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09/07 12:00

【特集】米国株式と米ドル建て債券 リスク・リターンの比較 野村證券投資情報部が解説

2024年8月初めには日経平均株価の歴史的な乱高下がありました。ダウ平均株価も大きく下げ、個別株に投資している方、米国株式の代表的指数であるS&P500や世界株式インデックスに連動する投資信託に投資している方などにとっては、資産の変動が激しかった期間となりました。 新しいNISAでそうしたアセットへの投資を始めたという人は、初めて大きな下落を経験したということで、不安を感じているかもしれません。株式市場が下落する局面で、資産が大きく減るのを避けるためには、どのような投資を心がけるといいでしょうか。 株式と併せて、値動きの異なる債券を持つことは資産運用のリスクを低減させる一つの方法だとされています。過去の米国株式と米ドル建て債券のリスクとリターンを比較しながら、資産ポートフォリオの考え方を野村證券投資情報部が解説します。 債券と株式は収益の源泉が異なる ――債券と株式の収益を比べたとき、それぞれどんな特徴があるのでしょうか。 野村證券投資情報部・坪川一浩(以下同)まず、リターン(利益)の源泉の内訳が大きく異なります。債券では金利収入がリターンの多くを占めています。一方で、株式のリターンの源泉は配当収入によるものと、価格変動によるもの、つまり株価の値上がりによるものに分かれます。 (注)データは月次で、2000年1月~2024年7月。米国債券は投資適格の米ドル建て固定利付債券で、The Bloomberg US Aggregate Bond Index。米国株式はS&P500指数。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 この図は2000年1月~2024年7月、米国債券(国債、投資適格社債などの動きを表す指数)と米国株式(S&P500指数)のトータルリターンとその内訳を比較したものです。2000年1月を100としたときに、米国債券は2~3倍に、米国株式は6~7倍程度までトータルリターンが伸びていますが、そのうちインカムゲインと呼ばれる金利・配当の収益と、キャピタルゲインと呼ばれる売却差益で得られる利益の割合は大きく異なります。 この期間は米国株式が上昇したのでキャピタルゲインが膨らむ形になっているのに対し、債券市場はそれほど値動きがなく金利収入によるリターンが積み上がりました。 米国での社債と株式のリスクとリターンは ――そもそも、金融商品のリスクとリターンとは、何を意味するのでしょうか。 リターンとは資産運用で得られる収益を指します。年率のリターンとは、その金融商品で1年間運用した場合に期待できる投資利回りのことです。リスクとは直訳すれば「危険性」ですが、金融の用語では「リターンの変動(振れ幅)の大きさ」を意味します。言い換えれば、期待している収益に対するブレ、不確実性を指します。リスクが高いということは、期待リターンが得られない可能性がより高まるということです。 ――株式と債券、それぞれのリスクとリターンはどんな特徴がありますか。 下のグラフは、米国国債、米国社債(投資適格債)、米国株式を5年間継続保有した場合の年率のトータルリターンとリスクを示したものです。トータルリターンは米国債券が一番低く、4%でした。米国社債のうち、投資適格債と呼ばれる格付けの高いものを中心としたものは6%、米国株式は10%です。一方でリスクは米国国債、米国社債ともに3%、米国株式が9%でした。 比較すると、米国の株式の方が米国国債、米国社債に対してリスクが大きいことが分かります。株式は期待リターンが大きい反面、価格変動リスクが大きく、ハイリスク・ハイリターンの資産で、社債はミドルリスク・ミドルリターンの商品と言うことができます。 (注)データは月次で、1996年12月~2024年7月。米国国債はブルームバーグ米国債指数、米国社債はブルームバーグ社債指数(適格社債)、米国株式はS&P500指数。指数はいずれも米ドル建、トータルリターン指数。リスクはトータルリターン指数の標準偏差。上記は将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではない。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 米国国債と米国社債の違い ――株式は、特にS&P500指数などのような様々な企業に分散されていれば、リスクが分散されていると思いがちですが、ハイリスク・ハイリターンなのですね。債券、特に米国社債は、リスクは小さめでリターンもある程度確保できるということですね。 はい、そうです。たくさんの銘柄に分散して投資したとしても、株式は総じてマーケットの動きに大きく左右され、相対的にハイリスク・ハイリターンです。株式資産は大きく値上がりする時期もあれば、元本を下回る時期もあります。 一方で債券は、満期まで持つと元本が償還される、購入した時点で満期まで得られる利率が決まっているという性質から、ミドルリスク・ミドルリターンとされます。ただし、債券は債務不履行(デフォルト)リスクはあり、特に外国債券は為替リスクがあります。 また、債券と株式は異なる動きをする傾向があり、株価が下がると債券価格が上昇し、債券価格が下がると株価は上昇する、というように逆の値動きをする時期も少なくありません。 このような点を踏まえると、株式と債券の両方を持つことは、株式や株式指数に連動した投資信託のみを持つよりも、資産全体のリスク・リターンを安定させると言えるでしょう。 ――米国国債と米国社債を比べると、リターンは米国社債のほうが大きいのはわかりますが、リスクは同程度なのはなぜでしょうか。 比較している米国社債は、投資適格債と呼ばれるデフォルトリスクが相対的に小さい、格付けの高い社債です。米国が発行する債券である米国国債よりは、デフォルトリスクはあるため金利が高く設定されるのですが、実際に市場でデフォルトした経験が少ないことが一因です。また、相対的に高く安定した金利収入がクッションとなって債券単価の変動をカバーし、リターンを安定化させます。 米国では、投資家たちが好む伝統的なポートフォリオに「60・40ポートフォリオ」というものがあります。資産の60%を株式、40%を債券で持つという考え方で、上記のような理由から根強く支持されています。 実際の国際分散投資の例としては、日本の公的年金資産を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」は国内債券、国内株式、外国債券、外国株式にそれぞれ25%ずつ投資するのを基本としています。 参考:ノーベル賞の主催財団に学ぶ資産運用の考え方 野村證券投資情報部が解説 また、米国の景気減速に伴って利下げ局面が到来すると考えるのであれば、債券優位の展開になることが期待されます。実際、米国の企業年金は、利下げ局面の到来を見据えて、株式を減らして債券などへの配分を増やす動きもあるようです。 株式のリスクを低減しながら、一定の収益を得たいという方は、債券、特に米国社債を合わせて持つことを検討するのがよいでしょう。 ※この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。 ご投資にあたっての注意点

