2024年に向けて景気回復継続

1~3月期GDP統計(国内総生産、1次速報)の発表を踏まえて、野村では日本経済の見通しを改定した。改定後の見通しにおける実質GDP 成長率は、2022年度(実績)の前年度比+1.2%に続いて、23年度同+1.4%(前回23年3月23日時点:同+1.7%)、24年度同+0.9%(同+0.9%)となっている。外需(純輸出)の寄与度の低下を主因に、23年度の実質GDP 成長率が下方修正されているものの、24年度に向けて日本経済が回復基調をたどるという構図は、改定後の見通しにおいても維持されている。

ただし、同じ景気回復でも、23年10~12月期までとそれ以降とでは牽引役が異なる。23年10~12月期に向けては、個人消費やインバウンド需要(非居住者による日本国内での消費)、ペントアップ(抑圧)された設備投資需要の発現が主たる景気押し上げ要因となろう。中でもインバウンド需要については、①訪日外客数、②1人当たり・1泊当たり支出額の両面からの増加を期待できる。

一方、24年に入ってからの景気回復は、モノ(財貨)の輸出、設備投資、政府消費など家計以外の需要に支えられたものとなろう。

コアCPI(消費者物価指数:生鮮食品を除く総合)で評価したインフレ率については、22年度(実績)前年度比+3.0%、23年度同+3.0%(前回:同+2.2%)、24年度同+1.3%(同+0.6%)を見込む。

24年度に向けて景気回復が続くと見込まれる中、需給ギャップ(実際の実質GDPと潜在GDP の乖離度合い)は足元(23年4~6月期)でプラス(需要超過)に転じ、24年度に向けてプラス幅を拡大させよう。加えて、春闘賃上げ率が高い水準で妥結される中、①家計の購買力、②企業の価格転嫁力が下支えされやすい。こうした中、より基調的な物価変動を反映するコアコアCPI(アルコール以外の食料、エネルギーを除く総合)で評価したインフレ率は24年半ば以降、前年比+1.2%程度で安定するとみる。

このように野村では、コアCPI インフレ率が下がる中でも、インフレの粘着性は増すと判断している。

日銀によるYCC 修正を視野に

野村では、インフレが徐々に粘着性を増しながらも、安定的かつ持続的な2%インフレが24年に向けて実現するとは見ていない。この場合、日本銀行は金融緩和策を粘り強く続けることになろう。

金融緩和策を続けるうえで、現行YCC(長短金利操作)に内在する副作用のリスクを、それが顕在化している如何に関わらず、除去しておくことの意義はあると野村では考えている。このような見方の下、今回の改定見通しでは従来の金融政策シナリオを据え置く。

まず、メイン・シナリオ(確率60%)では、23年6月会合以降のYCC 修正を見込む。修正方法としては、長期政策金利を10年国債から2年あるいは5年に短縮することを想定する。日本の賃金上昇が緒に就いたばかりであることを踏まえると、YCCは引き続き景気回復をサポートする必要がある。そこで、YCCに内在する副作用リスクを取り除きながらも、景気への影響力が相対的に強い2~5年金利の安定を狙う。

修正時期としては23年6月会合以降、なかでも6月、7月会合を有力とみる。できるだけ早くYCCに内在するリスクを除去する上では、次回6月会合での修正に意義がある。一方、安定的かつ持続的な2%インフレ実現に時間を要することを改めて示したうえでYCCを修正するのであれば、次回展望レポートを発表する7月会合が意識される。なお野村では、衆院解散・総選挙のタイミングがYCC修正に影響する度合いは小さいとみている。

さらに、24年春闘での賃上げ継続を前提に、同年前半以降、マイナス付利・YCCが撤廃されるとの見方を野村では維持する。

加えて、2つのリスク・シナリオを想定している。リスク・シナリオA(確率30%)では、日銀が想定より早く安定的かつ持続的な2%インフレが視野に入ったと判断することを想定している。この場合、23年7月、9月、10月のいずれかの決定会合(うち7月と10月は展望レポートの発表あり)でYCCとマイナス付利を撤廃するだろう。また、このシナリオでは、YCCの修正というプロセスなしに、マイナス付利・YCCが撤廃される可能性もある。

リスク・シナリオB(確率10%)では、海外経済の悪化などにより、23年後半に日銀が景気や物価の先行きに慎重姿勢を強めるケースを想定する。この場合、YCCの修正・撤廃ならびにマイナス付利の撤廃は、いずれもメイン・シナリオから半年以上、先送りされよう。

(野村證券経済調査部 森田 京平)

※野村週報 2023年5月29日号「焦点」より

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