ダイキャストではアルミ合金に商機

6月13日にトヨタ自動車が新技術に関する説明資料等を公開した。全固体電池を搭載した電気自動車(EV)の生産や新しい工法の導入等が計画されている。鉄鋼・非鉄・電線業界にも新しい事業機会をもたらすと考えられる。

トヨタ自動車は次世代EVの一部の車体に、新構造を採用する方針を示した。車体の後方のリヤ部分について、86の板金部品や33のプレス工程をアルミで一体成形する鋳造工法に取り組む。

この工法では、高圧プレスに対応できる特殊なアルミ合金が必要になる。日本軽金属ホールディングスは、既に高性能高圧ダイキャスト用のアルミ合金の開発に取り組んでいる。同社は、日本、アジア、北米でアルミ合金の生産拠点を有しており、このような工法の普及が自動車業界で進んだ場合に恩恵を享受できる可能性がある。2023年10月にはグループ内の自動車部品事業を統合する新組織を発足させる計画であり、自動車業界の工法の変化にグループで迅速に対応できる体制が整うことになる。

鉄鋼は電磁鋼板に事業機会

アルミの大型鋳造による工法は、鉄製の鋼板からの素材代替になる。高炉が生産する自動車用鋼板の需要減につながるため、鉄の需要にはマイナス影響があろう。

一方、EV の普及には高性能の駆動モータが必要になり、この鉄心に必要なのが無方向性電磁鋼板である。この分野では日本製鉄やJFEホールディングスが世界的に競争力を有している。需給も世界的な逼迫が予想され、高炉としては、高採算が期待できる製品群である。

日本製鉄は23年5月に無方向性電磁鋼板の生産能力の増強投資を発表した。電動車向けの無方向性電磁鋼板の生産能力は現状の約5倍、既に公表済みの生産能力に対しては約1.6倍の生産能力の増強になる。同社は22年10月に広畑地区(兵庫県)で、世界初の電炉一貫での高性能な電磁鋼板の商業生産を開始しており、環境対応でも先行している。

JFEホールディングスも23年2月に倉敷地区(岡山県)で無方向性電磁鋼板の生産能力の増強を発表している。

電池材料では正極材や電解質の市場拡大

トヨタ自動車は、今回、27年より全固体電池を搭載したEV を量産すると発表した。車載用の全固体電池で用いられる硫化物系の固体電解質では三井金属鉱業の事業機会の拡大につながる可能性がある。

野村では三井金属鉱業の固体電解質がトヨタ自動車のEV に直ちに採用されるとは考えていない。ただし、同社の固体電解質は既にマクセルなど車載以外の分野での納入実績がある。試験プラントの生産能力も増強しており、様々な会社で車載用途としてのサンプル出荷が拡大しているとのことである。将来的な車載用途への展開が成長ドライバーになる可能性があろう。

住友金属鉱山はリチウムイオン電池向けの正極材料で世界的な有力企業で、トヨタ自動車への納入実績もある。両社は12年以降に株式を相互に持ち合う関係にある。EV 市場の拡大は同社の正極材事業にプラスに作用すると予想する。トヨタ自動車はリン酸鉄を正極材料として使用した比較的安価な電池を車載用で活用することを公表している。住友金属鉱山は22年5月にリン酸鉄系の正極材事業を住友大阪セメントから買収し、この分野でも開発に取り組んでいる。

高圧ハーネスなどで電線にも事業機会

住友金属鉱山は電池のリサイクルにも積極的である。23年6月に使用済みの電池から回収したニッケル、コバルトが顧客の電池性能評価に合格したことを発表した。DOWAホールディングスや三菱マテリアル等もリチウムイオン電池のリサイクルに積極的に取り組んでいる。

EV の市場拡大により電池関連の端子に使用される銅合金の市場拡大が予想される。この点では三菱マテリアルが積極的に能力増強を進めており、中期的な成長ドライバーの一つとして注目できよう。

電線では、電動車の普及に伴い高圧ハーネス(組み電線)の市場拡大が進むであろう。この分野では、住友電気工業や古河電気工業の事業機会の拡大が期待できる。また、住友電気工業の場合、23年5月に発表した25年度を最終年度とする中期経営計画の中で、新興EV メーカーへの納入に言及している。野村では同社の技術力を踏まえるとEV 企業との取引が新たに拡大する可能性が高いと予想している。

さらに、住友電気工業は電動車の駆動モータに使用される平角巻線、パウチ型の電池の電極リード線で世界シェアが高く、将来の収益貢献が期待できる。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 松本 裕司)

※野村週報 2023年7月31日号「産業界」より

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