野村證券に長年受け継がれている取り組みがある。その名は「四季報の会」。『会社四季報』(東洋経済新報社刊)の発売後、投資情報部のリサーチャーらが、パートナー(個人投資家向けの営業担当者)向けに巻頭から巻末までを2日間、計3時間で解説する取り組みだ。四季報の会の代表で、投資情報部のストラテジスト(投資戦略立案の担当者)でもある大坂隼矢氏にロングインタビューし、四季報の会に潜入。取り組みについて3回にわたってお伝えする。

2000ページを1週間で読破

――四季報の会とは、どういった取り組みですか。

『会社四季報』は文字通り年に4回、3月に春号、6月に夏号、9月に秋号、12月に新春号が発行されます。投資情報部のリサーチャーら約10人が四季報を読み込んで分析し、各号の発売から半月ほど後に講師役となって注目すべき企業や業界の動向についてパートナー向けに解説します。

個別銘柄、つまり企業の経営情報を起点に、経済の動向や世の中のトレンドなどをコンパクトに話します。パートナーがお客様と会話する際の参考情報にしてもらいたいという思いで続けています。

各銘柄は業種ごとに「銘柄コード」でまとめられています。たとえば1000番台は水産・農林業や建設業、2000番台は食品製造業とサービス、小売業といった具合です。メンバーが1000番ずつ担当し、入れ替わる形で説明します。

実は私も詳しく知らないのですが、私が投資情報部に着任した2015年に部長だった方(現在は退職)が20年以上前、現場で営業を担当していた時に始めたようです。その方が投資情報部に着任し、パートナー向けに展開し始めたのだと思います。午後6時から東京の本社の投資情報部で行うので、かつては首都圏のパートナーのみを対象とし、まれに地方在勤者からの要請で「出張開催」する程度だったようです。私が代表になった後、コロナ禍により「リアル」での開催ができなくなりました。四季報の会を継続させたいという一心で、初めてオンラインでの開催に踏み切りました。

リアル開催の時は、基本的に首都圏周辺の各支店からそれぞれ1名が参加しており、開催されていたことも知らないパートナーも多かったと思います。私自身も東京都内の支店で働いていましたが、四季報の会が開催されていることを投資情報部に着任するまで知りませんでした。

オンラインになり、四季報の会の存在だけは知っていたという地方勤務のベテランパートナーから「ありがたい」という声も寄せられ、主催者側も励みになっています。リアル開催の時にあったような「熱量」がオンラインで伝わるか最初は不安でしたが、むしろより多くのパートナーに四季報の会に参加してもらうことができるようになり、やってよかったと感じています。

――四季報は2000ページ以上あります。相当な分量ですが、分担して読み込むのですか。

代表の私は最初の説明と最後のまとめを話さなければいけないので、発売後の3日~1週間ぐらいで国内の株式市場に上場する3899銘柄(2023年夏号販売時点)のすべてに目を通します。

まず、四季報の記者が書いた見出しと業績の概要をさっと読みます。まったく気にならず数秒で読み飛ばす銘柄もあれば、5分ほどかけて読み込む銘柄もあります。

子どもが夜寝静まった後など、夜遅くに読むことが多いです。深夜に、読んでいるうちに面白くて寝るのを忘れ、気づいたら午前4時になっていたこともありました。

気になる銘柄や記述があると付箋を貼ったり、本に線を引いたりします。投資情報部員はいわゆる「オタク気質」の人が多いんですが、私自身はオタク気質でもマメな性格でもないと思っています。ただ「四季報の付箋の貼り方は几帳面」と言われますね。

四季報の会の準備のためのミーティングでは、メンバー同士で「この銘柄はこういった見方もできますね」などと話し合い、本番で解説する内容を調整します。私が数秒で読み飛ばした銘柄が、実は興味深い要素を含んでいたと気づかされるケースもありますね。

四季報は証券セールスの「武器」になる

「四季報の会」代表を務める野村證券投資情報部の大坂隼矢・ストラテジスト

――四季報の会を実施する意味は何だと考えていますか。

パートナーは正しい情報をもって、お客様としっかり対話し、提案の内容について理解してもらわなければなりません。さらに、私のようにパートナー出身の投資情報部員は、専門知識を持ったエコノミストや企業担当のアナリストらと会話し、議論できるだけの知識を身に着けていく必要があります。

全上場企業の情報が1冊の紙の本にまとまっている四季報は、仕事のための「武器」となるのです。私たちは四季報を読み込むことで武器を手にすることができ、パートナーたちにも四季報の会に参加してもらうことで、武器を持ってもらうことができると考えています。

実際に、株式の営業成績がいい支店では、四季報の会の取り組みを発展させて独自に実施しているケースもあるようです。パートナーが四季報の中から興味深い銘柄をピックアップして持ち寄り、ディスカッションして営業に生かしていると聞いています。

――「大坂流」の読み方のポイントはありますか。

「大坂流」であるかはわかりませんが、面白いと思った銘柄の「比較会社」「仕入先・販売先」などを確認してみることをお勧めします。業績が好調な要因が、業界全体のトレンドなのか、その銘柄独自の「個社要因」なのかを見極めることができるためです。

業界全体のトレンドであった場合には、まだ株価が上昇していない出遅れ銘柄を探し当てることができるかもしれません。個社要因であった場合には、四季報だけでその要因がはっきりしないことが多々ありますので、会社のIRページなどを確認するとより理解が深まると思います。

また、四季報を読んでいるとわからない言葉がいくつも出てくると思います。そういったときに「とにかく調べる」癖をつけることが大切だと思います。

私自身は、わからない言葉が減っていくにつれて、四季報を読むのがどんどん楽しくなっていきました。そもそも四季報の情報量は限られていますので、四季報だけでは企業の強みの詳細や、業界の仕組みまでを読み解くことはできません。

四季報はあくまで銘柄発掘のためのツールですので、実際に個別銘柄の投資を検討する際には、IRページなどを確認し、判断することが必要だと思います。

アナリストと四季報の情報に「ズレ」も

――自社の銘柄レポートと四季報の両方を読んで、違いを感じることはありますか。

正直なところ、ほとんどないですね。ただ、読むときは四季報の情報だけをベースにして、前号対比で内容が変わっているかを見て、情報の客観性を担保するよう努めています。

時に、アナリストのレポートと四季報の内容に微妙なズレを感じる時はあります。しかし、どちらの見方が当たっているのかはわかりません。書きぶりに差があるということは、アナリスト予想と市場とのギャップがあるともいえそうです。

――四季報をどうやって仕事に生かすのでしょうか。

先にお話しした通り、四季報のもっとも優れているところは、全銘柄の情報が1冊にまとまっているところです。インターネットで全銘柄の情報を提供するサービスは複数ありますが、一つ一つ銘柄コードを入力して調べるのは現実的ではありません。私たちは四季報を通じ大企業だけでなく、大企業に原材料などを供給している取引先企業などの動向も追うことができます。

パートナーがお客様である企業の経営者の方から、自社とよく似た企業や自社を取り巻くサプライチェーンに関連する企業について質問をいただくケースがあります。しかしインターネットで調べた業界の情報を提供してもなかなか話が深まりません。

「この会社のこの商品が好調だから株価も上がっている」とお伝えしたほうが、具体性があってわかりやすく、話も広がりやすい。四季報から個別銘柄の情報を得て、お客様と話をするのが良いと考えています。
(第2回「野村證券『四季報の会』代表に聞く、夏号の注目点は?」はこちら

ご投資にあたっての注意点