米企業業績は23年後半に拡大へ

野村では、米国の実質GDP(国内総生産)成長率は、2022年の前年比+2.1%に対し、23年は同+1.1%に鈍化、24年は同-0.1%と小幅なマイナス成長を予想する。

FRB(米連邦準備制度理事会)は、インフレ抑制のために積極的な政策金利の引き上げを行ってきた。野村では、今回の利上げサイクルにおける政策金利の到達点は、23年5月FOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%ポイント引き上げられた後の5.00~5.25%と予想している。23年はこの水準で維持した後、24年3月FOMC から利下げを開始し、7会合連続で0.25%ポイントずつ引き下げ、24年末の政策金利水準は3.25~3.50%と予想している。

FRB は、量的緩和で拡大したバランスシート(証券ポートフォリオ)を現在、月間950億ドル(米国債600億ドル、住宅ローン担保証券350億ドル)のペースで縮小させている。野村では、バランスシートの縮小は当面、現行のペースで行われ、24年3月に終了すると予想する。

次に企業業績をみると、調査会社リフィニティブによる5月26日時点の集計では、S&P500指数構成企業のEPS(1株当たり純利益)は、23年1~3月期は前年同期比-2.8%と推定され、23年4~6月期は同-7.9%と、減益率の拡大が予想されている。その後、23年7~9月期は同+0.1%と前年同期並みまで回復し、23年10~12月期には同+8.8%と予想されている。

年度ベースでは、23年は前年比+0.6%、24年は同+11.7%、25年は同+11.0%と予想されている。

今後、米国景気が悪化するとの想定で上記の企業業績予想となっている要因としては、米国には独自の技術力やビジネスモデルでグローバルに競争力を発揮し業容を拡大している企業が多数あることが考えられる。そのような企業は人工知能(AI)の普及など新しい事業機会を捉え、今後、業績を拡大していくことが期待される。

野村では、今後、FRB の利上げが停止されることに加え、米国経済が悪化することで、米長期金利(米10年国債利回り)は低下していくと予想している。年後半の企業業績回復を織り込むようになれば、米国株式市場は上昇傾向となろう。

競争力による業容拡大企業に着目

米国株式の銘柄選別の視点としては、独自の技術力やビジネスモデルで競争力を発揮している企業群に着目したい。

一例として、クラウド型で企業向けに営業支援や顧客関係管理のCRM システムを提供するセールスフォースを挙げたい。大型企業買収が続き、22.1期、23.1期と業績は足踏みが続いたが、買収企業の業績貢献もあり24.1期以降は増益が予想される。

APM と呼ばれる、企業のアプリケーションシステムのインフラを監視、管理するソフトウエア群を提供するダイナトレースにも着目したい。企業が監視し分析すべきデータの加速度的な増加というトレンドは同社製品への追い風となっており、中長期的に業績は拡大していくと予想される。

コンピューターやコンシューマーエレクトロニクス製品向けのCPU(中央演算処理装置)やGPU(グラフィックス処理半導体)などを主力とする半導体メーカー、アドバンスト・マイクロ・デバイセズにも着目したい。半導体製品の製造はファウンドリ(半導体受託製造企業)に委託し、これら企業が提供する最先端の製造プロセスを用いて先端半導体製品を供給することで、自社で製造を行い、直近では最先端の製造技術の確立に苦戦している競合企業に対し、優位に競争を進めている。

売上高で世界最大のソフトウエア企業、マイクロソフトはクラウドの業容拡大に加え、対話型AI、Chat GPT( 対話型AIチャットサービス)のビジネス化で先行しており、引き続き着目される。

eコマース(電子商取引)の最大手企業のアマゾン・ドットコムは、コロナ禍で急増した需要に対応するための能力増強投資で損益は悪化していたが、今後業績の回復が期待できる。

カード決済ネットワークにも注目したい。コロナ禍の影響で実店舗でのカード利用減少の影響を受けてきたが、コロナへの対応で世界的に電子決済化の流れは加速しており、同分野最大手のビザを挙げたい。

それぞれの分野で競争力を発揮し、着実な業容拡大で長期間増配を続ける優良企業も紹介したい。過去25年以上増配を継続している企業で構成される「S&P500配当貴族指数」採用で、かつNY ダウ指数の構成銘柄でもある企業は、シェブロン、スリーエム、キャタピラー、マクドナルド、プロクター・アンド・ギャンブル、コカ・コーラ、ウォルマート、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス、ジョンソン・エンド・ジョンソン、IBM 等である。

(野村證券投資情報部 村山 誠)

※野村週報 2023年6月5日号「焦点」より

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

※掲載している画像はイメージです。

ご投資にあたっての注意点