今年も夏の土用丑の日(7月30日)が近づいている。古くから多くの日本人が愛してやまないウナギではあるが、ワシントン条約でニホンウナギがレッドリストに掲載されていることや、ウナギの稚魚の国内漁獲量が最盛期比で20分の1に減少していることはあまり知られていない。近い将来、ウナギを食すことが出来ない日が来るのではと懸念する声も聞こえている。

普段、我々が食しているウナギの99%は養殖されたもので、生態系は充分に解明されていない。マリアナ海溝付近で産卵・孵化した稚魚が台湾・中国・韓国・日本に流れ着き、これを河川や海で漁獲し養殖するのが一般的である。ウナギの稚魚は「白いダイヤ」と表現されるほど高値で取引されており、1kgあたり約300万円の値がついた時期もある。

高額で取引されるが故に、違法漁獲や不透明な流通が後を絶たない。この解消に向けて、2022年12月に「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」が施行され、25年12月からウナギも規制対象になることが決まっている。

ウナギの資源量枯渇が懸念される一方で、昨今、ウナギ産業に新たなビジネス機会を求める異業種のプレーヤーが増えている。

例えば、武州ガス(埼玉)は、太陽光発電を活用したウナギの陸上養殖を22年6月より開始し、23年4月に初出荷した。同じく、岡山理科大学が陸上養殖した「おかやま理大うなぎ®」は、23年5月に期間限定でくら寿司の全国店舗で提供された。また、日清食品グループは、23年5月に大豆タンパクを主原料とした植物ベースの代替ウナギの開発に成功したことを発表した。海外では細胞ベースの培養ウナギを開発するシンガポールのUmami Meats 社が、23年5月に日本支社の設立を発表している。さらに、新日本科学はニホンウナギの人工種苗生産に成功し、22年12月、本種苗由来のウナギの試食会が開催された。

このような異業種プレーヤーによる新たな技術の台頭により、ウナギに関連するバリューチェーン(価値連鎖)やビジネスを相互に補完していくことが出来れば、ウナギ産業の持続性に寄与することはもちろん、市場のすそ野の拡大にも大きく寄与するものと考えられる。

(野村アグリプランニング・アンド・アドバイザリー 鈴木 拓実)

※野村週報 2023年6月19日号「アグリ産業の視座」より

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