半導体製造装置市場は中期的に成長へ

半導体の重要性が近年急激に高まっている。我々の日常生活が電子機器内の半導体なしでは成り立たないうえに、米国の対中輸出規制に象徴されるように国家の安全保障上でも重視されている。半導体の高性能化がその背景にあるが、高性能化を支えているのは、従来よりも微細な加工を効率的に行えるようになった半導体製造装置(以下、SPE) の進化である。SPE 市場は2020年から前年比20% 増、45% 増、5% 増と急成長しており、23年こそ同19% 減と調整するが、24年以降は中期的な成長が再開すると野村では考えている。成長の要因は①半導体市場の拡大、②半導体製造の難易度とコストの上昇、③各国による半導体製造能力の囲い込み、の3点である。

①については、生成AI(コンテンツを生成できる人工知能)、メタバース(仮想空間)、6G(5G の性能を進化させた次世代通信システム)、ADAS(先進運転支援システム)などのテーマがある。中期的に半導体への需要を増加させ、SPE市場は製造能力拡張の好影響を受けよう。②については、製造が複雑で高難易度の最先端半導体の需要が増加している。例えば、16年の3DNANDと呼ばれる3次元構造のフラッシュメモリ登場と、スマートフォン向けの小型先端半導体への需要増の際は装置の付加価値が高まり、SPE市場は半導体市場を上回り成長した。最先端半導体ではトランジスタ構造が3次元となるなど製造難易度が高まるが、低消費電力化や高速化などのニーズで需要は強く、SPE の需要に繋がろう。

最後に③については、半導体の価値が上昇したことで、米国が5年で527億ドルの補助金を計画するなど、各国で半導体製造能力の囲い込みが生じている。欧州では30年までに米国と同規模の補助金を実施、中国でも半導体の内製化を国策として多額の補助金が支給されている上、日本でも補助金を積極的に活用している。23年5月にはメモリ大手のMicron Technology の5,000億円の日本への投資が実現している。

SPE の装置別では、最先端半導体向けで東京エレクトロンが強いエッチング装置などのウエハパターニング装置、パワー半導体向けでディスコのシェアが高いグラインダなどが市場全体を上回り成長しよう。

調整局面への突入には留意

ただし、短期的には半導体市場とSPE市場は調整局面に突入している。世界的なインフレなどを要因にPC、スマートフォン、サーバーといった最終製品需要が鈍化し、顧客側がメモリ半導体を中心に在庫を調整しているためである。部材不足などによりSPE関連各社の生産納期が長期化するなか、同市場の売上高は23年1~3月期は前年同期比で増加したが、4~6月期からは同25% 程度の減少に転じよう。売上高の絶対水準での底は23年7~9月期前後と野村ではみている。在庫調整完了後の回復局面では生成AI などによる需要押上げに期待したいが、23年内については最終需要の弱さによる下押し効果の方が強いだろう。

実際、個社レベルで日本のSPE 関連各社の1~3月期決算を見ると、①業績の着地は概ね会社計画を上振れ基調であった、②短期的な事業環境見通しについては従来野村想定以上に厳しかった、③相対的に底堅いと見込まれた先端領域でも調整がみられた、④中国ローカルの成熟ノード半導体への需要が旺盛であった。24.3期については、SPE 関連各社では個社要因の強い企業を除くと前期比減益ガイダンスの企業が多く、市場環境を考えれば違和感はない。ただし、ディスコの消耗品出荷や東京精密のSPE 受注など、後工程装置の企業を中心に、4~6月期の底打ち見通しが示される領域が出てきている状況でもある。

SPE 関連各社の株価に目を向けると、23年5月は大幅に上昇した。広島G7サミット後にMicron の新規投資が明らかになったうえに、GPU(画像処理半導体)最大手NVIDIAの好決算で生成AI に関する長期成長期待が膨らんだことが要因である。生成AI 関連の投資が増えれば、最先端GPU の需要増やサーバーへの搭載メモリ量増などを通じ、先端半導体向けSPE 市場に好影響があろう。

生成AI に対する長期の成長期待感が織り込まれた足元の状況を勘案すると、銘柄選別は中期の利益成長率の高さに加えて、短期の不透明感の少なさも重要だろう。組立などを行う後工程企業では、受注のボトムに近く、業績に安心感がある。ウエハから半導体チップを製造する前工程系の企業でも東京エレクトロンについては、①売上構成や米国による対中輸出規制の影響などで業績の悪化が国内外同業他社に比べて早かったこと、②24.3期会社計画の前提が同業他社と比較して、慎重であったことなどから、業績の不透明感は少ないと野村では見ている。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 吉岡 篤)

※野村週報 2023年6月12日号「産業界」より

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