23年末の日経平均は34,000円を予想

7月3日発表の日銀短観は、日本企業の現状について、①価格転嫁(利益マージン率拡大)が順調に進んでいる、②設備投資意欲が強い、③円安の影響もあって総じて業況判断は堅調、という全体像を映し出した。これらは、いずれも野村がトップダウン(ストラテジストからの立場)で想定していた企業業績の姿に対して上振れた。

この内容を踏まえて、トップダウンベースのTOPIX(東証株価指数)の予想EPS(1株当たり純利益)を上方修正するとともに、2024年3月末にかけての日本株見通しを引き上げた。23年末の新たな予測値は、TOPIX /日経平均株価が2,350ポイント/34,000円(従来: 2,100ポイント/30,000円)である。

24年3月末までの上振れ余地については、日経平均株価で38,000円を想定している。これは、海外投資家が日本株への資産配分比率を引き上げる過程で、日本株への10兆円の資金流入が早期に実現する場合のシナリオと位置付けている。加えて、長期の潜在的な株高余力として、日本経済が完全にデフレから脱却した場合に、利益率が欧州企業並みに上昇(=約4割上昇)することが考えられる。仮にこのシナリオが実現した場合は、日経平均株価が45,000円に到達することもあり得ると試算している。

一方、下振れリスクとしては引き続き、世界景気の急減速と、それに伴う円高加速を警戒すべきだろう。日銀の金融政策については、野村では24年4~6月期にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)及びマイナス金利の撤廃(ゼロ金利政策への移行)を予想している。ただし、プラス金利領域での連続利上げが視野に入らない限り、日本株の業績・バリュエーションに大きな影響はないとみている。

上場企業の収益性改善の確度が高まった

野村がこれまで、23年末30,000円という「一時的に調整」のシナリオを維持していた根拠は主に、①ゼロコロナ政策を撤廃して経済活動を再開した後の中国景気の回復の弱さ、②米国景気の軟化、日銀による長短金利操作の早期修正リスクにともなうドル安・円高、③企業の利益率の回復の遅れ、の3点だった。

①についてはほぼ想定通りであったものの、②は持続的とは見ていないが非製造業(住宅含む)が強含み、かつ植田総裁のハト派(緩和的)姿勢が想定以上で、為替市場は円安方向に進んでいる。③の企業の利益率は、企業の価格設定に「粘り」「上振れ」が表れる、といったように、従来の想定とのずれが重なってきた。

このように企業の収益性改善の確度が高まったことを踏まえて、トップダウンの業績予想を上方修正した。以下では概要を説明する。

野村のトップダウン業績予想のマクロ前提は以下の通りである。①為替:ドル円の想定レートは23年12月末:130円/ドル、24年12月末:120円/ドルと円高方向、②景気: 23年中は外需不振の一方、国内の個人消費と設備投資は堅調。特に設備投資の増加は24年にかけても続く、③原油価格:先物価格に従い緩やかな低下を想定する。

新たな見通しでは、円安・インフレ影響の剥落と外需の減速が売上高の重石となる一方で、原材料高の緩和により利益率の改善が見込まれる。23年度第4四半期にかけて、営業増益率の改善を予想する。足下のマクロ統計では、4月以降も企業の収益性改善が継続しており、利益率の上振れに持続性があるとの確度が高まった。

上記のトップダウン予想を踏まえたTOPIX のEPS 予想値は23年度:143.9(前期比+3.0%)、24年度:152.9(同+6.2%)と、緩やかな増益が続く見通しである。23年末のTOPIX予想値2,350を算出するにあたり、24年度予想EPS にPER(株価収益率)15.3倍を適用した。13年以降のTOPIXの予想PER は14~16倍で推移することが多かったが、現在は増益局面であるため、通常よりやや高めのPER を適用可能と考えた。

上記のEPS見通しに対する上振れ要因として、原材料価格が落ち着いた後も企業が価格を維持することや、為替市場での円安進行が、下振れ要因として原材料高再燃と景気下振れが、それぞれ想定される。

(野村證券市場戦略リサーチ部 元村 正樹)

※野村週報 2023年7月17日号「焦点」より

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