合計156g(78g/回)の米を消費したと仮定して算出されている。) こうした訪日外国人の増加は、本来は国内消費者向けに供給されるはずの米が訪日外国人向けに振り分けられたことで、国内市場における米の供給にさらなる圧力をもたらした。 図表 6 訪日外国人旅行者数の長期推移 (出所)日本政府観光局「訪日外国人旅行者統計」より、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 (3)2つの要因と米価上昇の関連 図表7は、米の民間在庫量と相対取引価格の推移を示している。データによると、米の民間在庫量は2022年には218万トンだったが、2023年には197万トンとなり、21万トン減少している。この在庫量の減少は市場での需要の高まりを示しており、それに伴い米の相対取引価格も上昇した。具体的には、2022年の相対取引価格は1俵あたり13,844円だったのに対し、2023年には15,315円と10.6%増加し、さらに2024年には24,500円と大きく高騰している。 2023年に減少した在庫量21万トンという数値は、先に述べた「ふるい下米の減少による主食用米の加工用原料への転用」分の18万トンと「訪日外国人による米の消費」分の2.1万トンの合計である20.1万トンとほぼ一致する。このことから、2023年に発生した「ふるい下米の減少」と「訪日外国人の増加」は、共に消費者への食用米の供給を圧迫し、市場での需給逼迫を引き起こした要因になったと推察される。 一方で、供給不足の背景には国内の米の生産力も影響している。前章の通り、2018年に減反政策は廃止されたものの、実質的には生産抑制の仕組みが残っており、容易に生産を拡大できる状況にはない。さらに、農業経営体数の減少や農家の高齢化も進行しており、大規模な生産体制を短期間で築くことは難しい。このように、国内の生産基盤そのものが脆弱化していることが、需給変動に対する柔軟な対応を妨げている。 これらの背景を踏まえると、2023年の「ふるい下米の減少による加工用原料の食用米への転用」や「訪日外国人の増加」といった新たな要因が、長年にわたり進行してきた国内の生産基盤の脆弱化と相まって、市場での供給不足、ひいては米価高騰を招いたと考えられる。 図表 7 米の民間在庫量・相対取引価格の推移 (出所)農林水産省の統計データより、野村證券フード&アグリビジネス・コンサルティング部作成 おわりに 本稿では、近年の米価高騰の背景について、国内の米の生産力の低下と、2023年に生じた「ふるい下米の減少」と「訪日外国人の増加」に着目し、米価高騰の要因を整理した。特に、実質的な減反政策の継続や米の作付けを行う農業経営体の減少、農家の高齢化は、安定的な米の生産基盤を大きく揺るがしており、米が一時的な需要の変動や異常気象に対して脆弱になっている現状が浮き彫りになった。 一方、足元では備蓄米の随意契約による放出等の影響もあり、米価は若干の落ち着きを見せ始めているが、まだ先行きは不透明な状況にある。 そこで、本稿に続き「近年の米事情を探る」シリーズの第2弾では、「今後想定される米価の変動要因」について述べていく。また、第3弾では米の流通構造と生産者価格の維持に向けた内容をテーマとし、日本の米事情について多角的に整理を行うこととする。 ディスクレイマー 本資料は、ご参考のために野村證券株式会社が独自に作成したものです。本資料に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。本資料は、新聞その他の情報メディアによる報道、民間調査機関等による各種刊行物、インターネットホームページ、有価証券報告書及びプレスリリース等の情報に基づいて作成しておりますが、野村證券株式会社はそれらの情報を、独自の検証を行うことなく、そのまま利用しており、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。また、本資料のいかなる部分も一切の権利は野村證券株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願い致します。 当社で取り扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。 国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。 外国株式の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第142号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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08/23 12:00【注目トピック】日本株、史上最高値更新の裏にリビジョン・インデックス