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08/25 12:00

【9月の投資戦略】時間の経過とともに、企業業績の強さが改めて見直されるだろう

目次・時間の経過とともにボラティリティーは低下へ・米国ではインフレより景気へ配慮・米国企業業績の二桁増益への見通しは不変・ユーロ圏は9月に利下げし、中国の景気減速は続く見通し・日銀は時間をかけて市場が落ち着きを取り戻してから追加利上げを検討・株価調整もファンダメンタルズは変わらず割高感が低下 時間の経過とともにボラティリティーは低下へ 2024年7月中旬以降、主要国の株価は大きく下落しました。株価下落と市場参加者のリスク回避姿勢が、スパイラル的に極端な下落を引き起こしたものの、日米の経済指標や企業業績の悪化は限定的です。時間の経過とともに、高水準のボラティリティー(変動率)は低下してゆき、市場は落ち着きを取り戻すとみられ、実体経済や企業業績などのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿った株価に回帰するとみられます。 米国ではインフレより景気へ配慮 主要国・地域の景況感は、製造業と比べて非製造業は比較的良好です。米国では、雇用情勢の緩和が進む中で、景気悪化懸念がみられます。しかし、家計の一部債務の延滞率は上昇するものの、金融機関への信用リスクは高まっておらず、消費関連の統計も巡航速度の拡大が続いています。インフレ率は鈍化しており、景気への配慮に対する優先順位が高まっています。 米国企業業績の二桁増益への見通しは不変 パウエルFRB議長は、9月のFOMCでの利下げを示唆しました。金融市場は、年内は9月のFOMCから連続利下げが行われるとみているようです。米国決算発表で、2024年4-6月期は事前の市場予想からの上振れが幅広く見られ、2024年終盤以降の二桁増益への業績加速見通しは崩れていません。少なくとも、名目GDP成長率の拡大が続き、利下げが行われる局面で、企業業績が減益に陥るリスクは小さく、株価の復調は続くとみられます。米国大統領選挙は、ハリス副大統領が民主党の候補者となり、支持率は上昇しています。 ユーロ圏は9月に利下げし、中国の景気減速は続く見通し ユーロ圏は、景気の回復力が欠ける中で、9月のECB理事会で追加利下げが行われるとみられます。中国では景気減速懸念が続く中で、政府の景気浮揚策は具体性に乏しい状況が続きます。中国の景気減速はしばらく続くとみられます。 日銀は時間をかけて市場が落ち着きを取り戻してから追加利上げを検討 日本では、製造業の在庫循環が改善に向かう中で、賃金上昇が景気を下支えするとみられます。日本銀行による7月末の追加利上げと、植田総裁の更なる利上げを否定しない姿勢が、急激な円高と株価調整の要因の一つとなりました。直後に内田副総裁が、金融資本市場が不安定な状況での利上げを否定しましたが、市場が落ち着きを取り戻し、経済・物価の見通しが実現してゆくならば、それに応じて追加利上げが行われるとみられます。一方、米ドル円相場は、米国の利下げがどこまで織り込まれたのかにも拠りますが、米国が利下げ局面に向かう中では、米日金利差の縮小により円安には戻りにくくなる可能性があります。 株価調整もファンダメンタルズは変わらず割高感が低下 自民党総裁選に向けた動きが開始しています。総裁選挙後の新政権と自民党の支持率の回復によっては、直後に衆議院解散による総選挙の可能性もあります。2024年4-6月期の企業決算を受けて、2024年度通期の業績は上方修正が優勢です。株価の下落により、バリュエーション(株価に基づく企業価値評価)の割高感は大きく低下しています。野村證券は、2024年末の日経平均株価のレンジ上限を40,500円と予想します。 投資戦略については、短期的な調整局面があったとしても、基本観として、日米株式市場は企業業績の拡大に沿って推移するとの見方は不変です。時間の経過とともに、ボラティリティー(変動率)も低下し、企業業績の強さが改めて見直されることで、極端に低下した予想PER(株価収益率)も修正されながら、株価は復調するとみられます。 (野村證券投資情報部 小髙 貴久) ※野村證券投資情報部「Nomura 21 Global 9月号」(発行日:2024年8月19日)「投資戦略の概要」より※掲載している画像はイメージです。 Nomura21Global参考銘柄について ご投資にあたっての注意点

