金融政策修正可能性と銀行株

野村では日本銀行によるイールドカーブ・コントロール策(YCC)の修正の確度は相応に高いものととらえている。YCC修正を織り込む局面では、銀行株に再び注目が集まる可能性があるだろう。

野村では、6月の金融政策決定会合でYCC 修正が行われる可能性が高いと考えている。この見方は次の3点を総合的に勘案している。①4月というタイミングは植田和男日銀総裁にとって就任後間がなかった、一方で、②債券市場の機能不全が看過できない水準となっており喫緊の課題である、③日銀総裁・副総裁の副作用への意識が高い(4月10日の総裁・副総裁就任記者会見では「副作用」に21回言及)。

また、家計の物価上昇期待が前回利上げ時(2006~07年)水準まで高まってきたうえに、過度な金融緩和の副作用が国債市場以外にも各所で見受けられる。くわえて、インフレ率上昇に伴い足元の実質金利は16年のマイナス金利導入当時と比して極めて低下していると想定される。これらも勘案すると、6月以降もマイナス金利撤廃を含めた金融政策の正常化が引き続き注目される可能性が高いと野村では考えている。

YCC が修正されれば長期金利の上昇が見込まれる。その銀行収益(資金利益)への影響については、短期的な影響は限定的だが、中長期的には相応に見込めると野村では考えている。今後、YCC 修正(10年国債利回り幅50bp(=0.50%)拡大想定)が追加で行われた場合、22年12月実施済のYCC修正の影響とあわせて、長期的には資金利益が拡大することで、大手行5社の親会社株主利益は5%程度から最大2割弱増加する可能性があると試算している。足元では大手行各社はむしろ円債利回り上昇リスクへの警戒感が強いことから、当面の資金利益への影響は限定的と想定される。

YCC 修正が織り込まれる局面では、地方銀行株中心に銀行株が強含む可能性が高いと野村では考えている。欧米金融不安が高まった3月以降は一時期、22年12月のYCC 修正前後の水準まで銀行株価が下落したが、日銀新体制下において金融政策正常化が重要なテーマとなっていることを勘案すれば、明らかに行き過ぎた株価調整だったといえるだろう。

金利上昇のマイナス影響は限定的

YCCの追加修正にくわえ、それにともなう保有債券評価損益の悪化影響について株式市場から注目が集まっている。この点について野村では、仮にYCC 修正(10年国債利回り幅50bp 拡大想定)が追加で行われた場合でも、大手行の含み損益悪化が自己資本に与える影響は総じて軽微にとどまると試算している。同試算は22年9月末の各社の保有円貨債券を、年限毎の円債金利変動幅を勘案して行った。なお、円債投資の調達原資は粘着性の高い(引き出されにくい)顧客預金である。そのため、キャリー損益(有価証券の受取利息と資金調達費用の差分)悪化は想定されず、また無理な損切りの必要もないと野村では考える。

満期保有目的債券(HTM)についても注目が集まっている。しかし、邦銀によるHTM の利用は限られ、多くの銀行において保有有価証券全体の1割未満となっている。本邦においては、満期保有目的債券の区分の適用が、厳格に運用されている。具体的には「金融商品に関する会計基準」等により、①満期まで所有する意図、②定められた償還日での額面金額による償還、の2要件をともに満たすことが求められ、一定の罰則的な規定も設けられている。

従って、邦銀によるHTM の含み損額は小さく、当該損失が普通株等Tier1資本に与える影響は極めて軽微といえる。その理由としては、①そもそも満期保有目的債券の利用度合いが低い、②対象債券の殆どが円債と想定される、③円債の価格変動率(実績)が外債比で低い、④大手行の保有円債の年限が総じて1~3年程度と短期である、などが挙げられる。

米長期金利が上昇した22年以降の邦銀の有価証券評価損益の変動幅は、08年のリーマンショック時以来といえる規模となっている。とはいえ、政策保有株の含み益は比較的落ち着いて推移しており、リーマンショック当時に比すれば良好な水準にあるといえる。米銀における有価証券評価損額がリーマンショック当時をはるかに凌駕する歴史的な規模であるのとは対照的といえる。

政策保有株に目を転じると、邦銀にとって、その価格変動リスクとそのコントロールは引き続き重要な経営課題といえよう。しかし、継続的な保有株式売却と資本蓄積の結果、大手銀行では資本対比の株式保有リスク量はリーマンショック時の1/2から1/3未満に縮減された。株価下落に伴う資本毀損、資本調達などのリスクは、当時と比べると大幅に低下したといえるだろう。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 高宮 健)

※野村週報 2023年5月15日号「産業界」より

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