※画像はイメージです。 2025年4-6月期決算ほぼ出そろう 2025年4-6月期決算がほぼ出そろいました。ラッセル野村Large Cap(除く金融)の、営業増益率および経常増益率は事前コンセンサスに対して5%ポイント前後上振れて着地した模様です。 個別企業レベルでは、事前のコンセンサス予想に対して上振れて着地した企業の割合は61%となっています。この上振れ比率は、過去においては概ね50%台後半~60%台半ばで推移しており、今回はほぼ歴史的な平均並みといってよいでしょう。 今回の決算シーズンでは、米国の関税政策の影響の織り込み度合いが注目されましたが、事前コンセンサスに対しやや上振れるという通常通りの着地となり、業績モメンタムの更なる悪化は避けられた格好です。 四半期 業績の推移 (注1)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の四半期・増収率および営業増益率、経常増益率の推移。(注2)2025年1-3月期までは実績値で、ソフトバンクグループを集計から除外している。2024年1-3月期以降はさらに公益セクターに属する企業を除外している。(注3)2025年4-6月期は推定で、2025年8月15日までに決算発表を終えた企業を対象に集計している。(出所)野村證券投資情報部作成 4-6月期は製造業中心に大幅減益 2025年4-6月期決算では製造業の多くで減益となりました。業種別の営業増減益寄与額をみると、米国の関税政策の影響が最も大きいとされる自動車の減益寄与額が最大となりました。これに、化学、鉄鋼・非鉄など素材セクターが続く構図となっています。 米国の関税政策の影響が業種により濃淡はあるものの顕在化したほか、前年同期(2024年4-6月期)に比べて約10円/米ドル円高で推移したことも製造業の業績の重荷となりました。また、米国の関税政策の行方の不透明さから、世界的に企業の設備投資が低調であったことも製造業の業績に悪影響を及ぼしました。 一方、内需・サービス系では建設、住宅不動産、運輸など、主にBtoBに属する業態を中心に増益となる業種が多くみられました。事前の市場コンセンサスでは、内需・サービス系の業種のほとんどで、前年同期比で横ばいの利益が見込まれていました。人件費などのコスト増の価格転嫁が想定以上に順調に進んでいると考えられます。 四半期 2025年4-6月期 業種別営業増減益寄与額 (注)ラッセル野村Large Cap(除く金融)の営業利益の、2025年4-6月期・業種別増減益寄与額。2025年8月15日までに決算発表を終えた企業を対象に集計している。(出所)野村證券投資情報部作成 想定以上の改善となったRI 例年4-6月期決算シーズンは、期がスタートして日が浅いことから、会社側が見通し変更する動きは緩慢です。今回は更に、先行きの不透明さから見通しを変更した企業は東証プライム上場企業のうち9.8%と、例年の7割程度です。そのため、より機動的に業績予想を変更するアナリスト予想の動向が注目されました。 アナリスト予想の方向性を示すリビジョン・インデックス(RI)は、2025年6月に-30%を大きく下回る水準に沈みました。米国の関税政策の影響を初めて本格的に織り込んだことがRI悪化の主因です。2012年以降の経験則では-30%を下回るような大幅なRIのマイナスを記録したあと、さらにマイナス幅が拡大することはありませんでした。また、RIのマイナス幅が最大となる時期は、株価の下落が最大となる時期にやや先行、最悪でも一致しています。 2025年8月18日時点で、RIはプラス転換しており、想定以上の回復となっています。足元の株価上昇の背景には、RIの劇的ともいえる回復が大きく寄与していると見られます。 リビジョン・インデックス(RI)と日経平均株価 (注1)赤線は、ラッセル野村Large Cap(除く金融)の四半期毎(3/6/9/12月月初)のリビジョン・インデックス(RI)。直近値は2025年8月18日時点。(注2)灰色線は、日経平均株価の前年同月比で、四半期毎(2/5/8/11月月末)。直近値は2025年8月20日時点。見やすさを優先して縦軸を制限している。(出所)野村證券投資情報部作成 業績下方修正が続いている点には注意 ただ、RIがプラス転換したからといっても、下方修正が完全に止まったわけではありません。足元のラッセル野村Large Cap(除く金融)の2025年度の予想経常利益総額は6月月初比で下方修正となっています。 ①期初想定よりも5円/米ドル程度円安で推移していることに対応して小幅に業績予想が上方修正される企業が多いためRIはプラス転換したものの、②米国の関税の影響が大きい企業や業種の業績予想修正は続いていることから利益総額では下方修正、という構図です。 株価は、RIに反応して史上最高値圏にあるものの、予想利益水準が切り上がっているわけではないので、バリュエーションは(歴史的には)決して割安とは言えない点には留意すべきでしょう。 予想経常利益の推移と日経平均PER (注1)赤線は、ラッセル野村Large Cap(除く金融)の2025年度、2026年度予想経常利益額の3ヶ月ごとの推移。予想は野村證券市場戦略リサーチ部による。直近値は2025年8月15日時点。(注2)灰色線は、日経平均株価の12ヶ月先EPS基準予想PERの月次の推移。なお、予想12ヶ月先EPSは、今期の残存期間に応じて、今期/来期の予想EPSを時間按分したもの。予想は東洋経済新報社。直近値は2025年8月18日時点。 (出所)日本経済新聞社、東洋経済新報社、野村證券市場戦略リサーチ部より野村證券投資情報部作成 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト伊藤 高志 ご投資にあたっての注意点
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08/23 09:00【オピニオン】米国株:拡張的財政政策と利下げを好感
※画像はイメージです。 米国株式市場では2025年8月、S&P500やナスダック総合が史上最高値を更新しました。背景には、それほど景気が悪くない中で、7月に成立したトランプ減税法(OBBB法)により財政政策がより拡張的になると見られることに加えて、過去に見られたビハインド・ザ・カーブ(金融引き締め解除の遅れが景気後退を招き、遅れて急速な利下げが行われること)の懸念が後退したことも要因と考えられます。 過去の利下げ局面と比べて、利下げペースは緩やかです。今回のFRBによる利下げ局面では、24年9月の会合で0.5%ポイント、以降2会合連続で各0.25%ポイントの利下げが行われた後、25年7月まで5会合連続で政策金利は据え置かれています。25年6月のFOMCで示された参加者による経済見通しの中央値では、25年末までに0.5%ポイント、26年に0.25%ポイント、27年に0.25%ポイントの利下げが示されました。 米国政策金利とS&P500騰落率(前年同月比) (注)データは月次(月初値)で、直近値は2025年8月1日時点。米国政策金利はFF(フェデラル・ファンド)金利で、2008年12月以降は誘導目標の上限金利。薄い灰色の網掛けは全米経済研究所の定義による景気後退期。矢印は急速な利下げと株価の下落が同時に起こった時期を強調。2025年6月FOMCでの見通しは25年末、26年末、27年末の値(2025年6月18日時点)。(出所)全米経済研究所、LSEGより野村證券投資情報部作成 コロナ禍では、景気対策としてゼロ金利政策を含む緩和的な金融政策に加えて、拡張的な財政政策が大規模に行われました。その後、これらに加え、供給制約によるインフレが顕在化し、一転して引き締め的な金融政策とコロナ禍中よりは緊縮的な財政政策が採られました。現在では、インフレがピーク時から低下し、また、求人件数や住宅在庫がコロナ禍前の水準に回復しつつあることなどから、コロナ禍からの出口戦略のソフトランディング(=軟着陸)が確認されつつあります。ただし、トランプ政権2期目の財政政策が拡張的になるとみられていることから、金融政策はやや慎重になっていると考えられます。 トランプ大統領は2期目の就任以降、FRBによる政策金利の据え置きに対する批判を繰り返し、25年7月22日にはパウエルFRB議長の辞任要求を撤回した一方、政策金利を3%ポイント引き下げて1%にすべき、と発言しました。また、ベッセント財務長官は8月13日に現在の経済環境では1.50~1.75%ポイントの利下げが望ましい、と発言しました。 FRBが利下げを急がない理由は、関税率引き上げによる(単年度の)インフレ率上昇や、トランプ減税による拡張的な財政政策の景気への好影響、と考えられます。従来は、①拡張的財政政策による景気過熱、②政策金利の高止まりによる景気悪化、のどちらが優勢かで株式市場参加者の見方が分かれていました。現在は、利下げ再開による丁度よい経済環境の継続を織り込み始めたと考えられます。 ご投資にあたっての注意点
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08/23 07:00【来週の予定】FRB高官発言、日本の7月生産、ECBの7月議事要旨
