3つの理由から半導体材料に注目

野村では以下の3点から、日本の半導体材料を注目サブセクターとしている。

第一に、半導体材料の需要が循環的な反転局面に近づきつつある。例えば代表的な半導体であるDRAMでは、生成AI(人工知能)用途でDDR5やHBMなどの高性能メモリに需要拡大の兆しが見られる。汎用向けのDDR4についても、DRAM メーカーの減産が寄与し、スポット価格が下げ止まりつつある。また、ファウンドリ最大手TSMCが2023年7~9月期売上高の見通しについて前四半期比で増収になると公表した。半導体需要回復の確度は以前より高まりつつあると我々は判断している。

第二に、日本の半導体材料メーカーは、高感度、高解像度が求められる製品開発や製造時の温度・湿度や不純物管理など多岐にわたる総合的な技術力を保有し、高い製品競争力や世界シェアを有する。日本の半導体メーカーが高い世界シェアを有していた1970~80年代からのブラックボックス化された技術の蓄積効果が大きく、また微細化や多層化といった半導体の技術革新が今後も進むと見られることから、今後も日本企業が技術優位性を維持し続けると我々は考えている。また、製造工程によって使用される材料が異なるため各製品がニッチな市場となりやすいこと、高付加価値な製品が多いため収益性が高いこと、中長期的に半導体市場拡大の恩恵が見込まれることから、中堅化学メーカーにとっては特に魅力的な市場であると考えている。

第三に、日本政府が経済安全保障等の観点から半導体サプライチェーンに関する助成等を積極化している。例えば、7月14日にSUMCO のウエハ新工場に対して最大750億円を補助すると発表した。また、レゾナック・ホールディングスが6月16日にSIC(炭化ケイ素)ウエハやエピタキシャルの工場において最大助成額103億円の認定を受けた。民間独自の取組だけでは実現が困難であること、300億円以上の投資規模になること、導入する設備・装置の性能が先端的であることが助成の条件となっており、今後もこうした動きが継続する可能性がある。政府が支援する可能性のあるセクターという観点ではバリュエーションの切上げ要因になる可能性もある。

材料ではレジスト関連や封止材に注目

野村では、日本企業が競争力を誇る半導体材料の中でも特に日本企業の世界シェアが高いフォトレジスト関連材料、用途の拡大が見込まれる封止材に注目している。

半導体フォトレジストは半導体前工程で用いられ、ウエハの表面に画像層のパターンを形成するために必要とされる。フォトレジストは高感度、高解像度、高コントラストといった性能が求められ、半導体ウエハや半導体ガスなど他の半導体材料と比べて新興企業の参入障壁が高い。JSR や東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムホールディングスなどの日本企業が世界で高い市場シェアを誇る。また、微細化や多層化の進展で、主力のArF やEUVレジストは半導体材料の平均的な需要よりも高いペースで市場が成長してきた。参入障壁が高く、市場成長性も高いフォトレジストは他の半導体材料よりも売上や営業利益の成長性が高いと判断している。

また、フォトレジストの原材料についても日本企業が高い市場シェアを有している。フォトレジストは感光性材料・樹脂・高純度溶剤を調合して製造されるが、フォトレジストの性能を決定づける材料が感光性材料である。半導体微細化に伴い、より短い波長の光源にも反応できる感光性材料の開発が進められている。半導体フォトレジスト用の感光性材料では東洋合成工業、ADEKA などの日本企業が高い市場シェアを有する。最先端EUV レジスト向けが牽引し、フォトレジストと同様に感光性材料も高い市場成長を見込む。

後工程材料では、封止材に注目する。封止材は半導体チップを外部の熱や衝撃から保護する樹脂材料であり、住友ベークライトが世界シェアで首位を誇る。過去には半導体チップの小型化によって封止材の使用量に減少傾向が見られたが、直近では半導体小型化の影響は一巡し、今後は自動車向けで販売拡大が見込める局面だと考えている。自動車向けでは車載半導体の封止材に加え、モビリティ戦略製品などの用途拡大が増収に寄与すると見る。モビリティ戦略製品とは、半導体封止で培った技術を活かし、新規用途である自動車の封止用途に使用される封止材である。モーター磁石固定用やパワーモジュール封止用など、EV(電気自動車)生産台数の増加に伴いモビリティ戦略製品の販売も中長期的な拡大を見込む。スマートフォン・PCなどの情報通信向けと比較して需要変動が小さい自動車向けの売上構成比が上昇するため、業績の安定性が高まると評価している。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 番 大輝)

※野村週報 2023年8月7日号「産業界」より

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