CO2を排出しないグリーン水素

 IEA(国際エネルギー機関)によると、2030年の世界の水素需要量は、1億1,500万トン(2021年は9,400万トン)に拡大すると予想されています。しかし、現在生産される水素の多くは、化石燃料から生産されたグレー水素です。カーボンニュートラル実現のためには、水素利用の拡大とともに、再生可能エネルギー由来の電力によって水を電気分解して得られる、グリーン水素への転換が求められます。IEAは、ブルー水素やグリーン水素の生産量が、2030年には年間1,600-2,400万トン(2021年は100万トン未満)となり、グレー水素からの転換が進むとみています。

(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

グリーン水素の活用が広がる

2023年3月にEUが、実質的に温暖化ガスを出さない合成燃料(e-fuel)を使う場合に限り、2035年以降も内燃機関車の販売を認めると発表したことで、改めて水素が注目されています。

合成燃料は水素と二酸化炭素を合成して作ります。「人工的な原油」ともいわれ、ガソリンなどの既存インフラや内燃機関部品の利用が可能です。電動化が難しいとされる大型商用車や航空機での利用が期待されます。近年は、合成燃料の中でも、グリーン水素を用いたe-fuelの実用化が期待されています。

(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

関連ビジネスの拡大が期待される

グリーン水素は製造コストの高さが障壁の1つですが、脱炭素に向けた枠組みの強化や、エネルギー安全保障に対する意識の高まりが普及の追い風となるでしょう。2023年6月に米国で「国家クリーン水素戦略」が発表され、2050年までに年間5,000万トンのグリーン水素の製造を目指すとしています。日本でも6年ぶりに「水素基本戦略」を改定し、水素の製造や導入に官民で15年間で15兆円超の投資を行うとしています。グリーン水素を中心に水素生産に対して、主要国が支援する動きを活発化させており、グリーン水素市場の拡大が期待されます。

ご参考:グリーン水素関連銘柄の一例

・東レ(3402)

シーメンス・エナジーAGと固体高分子型水電解を用いたグリーン水素製造においてパートナーシップ契約を結んでいる。シーメンス・エナジーの大型水電解装置に独自の電解質膜を提供する。

・旭化成(3407)

水電解装置を手掛けている。グリーン水素を製造するNEDO(注)の「福島水素エネルギー研究フィールド」に参画し、10MW級大型アルカリ水電解装置を設置している。複数の10MWモジュールからなる大型アルカリ水電解装置を2025年までに上市する予定。

出光興産(5019)

北海道製油所で、グリーン水素と製油所などで排出するCO2を使った合成燃料の実用化を2030年までに目指している。

・ENEOSホールディングス(5020)

NEDOの「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」に参画し、高効率な合成燃料製造技術の開発に取り組んでいる。

・丸紅(8002)

豪州において、岩谷産業や関西電力と、現地電力会社やシンガポール企業の5社共同で、2028年以降にグリーン水素の量産を目指す。生産量は、世界最大級の年間26万トンとなる予定。

・岩谷産業(8088)

1941年より水素の販売を開始し、水素事業の開発・拡大に注力している。ENEOSホールディングスなどと共同で、年間数万トン規模の液化水素の海上輸送技術を確立し、上流から下流までの一貫した国際間の液化水素サプライチェーンを構築する実証を行っている。

・エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズ(A1017/APD US)

大気ガス、特殊ガス、ガス処理装置の世界大手企業。2022年12月、AESとテキサス州に米国で最大級のグリーン水素製造施設を建設すると発表した。2027年の稼働を予定している。

・プラグ・パワー(A3437/PLUG US)
産業用車両や発電装置向けの燃料電池システムに強みをもっている。近年では、水電解装置の分野での存在感も増している。アマゾン・ドットコムと、2025年から年間1万トンのグリーン水素を供給する契約を締結した。

・RWE(G0651/RWE GY)

再生可能エネルギーと洋上風力発電を手がけている。洋上に設置する大規模電解装置を稼働させ、2035年までに100万トンのグリーン水素の製造を計画する[AquaVentus」などドイツや欧州のグリーン水素を推進する複数のプロジェクトに参画している。

・シーメンス(G0677/SIE GY)

ドイツの電機大手企業。2022年9月に、ドイツ最大級のグリーン水素製造プラントの稼働を開始した。年間最大1,350トンのグリーン水素を製造する。

(注1)全てを網羅しているわけではない。 外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。(注2)NEDOは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 岩崎 裕美)

ご投資にあたっての注意点