初診のオンライン診療は恒久化見通し

 新型コロナウイルス(以下コロナ)感染が拡大して以降、非対面および非接触のリモートコミュニケーションのニーズが高まり、医療やヘルスケアの分野でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が促進されている。逼迫する医療財政や高齢化対策の重要性の高まりや、医療ICT(情報通信技術)投資を促す政策支援を追い風にして、ICT を活用して効率化、新サービス開発を推進するヘルスケアDX の事業化や規制緩和が進んできた所に、コロナ禍が更なる後押しとなった。

 コロナ禍がもたらしたヘルスケアDX への大きなシフトとして、2020年4月10日付厚生労働省通知で特例的時限措置としてオンライン診療による初診が解禁された。そして21年6月18日に閣議決定された規制改革実施計画では、ウィズコロナの環境下でも継続して恒久的な制度とする方向性が示された。9月1日にはデジタル庁が発足し、医療ヘルスケア領域でも創薬・供給網・情報提供・サービスなどの各プロセスで、DX化の一層の加速が見込まれる。

 ヘルスケアDX が取り組むのは、医療介護保険市場54兆円の効率化である。診療プロセスのオンライン化などで、事務作業や患者の通院→診察→調剤→在宅ケアの一連の時間の短縮や、医療従事者の生産性向上が期待される。ヘルスケアDX で顕在化が見込まれる潜在市場の中でも、特にマーケティング支援やオンライン診療関連の成長余地が大きいと見ており、20年に推計1,500億円程度のDX 関連市場規模は、30年頃には1兆円を超えると予想する。

 株式市場に視点を移すと、注目を集めたエムスリー、JMDC、メディカル・データ・ビジョンなどは、21年に入ると好業績がある程度織り込まれたことや利益確定で株価がピークアウトした状況が続いた。好業績の背景には、医師や患者、製薬企業などの間でDX への対処の仕方に慣れてきたことや、DX利用環境が整備(サービスメニューやプラットフォームへの参加体制)されてきたことが挙げられよう。また、ヘルスケアDX 関連銘柄への物色対象が広がり、ケアネットやデータホライゾン、FRONTEOなどが主力銘柄に変わって株価が大きく上昇する局面も訪れた。

ヘルスケアDX 企業のアップデート

 オンライン診療はまだまだ黎明期であるが、時限的措置であった初診のオンライン診療が恒久化される見通しとなり、オンライン診療関連銘柄への注目が高まっている。初診でのオンライン診療は「患者状態を把握できる情報」が求められる。JMDC やメディカル・データ・ビジョンは、健診データの患者との共有、Web 問診ツールの活用(AI〈人工知能〉問診のユビーがスズケンと協業)などができるため、事業機会が広がる可能性がある。

 また、ビッグデータ量が増えれば増えるほどデータ処理や解析のスピードアップが求められるが、人間の医師が処理できるデータには限界がある。AIの力を借りることで、人間では見落としがちな情報の把握や処理速度向上が期待できる。AIでは判別不能な症状では、AIの知見と医師の経験値でより精度の高い診断、判断が行えるようになるだろう。画像診断系のAI 製品が多い中、FRONTEOは4月に会話型認知症診断支援AI の臨床試験を開始後、骨折予防AI 医療器開発の発表、大日本住友製薬と統合失調症診断支援AI 医療機器の研究開発の独占的交渉契約締結と、独自の自然言語系AI 医療機器の開発が相次いでいる。

 エムスリーは、診療所での予約・受付・問診・決済・次回予約をワンストップで提供する「デジスマ診療」を10月から開始した。医療プロセスの効率化をもたらし、医療現場のDXを加速させる「デジスマ診療」は、グループ全体の新たな成長源となろう。JMDCは、医療情報システムのアイシーエム、医師間SNSを通じたナレッジシェアを行うアンタ̶を子会社化、データ取得元の医療機関や健保向けコンサル需要獲得が進もう。11月から提供開始の薬局データと、健保加入者向けサービス「Pep Up」のユーザー数の拡大にも注目する。

 メディカル・データ・ビジョンの診療データベースの実患者数は10月末で3,771万人に達し、医療機関と患者がカルテデータを共有するカルテコはワクチン接種済証管理機能を強化するなど機能面での充実も進んでいる。介護支援事業者との協業も始め、医療介護データ連携によるサービスメニュー充実、顧客基盤拡大に注目である。メドピアは23.9期売上高150億円を目指す中期計画の先を見通す中長期戦略を8月に発表した。集合知、予防医療、プライマリケアに続く第4の柱として介護支援プラットフォームを掲げ、10月から提供開始の退院支援事業を皮切りにヘルスケアバリューチェーンの確立を目指す。

(繁村 京一郎)

※野村週報2021年11月22日号「産業界」より

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