WTI が80ドル近辺へ上昇

5月から6月にかけて上値が抑えられていた原油価格が、7月に上昇する展開となった。WTI(米国軽質原油)期近物先物価格は、6月下旬の1バレル当たり70ドル弱から7月末には80ドル強へ上昇した。こうした原油価格の上昇に、持続性があるかが注目される。

5月から6月にかけては、欧米の銀行の経営不安、米国連邦政府債務上限問題、景気を悪化させかねない欧米の利上げ継続に対する市場の警戒、中国景気低迷継続の可能性に対する市場の懸念等が原油価格を抑えた。原油需要の弱さが警戒された。

他方、OPEC(石油輸出国機構)と非OPEC 主要産油国で構成されるOPEC プラスに関しては、5月からサウジアラビア等の一部の参加国が自主的に追加減産を行い、6月4日に開催されたOPEC プラス閣僚会合では、2023年末までとされていた原油減産の協調期限を24年末まで延長することが決定された。また、サウジアラビアが7月に更に日量100万バレルの自主的な追加減産を行うことを発表した。しかし、こうした施策が原油価格を下支えしたものの、押し上げるには至らなかった。

ただし、6月には欧米の銀行の経営不安に関しては他の銀行による救済が進んだ他、米国の連邦政府債務上限が停止される等、5月に原油の上値を抑えていた要因の一部が取り除かれ始めていた。そして7月に入り、サウジアラビアが自主的な追加減産を8月も継続すると表明した他、7月後半に中国政府が景気対策にやや積極的な姿勢を示し始めたことを背景に、原油価格は上昇圧力を受ける展開となった。中国の原油需要の拡大が市場で期待された。

中国景気が原油価格の鍵を握る

OPECプラスは今後も、協調した減産体制を維持すると見られる。ただし、新型コロナ禍の下で原油価格が大きく下落した際に、サウジアラビア等が強力な減産を行ったが、減産は原油価格を下支えしたものの、強く押し上げることは困難であった。原油価格の基調的な方向性を決めるのは、原油の需要動向となろう。

欧米の利上げによって、欧米景気がある程度減速することは、原油市場で概ね織り込まれた状態と見られる。そして、欧米の利上げは最終段階に至ったと推察され、欧米の金融政策や景気動向が今後、原油価格を押し下げる可能性は低下したと見られる。もっとも、そうした欧米景気が原油価格を押し上げることは考え難い。

そこで原油価格を動かす可能性があるのは、中国景気であろう。7月17日に中国国家発展改革委員会は、内需の拡大等を通じて経済成長を加速させる考えを示した。そして7月24日に中国共産党中央政治局会議で、自動車や電気製品、家庭用品などの分野の消費をてこ入れする他、不動産セクターの支援も拡大することが決定された。こうした中国の景気刺激策の発表を受けて原油価格は上昇したが、今後は、中国の景気対策が実際にどれだけの効果を持つかが原油市場で注視されることとなろう。

野村では中国の23年年間の実質経済成長率を5.1%と予想している。中国政府の経済成長目標である実質約5%が達成されると見込んでいる。野村の予想通りとなれば、中国の原油需要は順調に増加し、世界の原油需給は、OPEC プラスが増産へ転じない限り、23年後半には供給不足になると想定される。この場合、原油価格には更に上昇圧力がかかり、7月に約10ドル上昇して1バレル当たり80ドル強へ達したWTI 価格が、90ドル台へ向かう可能性が高まろう。

もっとも原油市場では、中国の景気対策が不十分になる可能性が警戒されている。中国政府は政府目標を超えて経済が成長し、景気が過熱することを回避するため、景気刺激を慎重に進めると見られる。このため、景気刺激策が控えめなものにとどまることもあり得、その場合には、中国景気の回復力が弱いままとなり、原油需要が伸び悩みかねない。世界の原油需給が引き締まらず、再び原油価格が下押しされることもあり得よう。中国の景気対策が世界の原油需給を引き締める効果を持つかが、原油価格の方向性を左右することとなろう。

(野村證券経済調査部 大越 龍文)

※野村週報 2023年8月14日号「焦点」より

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