日米の自動車生産は大幅回復へ

2023年は半導体不足の状況が改善し、日米の自動車生産は大幅に回復しよう。米国ではディーラー在庫補充による下支えが見込まれる。日本では、新車納期が長期化するなか、22年は半導体を比較的多く使うハイブリッド車(HV)の減産幅が大きかったことから、23年は回復幅が特に大きくなると考える。さらに、レクサスなど高級車の販売も増加すると見込み、多くの部品企業では製品ミックスの良化も期待できよう。野村では、国内生産比率が高いトヨタ系の自動車部品メーカーが国内生産回復の恩恵を享受しやすいと考えている。

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(出所)各社資料、野村予想

中国は電動車の値下げで日系車が苦戦

一方、中国では22年末で新エネルギー車購入補助金が終了し、23年初から自動車販売が伸び悩んでいる。中華系メーカーやテスラは電動車を値下げし、販売台数の維持に動いてきた。価格競争の激化で日系及び欧州系では販売シェアが低下傾向にある。

(注)電動車比率はHV+PHEV+BEVの合計値。HV:ハイブリッド車、PHEV:プラグインハイブリッド車、BEV:電気自動車
(出所)MarkLinesより野村作成

日系大手の販売シェアは、トヨタは保っているが、ホンダや日産自動車では低下している。トヨタ系サプライヤーは短期業績に比較的安心感があるといえる。ただし、部品各社は中国での新規拡販の必要性を強く意識しており、現地での開発・生産体制の構築・強化に注力する構えである。

新規拡販による独自成長性に注目

長期では電動化やADAS(先進運転支援システム)の進展が見込まれ、部品メーカー各社ではコア技術を強みとした販売アイテム増やシェア上昇、多様なニーズへの対応による独自成長性が求められよう。

例えばデンソーは、バッテリーの温度や電池残量の監視を行うバッテリー監視技術と車両全体の温度を統合制御する熱マネジメント技術を有している。バッテリーの状態を常時監視し、高温の場合はバッテリーを冷却するような温度制御を車両全体で行うことで、バッテリー劣化を抑制できる。電動車の購入時には航続距離が一般的に意識されるが、運用後のバッテリー消耗による航続距離の短縮にも留意が必要である。また、電池の消耗状態が中古車売却価格にも大きく影響することから中古車価格の向上にもつながるため、デンソーの技術は電動車の競争力向上に大きく貢献しうる。

アイシンでは、電動パワートレインユニット(HV トランスミッションやeAxle)や回生協調ブレーキが注目される。BEV(電気自動車)はモーターで駆動するためエンジンよりも加速性能が高いという特徴があり、多くの車種ではその高い走行性能を最大限に活用するため、四輪駆動(電気式4WD)システムが設定されている。同システムでは、電動パワートレインユニットが前後輪に1台ずつ搭載されるため、アイシンの拡販が期待できる。また、同社子会社のアドヴィックスはこれまでトヨタのHV向けに回生協調ブレーキを多く出荷してきた。同ブレーキは、通常の油圧ブレーキに加え、モーターの回転エネルギーを電気エネルギーに変換しバッテリーに充電するため、燃費・電費を向上できる。さらに、前後輪の油圧ブレーキと前輪回生ブレーキの制動力を独立制御により最適配分し、回生量の向上と、車両姿勢の制御による快適さの双方を実現できる。

(出所)アイシンHPより野村作成

自動車業界では価格競争が激化している。その中、多様化するニーズに迅速に対応し新規拡販できる企業が今後も持続的な成長を遂げると考える。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 石本 渉)

※野村週報 2023年6月26日号「産業界」より

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