カナダ銀行(BoC)は3、4月と2会合連続で利上げを見送った。BoCは引き締め的な金融環境を維持しながら、高止まりのリスクがあるサービスインフレの抑制を目指す、いわばインフレ退治の最終段階に入ったとみられる。しかし、ここにきて“新たなインフレの芽”が育ちつつある点に注意したい。

それは住宅価格である。住宅価格は家賃や帰属家賃(持家に対して家賃が発生していると想定した際の仮想的な家賃)を通じて消費者物価にも影響を及ぼす。カナダの住宅価格を確認してみると、2022年7月以降下落を続けていたが、23年4月に上昇に転じたことがわかる。家賃や帰属家賃の伸びも再加速し、BoC の想定通りにインフレが減速しないリスクがあろう。

住宅価格の回復の背景には、何があるのであろうか。ナノス・リサーチが実施する消費者信頼感調査において、今後12カ月で住宅価格が「上昇」すると回答した人の割合から「下落」すると回答した人の割合を差し引き、消費者の住宅価格の見通しを表す指標を作成すると、同指標に沿う形で、住宅価格の上昇率は推移してきた。住宅価格の回復には、消費者の住宅価格の見通し好転があるといえそうだ。

消費者の住宅価格見通しが回復に転じた23年3月はBoC が利上げ休止に踏み切った時期に重なる。利上げ休止を受けて、これ以上の住宅価格の下落はないとみた消費者による住宅需要が、住宅価格の押し上げに寄与した可能性がある。

利上げ休止後の住宅需要の回復はカナダだけではなく、豪州でも確認されている。結果的に、豪州準備銀行は5月会合で利上げ再開に踏み切る一因ともなった。カナダや豪州で確認された利上げ休止後の住宅価格の反発は、主要国でのインフレ抑制の難しさを示していよう。利上げ休止が近づくFRB(米連邦準備制度理事会)にとっても、住宅市場の再加速が懸念材料になるかもしれない。

(野村證券市場戦略リサーチ部 秀嶋 智輝)

※野村週報 2023年6月12日号「経済データを読む」より

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