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08/24 09:00

【オピニオン】米利下げ局面移行時の米国株の動向

※画像はイメージです。 足元の市場は9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げを完全に織り込み、これを契機にFRB(米連邦準備理事会)は利下げ局面へと移行するとの見方が広く浸透しています。 2023年夏場以降の米金融市場は、長期金利と株価が反対方向に動く「金融相場」の様相を呈してきました。24年入り後は業績改善期待から株価と長期金利がともに上昇する場面もありましたが、米10年国債利回りが4%台後半まで上昇すると、株価が調整を余儀なくされるなど、金利上昇への懸念は残存しています。 このため、米国が利下げ局面へと移行するとの見方は、米国株にとっては朗報だと言えます。それにもかかわらず、8月初旬に株価が大きく下落した背景には、市場参加者の間で「利下げは良いニュース」ながら、「利下げに転じる経済状況」への懸念があることを示唆しています。 ここで、1990年以降の5回の利下げ局面入り前後の米国株の動向を改めて確認してみましょう。ただし、2020年のコロナ禍に伴う2回の利下げは例外として除きます。結論を先取りすれば、景気が底堅い中でインフレ鎮静化(図表の①の利下げ局面)や株価の不安定化(同⑤)、あるいは海外での経済ショック(同②)等に起因して行われた「予防的利下げ」においては、利下げ局面入り前後に米国株が大幅に調整した経験はありません。 ※(アプリでご覧の方)2本の指で画面に触れながら広げていくと、画面が拡大表示されます。 (注)データは日次で、直近値は2024年8月21日。政策金利はFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標(レンジの上限)。○数字は利下げ局面で、うち赤字は景気後退と認定されたことを示す。⑤のケースではコロナ禍に見舞われた2020年以降は例外とし、2020年中に行われた2回の利下げは含まない。(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成 一方で、ITバブル崩壊(同➂)やサブプライムショック、世界金融危機(リーマンショック)(同④)など、米国を発端とした金融ショックに直面したケースでは株価が急落し、FRBは大規模な金融緩和を実施しました。また、5回の利下げ局面のうち景気後退に陥ったのは、米国発の金融ショックが生じた後者の2回(同➂と④)だけです。 現在のFRBの政策スタンスは95年7月以降の利下げ局面(同①)、あるいは2019年の利下げ局面(同⑤)に似ているのではないかと見られます。ケース①では、94年2月から1年余りの間に行った3%ポイントの利上げが奏功し、インフレが鎮静化したことを受け、景気が堅調な中で利下げを行いました。 ケース⑤は利上げを嫌気して株価が下落したことを受けて19年1月に利上げの打ち止めを宣言し、19年7月から3会合連続で「予防的利下げ」を実施しました。 足元の米国では金融不安から景気後退が懸念されている状況ではありません。多くのFRB高官はインフレ鎮静化を好感し、労働需要の鈍化をより重視する中で利下げを検討しています。過去の経験に基づく限り、このような状況下で深刻な株安が継続するリスクは小さいと考えられます。 ご投資にあたっての注意点