8月22日(日本時間23時)にパウエルFRB議長の講演を控えて、前週の金融市場は様子見の色濃い展開となりました。FRBが年内中に利下げを再開すると予想される中、市場の関心は2026年の利下げペースとパウエル議長の後任人事に移行しつつあります。FOMCにおける政策判断に際しては、議長・副議長を含む7名の理事とNY連銀総裁に加え、4名の地区連銀総裁が輪番で投票権を有しています。現時点で利下げを主張しているFOMC委員は2名であり、辞任したクグラー理事の後任を含めても、人事だけで政治が金融政策に介入する余地は限定的です。各委員の政策判断の変化が注目されます。 今週はダラス連銀ローガン総裁、NY連銀ウィリアムズ総裁、ウォラーFRB理事の講演が予定されています。ウォラー理事は早期利下げを支持する姿勢を明確にしていますが、残り2名は7月FOMC直前に利下げに慎重な姿勢を示していました。その後の景気動向を踏まえた政策判断の変化の有無が注目されます。 経済指標では25日(月)の7月新築住宅販売件数、29日(金)の7月個人消費支出・所得統計が注目されます。特にFRBは食品・エネルギーを除いたコア個人消費支出デフレーターをインフレ指標に位置付けているため、関税の影響の有無が注目を集めそうです。 日本では28日(木)に中川日銀審議委員の講演が予定されているほか、29日(金)には8月東京都区部消費者物価指数、7月鉱工業生産が発表されます。7月の貿易統計は関税の影響が自動車・同部品を中心に及んでいることを示唆する結果だったことから、生産実績に加え、業種ごとの生産計画が注目されます。 欧州では28日(木)に7月ECB金融政策理事会の議事要旨が公表されます。ECBは2024年6月以降、累計8回の利下げを講じてきましたが、25年7月には利下げを見送り様子見姿勢に転じています。利下げ再開の条件等が示唆されるかが注目点です。 (野村證券投資情報部 尾畑 秀一) (注1)イベントは全てを網羅しているわけではない。◆は政治・政策関連、□は経済指標、●はその他イベント(カッコ内は日本時間)。休場・短縮取引は主要な取引所のみ掲載。各種イベントおよび経済指標の市場予想(ブルームバーグ集計に基づく中央値)は2025年8月22日時点の情報に基づくものであり、今後変更される可能性もあるためご留意ください。(注2)画像はイメージです。(出所)各種資料・報道、ブルームバーグ等より野村證券投資情報部作成 ご投資にあたっての注意点
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08/22 16:29【野村の夕解説】FRB議長講演を前に日経平均小動き、23円高(8/22)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 22日の日経平均株価は、米国で本日予定されているジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演を控えて方向感を欠く展開となりました。インフレ再加速に対する懸念の強まりを背景とした21日の米国株安の流れを引き継ぎ、22日の日経平均株価は寄り付き後間もなく下落に転じ、一時前日比278円安の42,331円まで下げ幅を広げました。しかし、米国金利上昇を背景に米ドル円が1米ドル=148円台半ばへと、21日15:30時点から1円程度円安米ドル高が進んでいたこともあり、日経平均株価は下げ渋り、急速に下げ幅を縮小しました。その後は、パウエルFRB議長の講演を前に、同議長の発言内容を見極めたいとの市場の思惑から、日経平均株価は前日終値を挟んで小動きの展開となり、終値は前日比23円高の42,633円となりました。東証プライム市場の売買代金は3兆9,537億円と、7月20日の参議院議員選挙投開票を控えた同月14日以来、約1ヶ月ぶりに4兆円を割り込みました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 パウエルFRB議長は2024年8月のジャクソンホール会議で金融緩和の可能性を示唆し、実際にFRBは翌9月に0.5%ポイントの利下げを実施しました。今後の金融政策に関するヒントを得る上で、今回の講演に対しても大きな注目が集まります。 (野村證券投資情報部 秋山 渉) ご投資にあたっての注意点
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08/22 12:04【今週のチャート分析】日経平均押しを入れる 過去の事例から読み解く
