1分で読める今週の米国株

6月2日~9日の振り返り

FOMC(米連邦公開市場委員会)を翌週に控え、米国株主要3指数は一進一退でした。

今週のPoint1. 5月CPIで改めてインフレをチェック

先週は、FOMC参加メンバーが沈黙期間(金融政策に関する公での発言を控える期間)に入りインフレ・金融政策見極めに材料を欠く一週間でした。5日(月)に発表された5月ISMサービス業景気指数は前月の51.9に対し50.3と、市場予想の52.2に反して前月から悪化しました(インフレにとっては鈍化要因)。一方、2会合連続で利上げを見送っていたカナダの中央銀行であるカナダ銀行が再度利上げに踏み切ったことは、FRBの利上げ再開観測を強める材料となりました。

13日(火)には、米CPI(消費者物価指数)が発表されます※。13日(火)-14日(水)に開催される6月FOMCの議論に大きな影響を与えると見られ、注目が集まります。

※詳しくは次項目「もっと知りたい!経済指標」参照

今週のPoint2.FOMCの見どころは

今週は日米欧の中央銀行が金融政策の決定会合を開催します。日米のプレビューはこちらの記事(【注目トピック】日銀会合・FOMC 直前予想:米国は利上げ休止、日本は緩和継続の可能性)に詳しく解説しておりますので、ぜひご覧いただければ幸いです。

6月FOMCは利上げ見送りとの観測が強まる中で、市場の関心はどの程度明確に7月以降の利上げ再開の可能性が示されるかに集まっています。毎年3月・6月・9月・12月のFOMCは参加者の政策金利見通し(ドッツ)が発表されます。3月時点で5.125%となっていた2023年末ドッツ中央値の上方修正があれば、市場は7月以降の利上げ期待を高め、株価には下押し材料となります。一方、ドッツ中央値に変化がなく、声明文やパウエル議長記者会見を通じて利上げ再開の可能性を示唆する程度に留まれば、7月以降の利上げの可能性を高めない場合、株式市場にとっては好材料でしょう。

今週のPoint3.アドビ、オラクルが決算を発表

米国は、早くも3-5月期決算が発表されます。オラクルやアドビなどソフトウェアの主力の発表が予定され、米企業の決算発表が集中する4-6月期の発表(7月中旬~)の前哨戦として注目されます。

(以上、「1分で読める今週の米国株」)

もっと知りたい!経済指標&金融政策

13日(火)のCPI

5日(月)に5月ISMサービス業景気指数が発表されます。

CPIは高止まりが予想される

13日(火)に5月のCPI(消費者物価指数)が発表されます。5月コアCPI(食料エネルギー除く)の市場予想は前月比+0.4%(4月同+0.4%)と、引き続き高い伸びが予想されています。自動車や変動の大きい一部の項目の影響により、コアCPIが全体としても上振れるリスクがあります。CPI上振れの場合、翌日のFOMC結果発表でもタカ派的なコミュニケーションが予想されます。

「スーパーコア・インフレ率」を気にしなくてよい理由

なお、パウエル議長の講演などから、市場ではインフレの持続性を測る指標として、借家賃料と持家帰属家賃を除くCPIコアサービス・インフレ率(スーパーコア・インフレ率)が注目されています。野村の試算によれば、4月の前月比+0.1%から同+0.5%に上昇したとみています。予想通りとなればFOMCのタカ派化要因ですが、宿泊料金や航空運賃など変動の激しい項目や一過性の要因によって増幅された可能性が高いことや、FRBが政策決定をより将来を見据えて行うようになっていると考えられることから、野村では年内の追加利上げはないとみています、

もっと知りたい!決算発表

オラクル&アドビ

今週発表が予定される中でも、オラクルはクラウド・ソフトウェア業界、アドビはAI・マーケティング・オートメーション・ソフトウェア業界とハイテクセクターの業績へのインプリケーションが大きく、注目が集まります。

オラクルの「後発者利得」はどこまで続くか

オラクルは、12日(月)に2023年5月期通期の決算発表を予定しています。3月に発表された2022年12月-2023年2月期決算は好調で、売上高はガイダンスの中央値とほぼ一致し、うち、クラウド売上高は前年同期比+45%と高成長が続きました。オラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)がクラウド売上高を牽引しています。会社の前四半期のガイダンスからは、第4四半期のクラウドの増収率が為替調整後で約 35%へと加速することが示唆されます。同社は、クラウドアプリケーションもこれまでのところマクロ環境悪化の影響は出ていないようです。

なぜ、OCIは堅調なのか

アマゾン・ドットコムのAWSやマイクロソフトのAzureなどの成長が鈍化する中でなぜOCIが堅調かは必ずしも明確ではありません。OCIに関する説明会に参加した米ウルフリサーチ社のアナリストは「当社がクラウドインフラの二番手としてサービスを開始したことが有利に働いている」としています。

マルチクラウド戦略の追い風は続くか

冒頭に挙げた他社のサービスは主に「パブリッククラウド」として知られ、原則はサービス全体を同一のクラウド内で管理・処理することを前提としています。一方、OCIはパブリッククラウドと顧客企業側が自社で構築するプライベートクラウドを併用する「マルチクラウド」を前提に構築されていることから、足元の顧客企業側によるクラウドソフトウェアの取捨選択の流れが追い風となっているようです。こうしたクラウド最適化の動きは数四半期で終わるものか、トレンドとして続くものかを、当社決算を通じて確認したいと考えます。

アドビにとってAIは向かい風か?追い風か?

15日(木)に決算発表を予定しているアドビではAI戦略に注目です。前回の四半期(2022年12月-2023年2月期)決算では、売上高・利益ともに市場予想を上回りました。それにも関わらず、当社は画像や動画に関連するクリエイターや企業を多く顧客に持つため、ここ半年の「生成AI」(特に、画像生成AI)の流れの中で、画像・動画制作市場自体が縮小するとの懸念から、株価は伸び悩んでいます。

アドビならではのAI戦略は

一方、同社は「sensei」というAI技術を持つほか、画像生成ソフトウェアの「Adbe Firefly」を発表しています。見方を変えれば、生成AIはクリエイターの人口を増加させると同時にプロのクリエイターのワークフローに付加価値を付加するものにもなり得ます。当社は膨大なデータやエコシステム、そして権利関係などの規制対応上の強みを持つことから、商業的に有望な生成AI製品が開発できれば同社と顧客に大きな付加価値をもたらす可能性があります。同社の戦略に関心が集まります。

これら2銘柄は、独自の強みが注目されるとともに、4-6月期に集中するクラウド関連企業、マーケティング・オートメーション・ソフトウェア、AI関連いずれにとっても大きな示唆情報になり得ます。金融政策を注視しつつ、企業決算からも目が離せません。

(FINTOS!外国株 小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点