
日本企業はかつて車載用LiB(リチウムイオン電池)市場で世界トップシェアを誇ったが、近年は中国や韓国の企業が市場をリードしている。次世代の車載用電池では日本企業の巻き返しを期待したい。
国内の大半のEV(電気自動車)の販売価格は400万円超で、航続距離は250~600km 超となっている。一方で、ハイブリッド車の代表車種であるプリウスのメーカー希望小売価格は320万円(グレードG)である。ガソリンタンク容量と燃費性能から、1,200km 超の走行が可能と試算される。現状のEV は、ハイブリッド車と比較して高価格で航続距離も短いと言える。
EV が高額となる要因の一つに、車載用LiBの高価格が挙げられる。車載用LiBの価格は低下傾向にあったが、近年は低下ペースが鈍化しており、2022年は部材コストの高騰で上昇に転じた模様である。航続距離を左右するエネルギー密度も、1991年のLiB 市販開始から3倍以上になり、理論上の限界に近づきつつある。
このため、EV の低価格化と航続距離の伸長に向けて、多様な次世代電池が開発されている。中でも、ナトリウムイオン電池と全固体電池は比較的早期の実用化が期待されている。
ナトリウムイオン電池は、CATL(中国)が2023年から車載用に量産する計画である。同電池は高価なレアメタルを使用せず、部材コストが安価と見られる。一方、エネルギー密度がLiB の60%程度と低く、航続距離の伸長は難しいと予想される。
全固体電池は、固体電解質の採用によりエネルギー密度と安全性の向上が期待される。一方、固体電解質などの部材コスト高は課題と見られる。同電池の開発競争では日本が先行しており、トヨタ自動車等の大手自動車メーカーを中心に20年代前半~中頃の実用化が期待される。
ナトリウムイオン電池、全固体電池ともに、低価格化と高エネルギー密度化に加えて、安全性や長寿命等ともバランスを取ることが製品化のカギとなろう。
世界の電池メーカーや自動車メーカーは、様々な次世代車載用電池を開発しているが、実用化には時間を要すると見られる。日本企業が車載用電池市場でトップシェアに返り咲くことを期待しつつ、開発動向を注視したい。
(野村證券フロンティア・リサーチ部 草間 亮佑)
※野村週報 2023年6月5日号「新産業の潮流」より
【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら
※掲載している画像はイメージです。