※画像はイメージです。 ※2025年8月21日(木)引け後の情報に基づき作成しています。 8月19日高値形成後に押し、まずは25日線下支えなるか 今週(8月18日~)の日経平均株価は、週前半に史上最高値をつけましたが、その後は急上昇の反動や米国で半導体関連銘柄を中心に売りが広がった影響で下落しました。 日足チャート(図1)を振り返ると、8月4日安値(39,850円)形成後に大幅に上昇し、12日に昨年7月の高値を突破、19日には史上最高値(ザラバベース:43,876円)をつけました。4~6月期決算を無難に乗り切り、米国の利下げ期待から米国株が上昇したことも追い風となりました。ただし、19日高値形成後は押しを入れています。この先、これまで何度も下支えとなってきた上向きの25日移動平均線(8月21日:41,484円)が今後の下値サポートとなるか注目されます。 (注1)直近値は2025年8月21日時点。(注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 一方、今年4月安値を大底として中長期的な上昇トレンドを形成中だと考えられます。調整が一巡して反発し、8月19日高値(ザラバベース:43,876円)を上回った場合は、心理的節目となる45,000円を目指す展開が期待されます。 日経平均波動解析、過去事例を新値累積数値でみる 日経平均株価は2025年8月に史上最高値を更新していますが、前回の中長期上昇局面(2022年3月安値~24年7月高値)を参考にすると、この先も基調としての上昇は続くと考えられます。ただし、一般に相場は一つの大きな波動の中に複数の小波動があり、直線的に上昇せず、上昇と調整を繰り返しながら推移します。今回は波動の進行度合いを示す「新値累積数値」、つまり大底からの新高値(または天井からの新安値)更新回数に注目しています。 週足チャート(図2)を見ると、前回の上昇局面では4つの上昇波(図中A~D)があり、最大の新高値更新回数は19回(週)、次点が16回でした。今回の上昇局面は、8月18日高値(終値ベース:43,714円)時点で13回の新高値更新で、最大には届いていませんが高値更新を重ねています。また、上昇幅は前回最大の10,362円を今回の12,578円がすでに上回っています。そのため、上昇一巡後に一時的な押しが入る可能性に注意が必要です。 (注1)直近値は2025年8月21日時点。(注2)トレンドラインには主観が入っておりますのでご留意ください。(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成 では、どの程度の押しを想定すべきでしょうか。前回の中長期上昇局面では3回の押しがあり、それぞれ3~7回(週)の新安値更新を伴い、押し幅は3,000円超でした。今回も同様の調整を挟む可能性が高いと考えられます。ただ、過去の波動から学ぶと、一時的な調整でも中長期の視点を持ち、冷静に対応することが重要です。 (野村證券投資情報部 岩本 竜太郎) ご投資にあたっての注意点
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08/22 07:59【野村の朝解説】FRB議長講演控えS&P500は5日続落(8/22)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 21日の米国株式市場では、翌日にパウエルFRB議長の講演を控え、S&P500が5営業日連続の下落となるなど、慎重ムードが漂っています。米国の8月の製造業PMI速報値が約3年ぶりの高水準に上昇、FRB高官からは利下げ慎重な発言が相次いだことなどを受けて米国債利回りが上昇、米ドルが主要通貨に対してほぼ全面高となったことも米国株の重石になったとみられます。 相場の注目点 パウエルFRB議長の後任人事に対する関心が高まっています。各種報道によれば現時点で候補者は11名、9月1日前後にベッセント財務長官が面会のうえで候補者を絞り、トランプ大統領に提示する模様です。FOMCには19名のメンバーが参加しますが、投票権を有しているのは議長・副議長を含む7名の理事とNY連銀総裁、輪番で務める4名の地区連銀総裁の12名です。議長の影響力が最も大きいことは論を待ちませんが、合議制で決定する以上、トランプ大統領が意のままにできるわけではありません。20日にはクック理事の辞任を要求するなど、トランプ大統領はFRBに対する圧力を強めていますが、FRBに対する市場の信認低下は投資マネーの「米ドル離れ」を助長し、米ドルや米国債の下落につながるリスクがあります。 本日のイベント 日本時間23時からジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演が予定されています。演題は「経済見通し」についてですが、市場では9月FOMCでの利下げの可能性が示されるかが注目されています。ゼロ回答のリスクは低いと思われますが、仮にそうなった場合には、市場の反応は金利上昇・株安となることが予想されます。 (野村證券 投資情報部 尾畑 秀一) (注)データは日本時間2025年8月22日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点
