長らく日本株は、そのROE(自己資本利益率)水準の低さや、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業の多さが問題視されてきた。ここではこの2つの株式指標が企業の何を評価する物差しであるのかを振り返り、その特性と利用にあたっての留意点を述べる。

ROEとは、当期純利益を自己資本で割った値を指す。投資家が投入した資金(自己資本)をもとに企業が生み出した利益の割合であり、企業の経営の効率性を評価する指標の1つである。

また、PBRとは、株式時価総額を純資産で割った値を指す。純資産は、仮に企業が全ての事業を停止した場合、債務を返済した後に残るとされる金額(解散価値)である。PBRが1倍を割る状態は、企業に対する市場からの評価が理論上の解散価値よりも低いことを意味する。

最近では自社株買いや配当により総資産に占める自己資本を圧縮することで、ROEやPBRの改善を図るケースが見られる。実施した企業はその後株価が上昇する傾向があることから、市場もこうした施策を好意的にとらえているようだ。

だが、ROE やPBR の改善は、それ自体が企業経営の目的ではないだろう。資本を効率的に用いて継続的に利益を上げ、市場で評価される企業に成長することで、その成果が指標に反映されることが望ましい。そのためには、財務面の施策だけではなく、根本的な収益力の向上を意識した取り組みが非常に重要である。

例えば、イノベーションにつながる設備への投資、優秀な人材の獲得に向けた賃上げといった施策は短期間では成果が出るか分かりにくいが、従来にない製品やサービスの創出に貢献し、企業の持続的な収益向上に寄与する取り組みとなるだろう。

この3月、東京証券取引所(東証)は上場企業に対し、ROE やPBR などの株式指標を例に挙げたうえで、資本収益性や株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請した。東証は、財務的な施策が指標の改善に有効な場合もあるとした一方で、一過性の効果にとどまらない持続的な収益性の改善を期待すると述べている。この東証による要請が企業の意識改革を進める契機になり得るのだろうか、各企業のアクションを注視したい。

(野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング 松浪 侑奈)

※野村週報 2023年6月5日号「資産運用」より

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