銀行セクターの足元の業況

野村では主要銀行セクターに引き続き注目している。2022年度の銀行株価は総じて強含んだが、3月以降は欧米金融混乱の影響で下落する局面もみられた。主要銀行のPBR(株価純資産倍率、23.3期実績)は足元0.5~0.6倍台で推移しており、依然としてバリュエーション上の割安感が強い。

業績トレンドの観点からは、マイナス金利導入前(15年度まで)に次ぐ、息の長いトップライン増加局面が足元まで続いている。前回局面とは異なり、今回の業績伸長は注力分野(CIB: Corporate Investment Banking やウェルスマネジメント等)への戦略的な経営資源の再配分・投入並びにOHR(経費率)改善・RORA(リスク資産収益率)改善などの「質の改善」を伴っている点に特徴がある。RORA改善については、コア業務粗利益の対リスク資産比率が改善傾向を示している点に野村では注目しており、引き続き本業収益の緩やかな改善局面は続くものと野村では想定している。

業績モメンタムに目を転じると、22年度決算では主要行・地銀とも総じて親会社株主利益が通期会社計画比好調な着地となった。多額の債券損失を計上したものの、堅調な顧客部門収益と低位の与信費用等で打ち返したためである。米国長期金利の急騰局面をこなし、大手行の資本に対する外債関連損失の影響は今後は限定的と野村では想定している。また、自己株取得の公表こそ見送る向きが大宗であったが、23年度は期初から殆どの大手行・大手地銀が増配計画を公表した。中期的な利益目線並びに株主還元強化についての経営の自信を示すものとしてポジティブに評価できよう。堅調な顧客部門収益、資本基盤拡充、政策保有株売却加速などを背景に、株主還元強化の傾向は今後も継続するだろう。

株価材料の面からは、長期化する国内インフレ環境や22年12月の日銀によるイールドカーブコントロール策(長短金利操作、YCC)修正を踏まえると、23年度前半は日銀によるYCC の追加修正が、24年(暦年)前半にはマイナス金利脱却が市場のテーマになると野村では想定している。24年前半にかけてマイナス金利脱却が視野にはいれば、地方銀行など金利敏感銘柄への注目度が高まる局面も想定されよう。

マクロ環境変化と経営努力

日本経済を取り巻く環境は構造的に変化しつつある。これが野村の銀行業にかかわるマクロ的な環境認識である。欧米から1年程度遅れて日本においても高いインフレ率が継続する環境となっている。日本国内では当初、インフレ率上昇の短命を想定する声が強かったものの、インフレ予想は当初のエコノミスト予想を上回り続け、高インフレの経済環境は長期化している。

2%のインフレ率が日本において定着するかは今後の景気動向や雇用・賃金情勢に依存しており、予断を許さない。しかし、日本経済が長らく置かれたデフレ的な経済からの脱却のとば口に立ったことはおおよそ間違いがないだろう。

こうした問題意識と構造的な環境変化を踏まえ、単に環境変化に依拠するのではなく、それを生かして再び邦銀が株式投資の対象として輝くには何が必要だろうか。

野村では銀行株価の再評価に必要なことは、金利上昇などマクロ環境の好転を生かしつつ、生産性向上など経営努力をそれに上乗せすることだと考えている。

そのためにはRORA改善を実現することが重要であり、実現できれば将来的なROE(自己資本利益率)改善につながると野村では考えている。理由としては、まず、国内預貸利回差縮小が下げ止まったことがある。下押し材料としての利鞘悪化圧力が止まれば、経営努力としての利鞘改善の取組みや非金利収益増強がRORA改善につながりやすいからである。また、足元リスク資産対比での自己資本比率がほぼ横ばい圏で推移しているため、RORA 改善がROE 改善に直結しやすくなっていることも挙げられる。脱デフレ的なマクロ環境の方向性もこうした動きを下支えするだろう。

また、PBR 1倍割れ問題に注目が集まる中、ROE改善・RORA改善を継続的に実績として示し、投資家に経営のコミットメントと熱意を感じ取ってもらうことが、銀行株バリュエーション改善にとり極めて重要であると野村では考えている。バリュエーション改善につながる要因として、資本政策要因(財務レバレッジ・株主還元)は改善傾向にあり、マクロ要因にも構造的な好転の兆しが見受けられる中、今後は継続的な収益性改善を示して成長性に対する投資家の見方に働きかけることが効果的と想定されるためである。

そのためには、目に見える構造改革、スピード感ある収益性改善を示すことで、従業員並びに投資家と改革ストーリーを共有することも大事であろう。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 高宮 健)

※野村週報 2023年7月17日号「産業界」より

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