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08/21 16:14【野村の夕解説】ハイテク関連株安が重石 日経平均株価は3日続落(8/21)
(注)画像はイメージです。 本日の動き 21日の日経平均株価は、今晩から始まるジャクソンホール会議を控え様子見姿勢が強い中、ハイテク関連株や医薬品株の下落が重石となり終日軟調な値動きとなりました。20日の米国株式市場でハイテク株が下落した流れを引き継ぎ、日経平均株価もハイテク株を中心に続落して始まりました。一方、9:30に発表された8月S&Pグローバル日本PMI速報値は51.9と前月から上昇し、民間企業全体の活動が5ヶ月連続で拡大したことが示されました。しかし日経平均株価への影響は限定的で、下落幅は徐々に拡大し、後場には前日比324円安となる場面もみられました。業種別では、4日連騰していた第一三共が短期的な過熱感から前日比7.18%安と大きく下落したことから、医薬品セクターが下落率トップとなりました。また、個別では、ソフトバンクグループや東京エレクトロンが下落し、2銘柄で約111円ほど日経平均株価を押し下げました。 本日の市場動向 ランキング 本日のチャート (注)データは15時45分頃。米ドル/円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。米ドル/円は11:30~12:30の間は表示していない。(出所)Quickより野村證券投資情報部作成 今後の注目点 米国では、21日から23日まで「ジャクソンホール会議」が開催されます。中でも米国の金融政策を占う上で、22日に予定されているパウエルFRB議長の講演に注目が集まります。また国内では、22日に7月全国消費者物価指数が発表されます。日銀の追加利上げの時期を見極める上で重要です。 (野村證券投資情報部 松田 知紗) ご投資にあたっての注意点
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08/21 07:57【野村の朝解説】ジャクソンホール会議に市場は集中(8/21)
(注)画像はイメージです。 海外市場の振り返り 20日の米国株式市場で主要3指数はまちまちの動きとなりました。ヘルスケアや公益などのディフェンシブ株が堅調に推移する一方、これまで好調だった半導体などハイテク株が下落し、相場の重石となりました。午後に発表されたFOMC議事要旨(2025年7月会合分)では、過半数の参加者がインフレリスクが雇用下振れリスクよりも大きいと見ていたことが判明しましたが、9月FOMCでの利下げ再開シナリオを変更する内容ではないと受け止められ、株式市場への影響は限定的でした。 相場の注目点 投資家の注目は、本日から開催されるカンザスシティ連銀主催の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」(~23日)に集中しています。特に市場が高い関心を寄せているのは、22日の朝8時(日本時間午後11時)に予定されているパウエル議長の講演です。パウエル議長は24年の同会議で「金融政策を調整する時が来た」と発言し、9月FOMCでの利下げ開始の布石を打ちました。そのため、今回も同様に利下げの可能性を示唆するかどうかが焦点となっています。一方、依然としてインフレ圧力が続いているため、利下げ観測を強める発言を控える可能性がある点に注意が必要です。現在、日米の主要株価指数は過去最高値圏で推移しており、バリュエーションには割高感が出ています。パウエル議長の発言次第では相場が大きく動く可能性があります。 本日は日米欧で8月S&PグローバルPMIの速報値が発表されます。米国では8月フィラデルフィア連銀製造業景気指数や7月中古住宅販売件数が注目されます。また、米小売大手のウォルマートや、ビデオ会議システムを運営する米ズーム・コミュニケーションズが25年5-7月期決算を発表する予定です。 (野村證券 投資情報部 岡本 佳佑) (注)データは日本時間2025年8月21日午前7時半頃、QUICKより取得。ただしドル円相場の前日の数値は日銀公表値で、東京市場、取引時間ベース。CME日経平均先物は、直近限月。チャートは日次終値ベースですが、直近値は終値ではない場合があります。 ご投資にあたっての注意点