YCC運用の柔軟化による事実上の修正

日本銀行は7月28日の金融政策決定会合で、長短金利操作(YCC、イールドカーブ・コントロール)の運用をより柔軟にする決定を下しました。これは事実上、YCCの修正という形となりますが、一部の運用ルールはそのまま維持されています。10年国債利回りの誘導目標はこれまでと同様に、「0%程度+/-0.5%程度」とされました。しかし、指し値オペ(公開市場操作)による10年国債利回りの厳格な制御水準は、以前の0.5%から1.0%に引き上げられました。

日本銀行は、YCC運用の柔軟化には以下の狙いがあると説明しています。一つ目は、まだ2%の「物価安定の目標」が持続的かつ安定的に達成されていないため、金融緩和を強力に継続することです。二つ目は、経済や物価についての不確実性が非常に高い中で、YCCの運用を柔軟にすることで、金融緩和の持続性を強化することです。

今回の決定会合を考慮に入れた野村の金融政策のメイン・シナリオ(実現確率60%)では、2024年の春闘で2023年と同等の賃金上昇が実現すると仮定し、2024年の前半(同年4-6月期が有力)に、マイナス金利とYCCの撤廃が行われると予想しています。ただし、量的引き締め(QT)やプラス金利政策は、少なくとも2024年に向けては想定していません。

<日本株への影響>日本株には悪材料出尽くしの側面

この新たな措置により、植田和男総裁は「ハト派的(金融緩和に積極的)」であるという安心感が弱まる可能性がある点には注意が必要です。日経平均株価の下値目途については、もしすべての指数先物の投機ポジションが巻き戻される場合、31,000円が目安となるでしょう。

ただし、昨年12月の「黒田ショック」に比べると、日本株への悪影響は短期的に収束する可能性が高いと考えています。その理由は、次の三つです。1つ目は、翌日物金利ターゲットの早期利上げとは必ずしも直結しないという認識が広がっていること。2つ目は、米国や欧州の利上げ局面が最終段階に近いため、海外からの金利上昇圧力がそれほど強くないこと。3つ目は、日本国債の名目金利上昇がインフレ期待の上昇を伴っているため、実質金利は大幅なマイナス圏で安定していることです。

さらに、10年国債利回りの上限に余裕を持たせたことで、「当面、日銀のタカ派化(金融引き締めに積極的)リスクは悪材料出尽くし」という解釈も可能になりました。野村では、2023年末の日経平均を34,000円、同年末のドル円レートを130円と予想しています。もとより円高方向を想定しており、今回の政策修正を考慮に入れても、日本株に対する基本的なシナリオは維持できると判断しています。

(FINTOS!編集部)

要約編集元アナリストレポート①「日本銀行金融政策決定会合 – YCC運用の柔軟化による事実上の修正(2023年7月28日配信)」(プレミアムプラン限定)

要約編集元アナリストレポート②「日銀「柔軟化」で日本株には悪材料出尽くしの側面 – 昨年12月の黒田ショックとの違いは大きい(2023年7月28日配信)」(プレミアムプラン限定)

(注)画像はイメージ。

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